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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第七章 変わり過ぎた日常

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秘密の打ち明けと偽りの契約

 転移させられた場所は多分、領主の館だと思う。

それにしてもどうやってあの一瞬で転移の魔術を発動させたのか、ぼくでは魔力の動きが見えなかったから理解が出来ない。


「レースさん、適当な椅子に座ってください」

「あぁうん……」


 とりあえず部屋の中にあるソファーに座ると、対面にソフィアが腰を下ろす。


「さてレースさん、決闘に至るまでの経緯を改めて教えて貰える?」

「分かった、実はさ……」


 寮であった事を自分なりに詳しく説明するけど、ソフィアに話してる間に何となくだけど自分の行いが大人気なかった気がしてくる。

あんな小さな子の発言を真に受けて何をしているのだろうか……。


「その顔、自分が大人気無かったと言いたげだけど、好きな人に対して怒るのは当然だと思うからしょうがないと思うわよ?」

「……え?」

「レースさん、まさかだけど私が怒ると思ってたの?」

「その為にここに呼ばれたのかと思ってたけど?」

「この位で怒りはしないわよ、むしろお姉ちゃんとしては安心したくらいかなぁ、レースくんが誰かの為に怒ったり出来るようになったんですよ?」


 確かに昔のぼくだったら気にしなかったとは思うけど、喜ばれる程なのだろうか。

それに怒られた方が正直気付いた事に関して反省できるから、出来れば何かを言って欲しかったというのが素直な気持ちだ。


「まぁ、とりあえず内容は分かったけど、レースさんはミオラーム様を見てどう思ったの?」

「可哀想な子だと思った、あぁやって我が儘を押し付けないと誰にも構って貰えなかったのかなって」

「成る程、可哀想って思ったのね、でもねレースさん、本来の彼女は賢王の名に相応しく、聡明な女の子だったの……、この意味があなたには分かる?」

「多分だけど、神を封印するのに適正や能力が足りてなかった?」

「……それって誰から聞いたの?、レースくんの妹で現覇王のミュラッカ様から?」

「いや……、違うけど知った経緯を話さないようにある人と約束してるから言えないんだ」


 本当はソフィアにマリステラの事を話したいけど、そんな事をして彼女との約束を破ってしまったらどうなるのかぼくには分からない。


「なら言っても誰にも見えずに、そして聞こえないようにすれば良いかな?」

「出来るの?」

「昨日は作ったから出来ますよ?」

「作ったって……」

「私はこの国の魔王ソフィアですよ?、それに【叡智】カルディア様の一番弟子です、きっかけさえあれば新しい魔術を作るくらい難しくありませんよ?、……ではやりますね」


 ソフィア体が光ったかと思うと部屋全体を白い霧が覆って行き、ぼく達以外何も見えなくなる。

それと同時に外から聞こえていた、鳥の鳴き声等の音が何も聞こえなくなり、一瞬で世界が静寂で包まれた。


「ではお話をと言いたいのですが……、レースさんあなた何に憑かれてるんですか?」

「え?」

「……隣に座っている修道服を着てる人型の事です」

「とな、り?」


 ソフィアが指差している先を見ると白い霧がそこだけ立体的な人の形になって避けている。

この姿は一度だけ見覚えがあるけど、もしかしてぼくがあの時の事を誰かに話さないようにずっと関していていたのかもしれない……


「あ、どうしてここに……」

「どうやら訳ありみたいですね、私の可愛いレースくんに悪戯するような存在はこうですよ?」


 白い霧が人型を包む混むとそのまま外に運んで行く。

身体を激しく動かして抵抗しているけど、拘束を振り解く事が出来ないみたいで暫くすると完全に見えなく無くなってしまった。


「……気配も消えましたしこれでいいですね、もう話していいですよ?」

「マリステラから聞いたって言ったら分かる?」

「レースさん、あれと遭遇したんですか?」

「実は……」


 ソフィアにストラフィリアで起きた出来事を話すけど、シャルネの部分は相変わらず言葉にする事が出来ないでいる。

ただそれでも何とか伝わったのか、難しい顔をした彼女は何処からか机の上に紙を取り出してそこに自分の名前を書き始めた。


「その紙は?」

「これは呪術を使って契約を交わすのに使う触媒です、この紙に名前を書けばその瞬間から私達が話した事は両者の合意が無ければ誰にも話す事が出来なくなります」

「それってどういう事?」

「詳しくはレースさんが限界へと至ったら私かカルディア様のどちらかからお話しすると思います」

「……なら頑張らないとね」


 限界に至らないと教えて貰えない事が多い気がする。

もしかしたら、Sランク冒険者の人達と同じ位の強さになるという事自体に何等かの意味があったりするのかもしれない。


「とりあえずどうしてレースさんが事情を知っているのかは分かったので、名前を書いてください、こうする事であれも安心して干渉してくる事はもうないでしょう」

「……分かった」


 触媒用の紙に【レース・フィリス】と名前を書いてソフィアへと渡す。

マスカレイドが作った偽装の魔導具では無いから正直意味が無いけど、彼女はその事情を知らないと思うからこれでいい。


「確かに受け取りました、レースさんこの事は私達だけの秘密と言う事でお願いします」

「……うん、分かったよ」

「ではこれでお話しは終わりです、冒険者ギルドを通した賢王ミオラーム様の護衛は予定通り来週からなので宜しくお願いしますね?」

「色々と心配だけど出来る範囲で頑張るよ」

「レースさんなら大丈夫ですよ、ではお家に送りますね?」


……そう言ってソフィアがぼくに触れると視界が一瞬にして自分のリビングに変わる。

気付いたら外はもう夕方で、ダートがいないのか家の中は静かで何て言うか寂しくなってしまう。

取り合えずいつ帰って来てもいいように夕飯を作ろうと思っていると玄関を叩く音がして、こんな時間から誰だろうかと思いつつ扉を開けるとそこにはアキラさんとジラルドの姿があるのだった。

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