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石田三成異世界転生第二章(おとか外伝第二部)  作者: 水渕成分


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第二章「敵は己自身?」の拾陸


  ヒョーゴ殿の問いにわしは少し考えてから答えた。

 「基本的に投降は受け入れる。但し、敵の奸計もあり得る。武器は完全に捨てさせ、一か所に集めておいて、見張りもつける。敵が完全に戦意を失っているかどうかは『突撃隊』の者に見させろ。戦意を失ってない者には十分気を付けることじゃ」


 「分かり申した」

 ヒョーゴ殿は頷いた。


 その日の昼過ぎ、ヒナイの隠し(とりで)の攻略に向かうであろう部隊が出発した。残った部隊は薄くここの(とりで)を取り囲んだ。


 敵の数が大きく減ったのは一目瞭然だった。そして、その日は暮れて行った。


 ◇◇◇


 真夜中、敵の陣から怒号が聞こえた。剣戟の音らしきものも聞こえる。


 すぐに、おとか、ヨク殿、ヒョーゴ殿がわしの部屋に駆け込んで来た。


 「おとかっ! すまんが『遊撃隊』の者と共に敵の様子を見て来てくれ。ヨク殿とヒョーゴ殿は兵を皆起こしてきてくだされ」


 「分かった」

 「はっ」

 「あいよ」


 一番懸念されるのは、敵が戦況をひっくり返すため、一か八かの夜襲をかけてきた場合だ。


 戦意の落ちている敵に夜襲をかける力があるかどうか分らぬが、戦況の逆転を招かぬとは言い切れない。


 しばらく経った後、酷く落ち込んだ顔をしたおとかが帰って来た。


 さすがにわしは青ざめた。おとからしくない。何かこちらの予測していないことが起きたのか?


 おとかはようやくという感じで言葉を絞り出した。

 「ここの(とりで)にとっては悪いことではないよ。だけど……」


 ◇◇◇


 「どうしたのだ?」

 わしは努めて穏やかな声で問いかけた。


 それに対し、おとかは何かを振り切らんかのように首を振り、そして話し出した。

 「敵のあの騒ぎの元は『内輪もめ』だ」


 それなら予測の範囲だ。何故おとかはそんなにも落ち込む?


 「騒ぎを大きくしたのは……『やこ』だ……」

 

 やこ? おとかと同族のあの「ミツナリ」の護衛をしている狐か?


 ◇◇◇


 「『やこ』が、夜陰に乗じて脱走しようとする兵たちを見つけたそうだ」


 「……」


 「『やこ』は激怒し、夜陰に乗じて脱走しようとする兵たちを罵ったそうだ。『ミツナリが奥の(この)郡に太平をもたらそうとしているのに、何故お前たちは逃げ出そうとするのだっ! この人でなしの恩知らずがっ!』と」


 「……」


 「売り言葉に買い言葉。『やこ』に罵られた兵たちは、言い返したそうだ。『ミツナリは名君だと思っていたが、年貢は高く、納められない者を無理矢理戦に動員したのはひどい』『ミツナリが戦下手だから郡府(ぐんぷ)を焼かれてしまったではないか』『ミツナリに受けた恩など知らぬ。ここにいては殺されてしまうから逃げる』などと」


 「……」


 「そして、それらの言葉に『やこ』は激昂し、我を失った。耳は尖り、口は裂け、牙は飛び出し、爪はその鋭さを隠さなくなった。完全に狐体(きつねたい)変化(へんげ)したそうだ。我を失ったまま……」


 「……」


 「そのまま脱走せんとする者たちに次々と襲い掛かった。その爪で顔面を切り裂き、牙は喉笛を噛みちぎった」


 「!」


 「それをきっかけに脱走せんとする者たちと『ミツナリ』の近習の者たちの間で殺し合いが始まった。『やこ』と近習の者に見つかった者は戦いを続け、他は多くの者が脱走したり、こちらに投降したりしている。『ミツナリ』の軍は軍としての態をなさなくなってきている……」


 「……分かった。ご苦労だったな」

 わしはいったんおとかにねぎらいの言葉をかけた。そこにヨク殿とヒョーゴ殿が戻ってきたからだ。


 「佐吉殿」

 先に声をかけてきたのはヨク殿だった。

 「投降したいという者がたくさん来ている。ここだけでなくヒナイの(とりで)にもたくさん来ているとのこと。ここはわしに投降者の受け入れを任させ下さらぬか。ヒナイの(とりで)もヘイザとヨミの兄妹が受け入れを任せてほしいと言っておるのじゃ」


 わしは頷いた。温厚でいて、厳しさも併せ持つヨク殿はこの仕事の適任じゃろう。

 「お願いし申す」


 「佐吉殿」

 今度はヒョーゴ殿だ。

 「サコからこの機に乗じて、『突撃隊』たちと共にヒナイの(とりで)から打って出たいという話が来ておる。そして、ここの(とりで)にいる『突撃隊』たちも打って出たいと言っておる」


 わしはこれにも頷いた。

 「申し出を許す。ただ、投降の意思がある者まで殺さぬよう十分気を付けるよう伝えられよ」


 ヨク殿とヒョーゴ殿は慌ただしく出て行き、残ったのはまたわしとおとかの二人だけになった。

 「待たせたな。まだ言い足りぬのであろう。話してみてくれ。おとか」


 ◇◇◇


 この時、もうおとかの顔は半泣きだった。

 「ありがとう。佐吉」


 「なんじゃ水臭い。おぬしとわしの仲ではないか。何でも申してみよ」


 「ん。じゃあ言う。今回、『やこ』がやったことは明らかに誤りだとは思う」


 「脱走しようとした者たちに襲い掛かったことか?」


 「ああ。怒る気持ちはわかるが、落ち着いて説得すべきだった」


 「うむ」


 「だけど、だけどな。私には『やこ』の気持ちが痛いほど分かるんだ」


 「……」


 「私も佐吉の軍から佐吉を罵りながら脱走しようとする者を見つけたら、『やこ』と同じことをしてしまうかもしれない。いや……」


 「……」


 「きっとしてしまうだろう」


 「……うむ」


 「?」


 「わしもな…… 今の『ミツナリ』の気持ちが分かるのじゃ」


 「そうなのか」


 「ああ。『ミツナリ』に此度(こたび)(いくさ)、負けるはずのないものであったし、それにな……」


 「それに?」


 「ここまで『裏切り者』が出るなんて夢にも思わなかったろうな」


 「あ……」


 「『ミツナリ』は関ヶ原の大戦(おおいくさ)の時のわしじゃよ」


 「……」


 


 

 

 

次回第17話は7/13(火)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] やこ……。 なんかちょっと、後味の悪い内輪揉めですね。 戦況は有利になりましたけど……。
[一言] ミツナリの正体は……。 裏切り者に対して起こるのは当然ですからね。 特に負けていたら気が立っているでしょうしね……。
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