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13 休日の過ごし方

 ブルーノさんたちと別れ、正午を回るまでにみんなが待つ宿へと戻ってきた。

 部屋に入ると、まずベッドでアンヤを抱きしめたまま静かに寝息を立てているノドカの姿が目に入った。

 彼女は朝に一度起きてダンゴの髪をセットしていたのだが、また眠ってしまったようである。


「ただいま!」


 最初にダンゴが元気よく部屋へと入っていった。

 寝ている子がいるから静かに……と言おうとしたが、ノドカはそんなことを気にするはずがないのでやめた。

 私とコウカもダンゴに続くように部屋に入っていくと、ベッドの上に腰掛けているヒバナとシズクが出迎えてくれた。

 2人はベッドの上でそれぞれが本を読んでいたようだ。ヒバナが読んでいたのはシズクが所有している本だろう。


「おかえりなさい。何ともなかった?」

「うん、特に問題なし。でもね、朗報があるんだ」


 ヒバナとそんなやり取りをしていると、シズクが「朗報……?」と首を傾げた。

 ――そうだろう、気になるだろう、シズク。

 今からシズクの驚く顔が想像できて楽しくなってきた。一番喜んでくれるのはこの子だろう。


「なんと……アイゼルファーをギルドが買い取ってくれて、大金貨2枚もらうことになりました!」


 おぉ、とコウカとダンゴが感嘆の声を上げながら手を叩いている。……打ち合わせ通り、2人は場を盛り上げてくれた。

 さて、肝心のシズクの様子は……あれ、首を傾げたままだ。

 ――おかしい、私の予想ではここで驚きながらも喜ぶシズクが見られるはずなのだが。


「……大金貨?」


 どうやら大金貨が分からなかったらしい。

 そこから説明が必要か、と普段使うことが多い銀貨が1000枚分の価値が大金貨にはあるということを説明した。


「えっ……じゃあ、それだけあればたくさん……!」


 シズクが目をキラキラとさせる。もちろんこの大金貨2枚はみんなで分けるのだが、それを説明してもシズクの興奮は収まらないようだ。

 思っていた反応とは少し違うが、すごく喜んでくれているのは確かなのでよしとしよう。


「それで、今日はこの後どうするの?」

「お昼ご飯を食べてから、足りないものを買い足そうかなって」


 靴など密林でドロドロになったから買い替えたい。

 服は昨日帰ってからすぐに洗濯したおかげで汚れはほとんど落ちているため、問題はないが靴は別だ。

 靴を買い替えた後はみんなに昨日、迷惑を掛けた分の埋め合わせをしようと考えている。

 何をすればいいのか分からなくて食べ物に頼る形となってしまうのだが、ブルーノさんにこの街にあるおすすめの店を聞いておいたのだ。




 そうして昼食と買い物を済ませた私たちは割と人気らしい喫茶店へと入っていった。お茶をするには丁度良い時間だ。


「それで、これが埋め合わせ?」

「うん、他にないか考えたんだけど思いつかなくってね。ヒバナとシズクもラモード王国で美味しそうに甘いものを食べていたでしょ? 最近食べられていないから食べたくなっていないかなって」


 ヒバナの問いにそう答える。

 今、私たちの前には背が高いガラスの容器にアイスクリーム、ホイップクリーム、フルーツがふんだんに使われているサンデーが並んでいる。

 私以外の全員分、それぞれ1つずつだ。

 スイーツの本場であるラモード王国以外でちゃんとした甘味を食べようと思うと、それなりの値段がする地域が多い。

 そのため、普段の食費では中々手を出せなかったのだ。

 今回は昨日のお詫びとその埋め合わせとして、全て私のポケットマネーから出している。


「大きい! すごいね、これ!」

「甘い匂い~」


 反応的には概ね好感触だ。

 少しアンヤには量が多かったのではないかと心配になるが、このまん丸状態のスライムの時でも結構胃袋は大きいようなので大丈夫だと思う。

 コウカも頬が緩んでいる。

 彼女が甘いものをそれなりに好んでいるのは知っていた。女の子は甘いものが好きというのはこの子たちにも通用するらしい。


「主様、もう食べてもいい?」

「うん、もちろん」


 ダンゴが「やった!」と言って早速、食べ始めた。


「さ、アンヤも食べよう。味はまだ分からないかもしれないけど、美味しいよ」


 人の姿になるまでは味覚がないのが残念だが、それでもアンヤなりに楽しんでくれると嬉しい。

 ダンゴに倣う形で、みんなも次々に食べ始めていた。


 ただし――ヒバナを除いて。


「……あなたの分は?」


 ゆっくりとアンヤに食べさせているとヒバナが手を机の上に置いたまま、そんなことを尋ねてきた。


「ないよ? だってこれはみんなへのお詫びだからさ、私が一緒に食べるのも変でしょ」


 本当に申し訳ないと思っているので、私が食べるわけにはいかない。それでは何のための埋め合わせかわからない。

 そんな考えを伝えたところ、ヒバナが首を振る。


「……そんな罰みたいなの、いらない。あなたも食べて」


 そう言ってヒバナはアイスを載せたスプーンを私に差し出してきた。

 一度は遠慮しようとしたが、ヒバナの目を見て考えを改める。彼女の目は真剣だったのだ。

 まっすぐ、心の底から思ったことを口にしていると分かる。

 ――本当に食べても良いのだろうか。

 スプーンとヒバナを交互に見つめる。


 迷っているうちにヒバナに催促されてしまったので思い切って食らいついた。

 甘酸っぱい苺の味と香ばしいバニラアイスの甘みが口の中に広がる。

 少し視線を上げるとヒバナの視線と交差した。


「埋め合わせはいいけど、次からはみんなで楽しめる形がいいわ」


 そう微笑んだかと思った直後、急にアタフタし始めたヒバナの顔が紅潮する。


「つ、次がないのが一番だけどっ!」


 目を伏せた彼女はそのままフイっと顔を逸らしてしまった。

 呆気に取られていると今度は横から別のスプーンが現れる。


「あ、あたしも……」


 おずおずと差し出されたスプーンは少し震えている。

 スプーンの先を辿っていくとちらちらと私を窺うシズクの姿が目に入った。

 シズクを困らせる趣味は私にないので、彼女の気持ちを汲んでありがたくいただくことにした。


「ボクのも食べていいよ」

「んふふ~、わたくしも~」


 こうなると、他のみんなも便乗して1口ずつ食べさせてくれる。

 最後にサンデーを食べさせようとしてくれたのはコウカだった。

 だが他のみんなと違い、容器ごとだった。


「どうぞ!」


 いや、流石にこれは貰えない。

 このコウカの行動には周囲からも苦言が飛び交う。


「もう~コウカお姉さま~、違いますよ~」

「み、みんなで楽しめるように……だよ?」


 シズクがヒバナの考えを尊重した言葉を紡ぐ。

 それにより、コウカも考えを改めたようだ。


「あ、そうでしたね……では気を取り直して、どうぞ」


 コウカは他のみんながやったように1口だけを私にくれた。

 ――うん、やっぱり甘くて美味しい。


「みんな……ありがとう。美味しいね」


 みんなと笑いあった時間。心がすごく温かかった。




    ◇




 翌日、私はダンゴとアンヤの3人で特に目的もなく街の中をぶらぶらしていた。


「主様、あっちには何があるのかな?」

「なんだろうね、行ってみようか」

「うん!」


 ダンゴに手を引かれながら、彼女が行きたいと言っている場所へと向かう。

 どうして私たちしかいないのかというと、今日はみんな思い思いに過ごしてみようと私が言ったからだ。

 みんなで一緒に行動するのも良いが、自分のしたいことをする時間も大切だろうと思っての提案だった。


 特にみんなが何をするのか聞かなかったが、ダンゴがアンヤを連れて街に行くというので心配になった私は彼女たちについていくことにした。

 コウカも付いて来ようとしていたのだが、改めて私の考えを伝えると少し悩んだ末に「じゃあ、わたしは剣を振ってくることにします」と言っていた。

 私たちが先に出てきてしまったが、生真面目な彼女のことなので今頃どこかで鍛錬しているのだろう。


「ん? なんだろう……」


 どこからか香ばしいスパイスの香りに漂ってきて、それに釣られたダンゴが屋台へと吸い寄せられていく。


「おじさん、これは何? とってもいい匂いがする」

「おぉ、お嬢ちゃん。これはタコスという食べ物さ。生地の中にたくさん具材が入っているんだ」


 ダンゴが私へ振り返る。

 何が言いたいのか、すぐに理解した私は1歩前に出た。


「2人分お願いします」

「はいよ!」


 次の瞬間、ダンゴにバッと抱き着かれる。


「ありがとう主様!」

「どういたしまして。アンヤは私と半分こしようか」


 私はあまりお腹が空いていないが、折角なのでアンヤとシェアしよう。ダンゴは丸々1つ食べられそうなので1人分だ。

 そうしてダンゴと並んで食べたタコスはスパイスによってピリッとした味付けになっており、すごく美味しかった。




 ダンゴの気が向くままに観光しながら、時々食べ歩く。そんな時間を過ごしていたら、すっかりお昼時を回っていた。

 みんな、ちゃんとご飯を食べただろうか。面倒くさがってお昼ご飯を抜いちゃっていないかな。

 いつも一緒にご飯を食べていたものだから、こうして離れていると少し心配になってしまう。


「主様、何だか人が集まってるね」

「うん? あ、ほんとだ」


 ダンゴが指さしたのはこの街にある冒険者ギルド前の広場だった。その広場にはダンゴの言った通り、円状の人だかりができている。

 彼らは大変盛り上がっているようで、ここまで熱狂的な歓声が届くほどだった。


「何かやってるのかな、行ってみようよ!」


 それに好奇心に満ちたダンゴが惹かれないわけがない。

 彼女に手を引かれながら人だかりの方へと近づいていく。


 距離が近付いてくると次第に金属と金属がぶつかり合う時の甲高い音が聞こえてきた。……誰かが戦っているのだろうか。

 その音でダンゴはさらに興味を惹かれたらしい。歩くスピードが早歩きへと変わる。


「おお! いいぞ!」

「やっちまえ! いけ、そこだ!」


 本当にあそこへ近付くのだろうか。なんというか、暑苦しい。


「もう、これじゃあ見れないじゃん」


 人が集まり過ぎて、私の身長でも中で何が行われているか見ることができない。私よりもすごく小さいダンゴなら尚のことだ。

 どうにか見ようと人混みの中でダンゴと一緒に四苦八苦していると、急に人々から一際大きな歓声が上がった。


「うおお、Bランクも伸しちまった!」

「俺もあんなふうに踏んでもらいてぇ!」


 そこで少し人混みに動きがあったので、人と人の間を潜り抜けるようにどうにか最前列まで通り抜けることができた。

 その先で私は人混みの奥で何が行われていたのかを知ることになる。

 人々の中心にいたのは地に伏せた男性とその背に片足を載せて、胸を張ってどこか誇らしげにしている太陽光を反射して輝くブロンドヘアの――コウカ?

 目を擦って、もう一度見る。……やはりコウカだ。


「ふふん、次はもう少し骨のある相手を連れてきてください」

「コウカ姉様だったの!?」


 ダンゴが大きな声を上げると周囲から注目が集まってくる。そして何やら囁かれているようだ。

 胸を張っていたコウカの方はというとキョトンとした顔でダンゴを見て、次に私の方へと視線を移した。


「ダンゴ、マスター!?」


 男性を踏みつけたままのポーズでコウカが驚く。

 ――この子は何をやっているんだ。それと早く退いてあげて。

 あの子が私たちを見たことで人々の注目がさらに集まってきた。


「おい、あの子が抱いてるの……スライムじゃないか?」

「おいおい、ということは……」


 スライムマスターだ、と辺り一帯から耳をつんざく声が上がる。思わず耳を塞ぐ私とダンゴであった。

 ――うぅ、少しくらくらする。

 それにしても、いつの間に私は有名人になっていたんだ。


「待てよ、謎の美少女剣士はスライムマスターのことをマスターって呼んでいたぞ」

「おいおいおい、ということは……」


 ちゃんと学習した私は声が上がる前に耳を塞いだ……がその時は訪れない。いや、叫ばないのか。

 若干残念な気持ちになりながらもダンゴの手を引き、コウカに向かって歩いていく。

 向かう先にいる彼女はキョトンとした顔を引き締め、誇らしげに胸を張った。……何故だ。


「見てください、2人とも! この男を私が倒しました!」

「すごいね、コウカ! ……でも、足は降ろしてあげようか」


 渋々といった感じでコウカが男の背中から足を降ろす。そして再び胸を張る。どうやら褒めてもらいたいらしいので存分に褒めてあげた。




 人々に惜しまれながら、コウカを連れて人混みを離れる。

 私の隣ではそのコウカが鼻歌交じりで歩いている。今まで嬉しそうにしていることはあったが、ここまで楽しそうなコウカは初めて見たかもしれない。


「楽しかったの?」

「はい! これが楽しいという気持ちなんですね!」


 コウカは全身で楽しさを表現していた。

 顔はニコニコとしているし、足取りが軽くてそのうちスキップでもしていそうだ。


 その後、少し落ち着いたコウカから話を聞いた。

 コウカは私たちと剣を振りに行くと言って別れた後、まるで辻斬りのように遠慮なく剣を振れる相手を探し始めたらしい。

 この時点で少しおかしいが、今は割愛させてもらう。

 そうして見つけたのが冒険者ギルドにいた冒険者なのだが、最初は相手にもされなかったらしい。

 当たり前だ。傍から見たら、コウカはまともに剣を振れないような幼気な少女である。

 何とか食い下がると相手をしてもらえたようだが、最初は冒険者も適当にあしらおうとしていたようだ。

 だがコウカが思いっきり力でねじ伏せたことでその容姿と強さから話題を生み、次々と挑戦者が現れ続け、あの光景が完成したということらしい。

 ルールは魔法禁止の剣技のみ。少しずつ対戦相手のレベルが上がっていき、とうとうBランク冒険者が相手に現れたところで私たちが来たらしい。


「こんなに戦うことが楽しいと感じるなんて夢にも思いませんでした。普段はそんなことないんですけど……」


 コウカは不思議そうにしている。

 私も理由は分からなかったが、この子が楽しんでいたのなら理由なんて何でもいい。




 そうして宿屋に帰ったのだが、部屋の中には誰もいなかった。

 ――ヒバナとシズクどころか、ノドカもいないなんて……。

 心配だったので探そうと、魔力経路を辿ってみることにした。

 魔力制御が少しずつ上手くなってきたことで出来るようになった芸当だが、意外と役に立つ。


 そのまま魔力経路を頼りに歩いていくと、街の外へと出てしまった。

 あの子たちが勝手に街の外に出ていく理由が想像できない。あの子たちはどちらかというとインドア派だろう。

 ヒバナは分からないが、少なくともシズクとノドカは……いや、ノドカは場所に関係なく寝られるか。シズクだって歩きながら本を読む。

 思考が逸れたが、彼女たちが魔力を使っている様子もないし、戦ってはいないのだろう。

 魔力経路は街のすぐそばにある森の中へと繋がっていた。

 森だが、ここには魔泉がないので普通の野生動物はいるが魔物はいないはずだ。


 木の間を抜けながら歩くと、泉を見つけた。そして、彼女たちの姿も。

 泉のすぐ側にある樹の陰で肩を預け合って眠っているヒバナとシズク。ノドカはそんなヒバナの太腿に頭を乗せて眠っている。

 ノドカだけではなくヒバナとシズクまで昼寝しているのは珍しい。

 どういう経緯があったのかは知らないが、珍しいものが見られたと得した気になった。

 ただ1つハッキリと断言できることといえば、この場所で過ごした時間は彼女たちにとって悪いものではなかったということだろう。


 ――だって、眠っている彼女たちの表情はとても穏やかなものだったのだから。


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