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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第一章 非日常へ

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亡骸

ダート視点です。

 亡骸から切り離された蛇が俺の首を狙って飛び掛かって来た。

あいつの声で気付いて咄嗟に振り向いたがこれは防御が間に合わない。

あぁ…、これは死んだなと察して恐怖が体を硬直させる。

心臓が高鳴り息が苦しくなる、そんな俺に死の音が迫って来た。


「ダートさんっ!」

「なっ!」

 

 勢いよく俺の身体が突き飛ばされる。

受け身も取れず地面を転がりながらなんとか立ち上がり咄嗟に声を荒げあいつに怒鳴ってしまう。


「おまえっ!なにやっ……っ!?」


 目の前の光景に声を失う。

倒れ伏したあいつの首に蛇が食らい付き息絶えているのもそうだが、あいつも倒れたままどう見ても息をしていない。

寄りにもよって冒険者の俺が護衛対象に守られるばかりか死なせてしまったとか笑えない冗談だ。

あいつと……レースさんと出会ってまだ二日目で正直私とは知り合ったばかりの赤の他人で、そんな私をかばう意味なんてないのにどうして?私を助けてくれたの?

私の中で、現状を理解する事が出来ずに思考がぐるぐると周り理解をしかけてはまた否定を始める。


「なんで……どうして……」


 この世界に来て、唐突に知らない世界に投げ出されて助けてくれたのはカルディアさんと------さんと二人いたけれどあの人達は私にこの世界で生きる為の能力を授けてくれた恩人であって特別親しいわけでは無い。

……初めて友達になれそうな人に出会えたのに目の前で死んでしまった。

何で死んでしまったの?……冒険者をしている以上は誰かの死を見るのは良くあることで慣れている。

でも、私は取り乱してしまってその事実を認める事が出来ないでいる。


「ねぇっ、起きてよっ!ねぇっ!レースさん!」


 彼を体を激しく揺する。

答えなど返ってくるわけがないそれでも声を聴きたいと思ってしまうのはおかしい事でしょうか?……私はこの世界に来てから強くなった筈なのにこんなにも一人になるのが恐ろしい。


「そうだ……、この蛇を首から外せば……」


 きっとレースさんの首に食い付いている蛇が悪さをしているに違いない。

魔術で取り除かきゃ…、私は短杖に魔力を込めてレースさんの首元に近づけていく。

蛇の頭周辺の空間に穴をあけて真空状態を作り、蛇の亡骸を空間が元に戻ろうとする力で強引に引きはがした。

……少しレースさんの首の肉が抉れて出血してしまったけど大丈夫だろうか?


「ねぇ、なんで起きないの?」


 それでもレースさんは起きてくれない。

どうすれば良いのでしょうか……、焦りから呼吸が荒くなり目の前がどんどん暗くなっていく。

私は何かを間違えてしまったのでしょうか、どうすればレースさんは目を覚ましてくれるのでしょうか。

思考にモヤがかかって行く中で感じる……今の私はきっと正気ではないのだろう。

情けない、無力な私が情けない…何が泥霧の魔術師だ…、何が冒険者ランクAだ。

そんなものがあっても私は無力な子供でしかなくて……、悔しさに涙が溢れてしまい目の前がぼやけて最早まともに前を見る事すら出来ない。


「何で起きないのって言われましても……、ただ意識を失ってただけなんですけど」

「……え?」


 亡骸から声が聞こえる。

どうして?何をしてもどんなことをしても応えてくれなかったしどう見ても死んでいたはずだ。

それが意識を失っていただけ?この人は一体何を言っているのでしょうか。


「レースさん……?」

「なんか妙にしおらしいですね……どうしました?」


 死んだと思っていた。

もう話す事すら出来ないと思っていたレースさんが不思議な物を見るような顔で私の顔を見つめてくる。

暗示をかけて、この世界の私になろうとするけれど動揺で魔力が乱れて使う事も出来ない。


「生きて……る?」

「えぇ、生きてますよ?」

「え……?モンスターに噛まれていたのになぜ…?首の傷も抉れていたのに無い…?」


 あそこまで重症だったのに傷が一つも付いていない、一いったい何があったのか。

カルディアさんですら傷を治すのに数日かけるというのにレースさんには傷一つ残っていない。


「それは…そのぼくが治療術師ですから」

「レースさん!」

「えっ!?」


……理屈はわからないけれどそんな事は今はどうでも良い。

ただ感情のままに私はレースさんを強く抱きしめてしまう。

彼が生きている……そのことがただただ嬉しくて感情が溢れてくる。

今はただこの喜びに浸っていたかった。


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