24.領主の館
リッチモンド視点
「レオ、おぬしはこの街に詳しいだろう。スラムまで案内出来るか?」
「はい。ご案内します」
亜人族の街にレオと共にやって来たが、相変わらず殺伐とした雰囲気の街だ。
犯罪が横行し、騎士も自警団も機能していない。
「この街に来ると、カナデ様の村がどれほど素晴らしいのかが浮き彫りになりますね」
「そうだな。……レオ、わしが何故虐げられている者を保護しようと言い出したのか、分かるか?」
「それは、我らのような思いをする者を減らす為ではないのですか?」
「そうだな。それもあるが……わしはな、カナデと共に「離せっ 離してくれ!! あの馬車に息子が乗ってるんだ!!」」
どうやら、ゆっくり話している時間はなさそうだ。
「あれは領主様の馬車だ! そなたのようなみすぼらしい者の子供が乗っているわけないだろう!!」
「領主は、息子を……っ 私の息子を拐って行ったんだ!!」
騎士に捕まり、嘆く男の言葉に、レオは己の手を握りしめていた。
確か、ミミリィも貴族に拐われて舌を抜かれ、奴隷に落とされそうになったと言っていたな。
「レオ、もしやミミリィを拐ったのはこの地の領主か」
「っはい……。アレは領主の皮を被った化け物です。貧民街に生きる民の、見目の良い幼い子供を拐い、喋れぬよう舌を抜いて奴隷にするのです……っ」
「そうか……。これは、まずその領主とやらを何とかせねばならんな」
「リッチモンド様?」
悔し気に唇を噛んでいたレオが、わしの言葉にハッと顔を上げ、見開いた瞳にわしの姿を映す。
「レオ、手伝ってくれるか?」
「はっ 無論です!!」
うむ。良い返事だ。
「では、あの馬車を追うとしよう。おぬしには身体強化と“すてるす、消音”という魔法をかけた。これでわしらの姿は周りから見えんからな。存分に全力で走るがよい」
『は? 声が……っリッチモンド様、それはどういう……』
『遅れるでないぞっ レオ!!』
わしは馬車に追いつく程度の速さで走り出した。
『リッチモンド様!!!?』
『何をしておる! 馬車を見失うぞっ』
呆然としているレオに叫び(消音の魔法がかかっているので、耳に届いてはいないと思うが)、わしは馬車を追う。
わしの口の動きを読んだのか、レオが追いついてきたので頷いておいた。
『急に走り出さないで下さいっ』
『ん? しかし、馬車を追わねばなるまい』
『この馬車なら領主の館に行きますから、追う必要はないですよね!?』
『おお、そう言われればそうだな!』
ハッハッハと笑えば、レオは呆れたようにわしを見た。
逃げるものを追うのはドラゴンの習性。仕方がなかろう。と適当な事を言って誤魔化しておく。
暫く走り、領主の館とやらに辿り着く。
館の大きさはウチよりは大きいが、トイレは“うぉしゅれっと”ではないだろう。お風呂も自動で入れたり出来ないはずだ。
『レオ、先ずは先程の男の息子がどこに連れて行かれるのか、確認せねばならん』
『はい』
わしらは、馬車から子供を連れた者が出てくるのを待ち、出てきた男と、それに抱えられた子供の後について館へと潜入したのだ。
『地下に行くようですね……』
『うむ』
地下に続く階段を下り、薄暗い中を進む。
すると、
『鉄格子……』
レオが、地下に広がる牢屋の一つを見て呟いた。
『レオ、中に人が居るぞ』
『!?』
牢の中では、数人の子供達が固まって震えていたのだ。
『こんな事が……っ こんな事が、何故許されているッ』
『落ち着け。この子達はカナデの村に連れて行く。しかし今は、先程連れて来られた子供を追うのが先決だ』
『……はい』
「ぃやだぁ!! やめて……っ」
そこへ、先程の子供の声だろう絶叫が聞こえ、私達は急ぎ向かったのだ。
そこで見たのは、男が何かの器具を使い、子供の舌を抜こうとするおぞましい光景だった。
『っその子を、離せェェェ!!!!』
わしが止める間もなく、男を殴り飛ばしたレオに、もう少し冷静に事を進めろと苦言を呈し、子供の傍へと近付いた。
子供は突然吹っ飛んだ男に驚いて固まっていたので、自身とレオの魔法を解き、姿を見せたのだ。
「だ、誰!!?」
「驚くのも無理はないがなぁ……」
チラリとレオを見て、説明を任せる。
わしよりは亜人族のレオの方が子供も安心するだろうしな。
「……安心しなさい。助けに来た」




