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石田三成異世界転生第二章(おとか外伝第二部)  作者: 水渕成分


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第二章「敵は己自身?」の拾仈


 「ミツナリ」と「やこ」の会話が終わった頃、シンが前に飛び出した。

 「『ミツナリ』様っ」


 「ミツナリ」は笑顔になった。

 「おおっ、『シン』ではないか。元気そうで何よりだ。今は佐吉の下にいるのか?」


 「はっ、佐吉様の下で事務方取りまとめ役を務めさせていただいております」


 「そうか。良き(あるじ)につけて良かったな。『シン』は優れた才を持ちながら、気持ちが優し過ぎるところがあって、心配しておったのだ。良かった」


 「『ミツナリ』様っ、佐吉様が良き(あるじ)と分かっておられるのなら、共に佐吉様に仕えませぬか?」


 「むっ……」


 「『ミツナリ』様がこの場で死んでしまうなどとは惜し過ぎまする。わしからもお願いします故、共に佐吉様に仕えませぬか?」


 「ミツナリ」は一瞬考え込んだが、直ぐに微笑を浮かべると言った。

 「『シン』。気遣いはありがたいぞ。だが、それは無理じゃろう。なあ、佐吉」


 わしも頷いた。

 「ああ、無理じゃろうな」


 ◇◇◇


 「ええっ?」

 シンは驚きを隠せなかった。

 「佐吉様は投降をお認めにはならないと」


 「そうではない。わしにも分かってしまっているのだ。この世界の『ミツナリ』の主君は『トウキ』以外にあり得ないとな」


 「さすがは佐吉。分かっていたか。まあ、偽装して佐吉に降り、時機を待って佐吉を斃し、この地を『トウキ』様に献ずる手もあるが……」

 「ミツナリ」は自嘲気味に言った。

 「何故かそれをわしはしたくないのじゃ。佐吉のことが好きなのかもしれん。他の者ならその方法を使っていた」


 「わしも『ミツナリ』が好きなのかもしれんな。『トウキ』以外に従わない危険な『ミツナリ』を他の者には始末させたくない。わし自らでないと気持ちが収まらん」


 「なっ……」

 シンは絶句した。シンには申し訳ないが、絶対、「トウキ」以外に心服しない「ミツナリ」を配下にすることは出来ない。


 かと言ってここで見逃すわけにもいかぬ。見逃したところで盗賊に殺される可能性が高いし、首尾よく逃げられたら、「トウキ」ある限り、今回の何倍も手強くなって、わしの前に立ちはだかるだろう。


 わしも道楽で(いくさ)をしているのではない。わざわざ敵を強大化させて、我が配下を死なせるわけにはいかぬのだ。


 ◇◇◇


 「『ミツナリ』! 死ぬ気かっ? そんなのは嫌だぞっ!」

 「やこ」の悲鳴に似た叫び声が上がる。


 「『やこ』。勘違いするな。わしは最後まで死ぬ気はないっ!」

 「ミツナリ」はおもむろに抜刀する。

 「ただ、わしに最後までついてきてくれた者たちをわしの過酷な運命に巻き込みたくないだけだっ! いくぞっ! 佐吉っ!」


 「うおおおおーっ」

 「ミツナリ」はまだそんな力が残っていたのかと信じ難いほどの力で刀を振り上げ、わしに向かって突進してきた。


 わしは無言のまま槍を構え、急所を狙う。これがせめてもの「ミツナリ」への敬意だ。


 ◇◇◇


 ドスッ


 わしの槍が「ミツナリ」の体を貫いた。


 だが、わしは失敗した。わしが突いた槍はわずかに急所を外したらしい。


 「うぐっ、うぐおお」


 「ミツナリ」の(うめ)き声に、わしは思わず周囲に声をかける。

 「いかん。誰か止めを刺してやれ」


 「まっ、待て……」

 「ミツナリ」はそんなわしを制した。

 「最後に……一言だけ……言わせてくれ……『やこ』は……配下にしても……逃がしてもいい……殺さないでくれ……」


 わしは頷いた。

 「分かった。約束する。おい、誰か止めを刺してやれ」


 わしは槍を持っているため、止めを刺すことが出来ない。止めを刺すことを促すも、さすがの精鋭たちも「ミツナリ」の気迫に押されてか、一歩を踏み出せる者が出ない。


 しゃあー


 その時、橙色の影が前をよぎった。


 あっけに取られているとその影が通った後、「ミツナリ」の首筋から凄まじい量の血が噴き出した。


 そして、どおという音とともに「ミツナリ」は倒れた。


 おとかだ。狐体になったおとかが「ミツナリ」の頸動脈を噛み切ったのだ。


 わしは狐体のおとかに頭を下げた。

 「すまなかったおとか。嫌な仕事をやらせて」


 おとかは狐体のまま首を振り、そして、言った。

 「今回のこと、佐吉が一人で背負うことはないよ。私も一緒に背負う」


 ◇◇◇


 「殺せっ! おとかっ! 私も『ミツナリ』のように殺せっ!」


 見ると胡坐をかき、腕組みをした「やこ」が座り込んでいる。


 「そうはいかん。わしは『ミツナリ』と約束した。『やこ(おまえ)』は殺さないと」


 「佐吉には聞いとらん。おとかっ! 私も『ミツナリ』のように殺せっ!」


 おとかは狐体のまま、半ば呆れたように言う。

 「佐吉もああ言ってるし、私も『やこ(あんた)』を殺す気はないよ」


 「どうせ殺されるなら、同族の『おとか(あんた)』がいいっ! 殺せっ!」


 「殺す気はないよ。それより私らの仲間にならないか?」


 「ふざけるなっ! だれが『ミツナリ』を殺した貴様らの仲間になんかなるかっ! とっとと殺せっ!」


 「仲間になる気がないのは分からんでもない。ならばどこぞに落ち延びよ」


 「『ミツナリ』がいないこの世界で生き延びてもしょうがない。私は『ミツナリ』を追いかけていく。とっとと殺せっ!」


 あ……合点が行った。思わずわしとおとかは顔を見合わせた。そういうことか。


 「あのな『やこ』。死ねば『ミツナリ』と同じところに転生できると思い込んでないか?」



 

次回最終第19話は7/15(木)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミツナリさん、最期までかっこよかったです。 やこを説得できるかどうか、ですね。転生って単語出しちゃってますけど……。
[一言] ああ! ミツナリが…… ><。 少し悲しいです (´・ω・`)
[一言] 『ミツナリ』の生き様は、まさに武士って感じですねえ( ˘ω˘ )
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