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石田三成異世界転生第二章(おとか外伝第二部)  作者: 水渕成分


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第二章「敵は己自身?」の拾弐


 「佐吉が砦を構えたのは、悪政に民が苦しんでいたからだ。おまえの(あるじ)は以前の郡司(ぐんじ)と同じく重い年貢を民にかけ苦しめている暴君だ」


 「『ミツナリ』が暴君だとっ! 取り消せっ!」

 やこは叫び声と共におとかに飛びかかった。

 「『ミツナリ』はご主君である『トウキ様』に忠を尽くし、民を愛し、百姓に我ら眷属を大事にするよう命じた名君だっ! 毛皮目的で私のお母さんを殺した猟師を罰し、私を育ててくれた恩人だっ!」


 おとかは自分より体格が一回り小さいやこをがっちり受け止めながら呟いた。

 「そうか。『ミツナリ』も我ら眷属を大事にしてくれていたのか……」


 それを聞いたやこはおとかにかける力を緩める。

 「やっと分かったか。では、砦を開き、『ミツナリ』に従えっ!」


 「それは出来ないな」

 おとかは力を緩めたやこを振りほどいた。

 「私は佐吉についていく。そのためにここに来たんだ。佐吉が砦で民を守る以上、砦を開く訳にはいかない。同族で争いは出来るだけしたくないけどね」


 腕を組んでおとかとやこの様子を見ていた「ミツナリ」は言った。

 「やこ、ありがとう。じゃが、交渉決裂のようじゃな」


 わしも頷いた。

 「おとか、すまなかった。そのようじゃ。戦は避けたかったが、開城以外の選択肢がないのであればやむを得ぬ」


 わしらは「ミツナリ」たちに背を向けないよう注意しながら陣営を出た。


 「次に会うのは戦場(いくさば)じゃ」

 それが「ミツナリ」の見送りの言葉だった。 


 ◇◇◇


 砦でも戦への準備は大急ぎで進められた。砦の補修。弓矢の製造。獣の捕獲数を増やし、兵糧の備蓄を多くする。前線の三の丸に水を多く用意し、敵の火矢の攻撃に備える。前回、煮た糞尿を浴びせたことに加え、今回は豊富に用意された油も煮て、敵兵に浴びせる準備。通常の訓練の増強ももちろんである。


 「砦内部の士気は?」


 「良いようですな。やはり、砦での暮らしを知った者はもう元の村の暮らしには戻りたくない。『ミツナリ』が重い年貢を取ったのも効いているようですな」

 わしはヨク殿の言葉に頷いた。


 「敵の様子は?」


 「郡府(ぐんぷ)は大騒ぎだよ。他の郡から凄い量の兵糧や武具が運び込まれている」

 こちらは「遊撃隊」を率いるおとかの担当だ。

 「伊達に都の有力者『トウキ』のお気に入りじゃないみたいだね。だいぶ援助もされてるみたいだよ」


 「ふん」

 わしは鼻を鳴らした。こんなところまで、かつてのわしのようだ。

 「それだけ援助を受けたということは、逆に負けられぬ戦ということになる。『ミツナリ』は相当の精神的重圧を受けているはずじゃ。で、援軍も来てるのか?」


 「全く来ていないということもないだろうけど、多くはないようだね」


 「じゃろうな。この程度の砦を包囲するとなると、あまり大軍で来ても遊兵が出るだけじゃ。無駄飯を食わせることになる。敵はどのくらいになりそうか分かるか?」


 「まだちょっと分からない。でも、また今回も郡府(ぐんぷ)は総動員。それに加えて、年貢の未納がある村の者を徴集している」


 「やはりか」

 わしは大きく溜息を吐いた。

 「播種用の大豆の貸付利息を三割にする。堆肥を使うことや『かんぼじあ』の栽培を許す。盗賊を退治するといったことを次々やって、村人たちに年貢も減免してもらえるのでは期待させておく。で、実際には全く減免しない。年貢が納められない。なら、砦攻めに加われ……か」


 「汚い手使うね。『ミツナリ』は……」


 「いや」

 わしは(かぶり)を振った。

 「きっと悪意はないのじゃ。『ミツナリ()』は『ミツナリ()』なりに民を大事にしている。それが……」


 「それが?」


 「『トウキ』とやらへの忠誠へは遥かに及ばぬだけじゃよ。『トウキ』のためなら民も犠牲にする」


 「……」


 そう、かつてのわしが何より「太閤殿下」「秀頼公」を大事にしたように……


 じゃが、今のわしは違う。最も大事なのは「民」だ。これは……譲れぬ……


 ◇◇◇


 おとか率いる「遊撃隊」が二重三重に確認した敵兵力は約五千。前回の約三千以上。「(こちら)」は約三百が約五百に。計ったように約十倍だ。


 村人を「ミツナリ」の軍に徴集された村の者たちは多くの者が「(わしら)」への怨嗟の言葉を言っているそうだ。


 これはやむを得ないだろう。自力で立とうとしない者に「真の敵」が何か見抜くことは出来まい。そして、気の遠くなるほど長い時間をかけて、「自力で立とうとするな」と民を教え導いて来たのは、「ミツナリ」を含む歴代の郡司(ぐんじ)の方なのだ。


 幸いに「砦」の中にそれを言う者はいない。みなもう知っているのだ。「自力で立つ」ことを。


 「敵の進軍の様子は?」


 「もう主力は郡府(ぐんぷ)を出て、村々で徴集した者を合流させながら、『(こっち)』に向かってきてるね」


 おとかと「遊撃隊」は、わしの目と耳として、本当に頼りになる。どうも、「ミツナリ」の方の「やこ」は個人的な戦闘能力は強くても、そういったことは出来ていないらしい。


 「多分、それをやるにはまだ幼過ぎるんだよ」

 おとか曰くそういうことだそうだ。




次回第13話は7/9(金)21時に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 始まりますね、いくさ。 10倍ですか〜。数が全てではないでしょうけどね。 自力で立てないものは、自分たちの本当の敵が何かもわからないんですよね〜。
[一言] >じゃが、今のわしは違う。最も大事なのは「民」だ。これは……譲れぬ…… 佐吉さああああん!!!(ブワッ)
[一言] 相手方のミツナリの年貢は重いのですね。 これなら砦に人が集まりますね!
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