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07 自慢の髪型

 今日も朝からダンゴの髪型を整えている。

 今回作ろうとしている髪型はこの子も気に入ってくれるであろうという自信があった。

 ――そして、遂に完成の時は訪れる。


「出来た! 自信作だよ、どうかな?」


 まず、朝起きてから思い思いに過ごしているみんなにお披露目する。

 拍手しながら感嘆の声を上げるコウカ。ニコニコとダンゴの髪を撫でるノドカ。分からないながらに興味を示すヒバナとシズクなど、反応は様々だった。


「ねえ、ボクにも見せて、見せて」

「あ、ごめんねダンゴ」


 ダンゴがもう我慢できないといった様子で強請るので、私は《ストレージ》から取り出した手鏡を彼女に手渡した。

 すると彼女は鏡を覗き込みながら、自分の左側頭部にある出っ張りを頻りに触りはじめた。

 ――やはり、気になるのだろうか。


「それはね、お団子ヘアって言うんだ」

「お団子……ボクの名前?」


 これが絶対にダンゴが気に入ってくれるという自信に関する一番の根拠だった。

 ネタ晴らしをされた彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、次第にその顔が喜色満面へと変わる。

 この子の髪型は所謂お団子サイドテールというものだ。

 後ろ髪で左側頭部にお団子を作り、そこからさらに髪を垂らしている。

 お団子の根元には昨日買ったリボンを巻いており、そこもダンゴ的にポイントが高いと思っている。


「主様っ、お団子ってボクの名前だよね!?」

「そうだよ。どう、気に入ってくれた?」

「うんっ! それに動きやすいからボク、これからもこの髪型がいい!」


 ダンゴがぴょんぴょんと飛び跳ねながら動きやすさをアピールする。

 お団子ヘアなら長い髪の毛も纏められるので、この子の戦いの邪魔にならないだろう。


「主様、ありがとう!」

「うん、どういたしまして」


 ダンゴの顔には弾けんばかりの笑顔が浮かんでいる。

 色々と考えてこの髪型に辿り着いたので、こんなに喜んで貰えたのなら冥利に尽きるというものだ。

 コウカが「良かったですね」と優しい表情を浮かべて言いながらダンゴの頭を撫でている。

 その光景を遠くから見ていたヒバナとシズクも微笑ましそうにしていた。

 ダンゴの笑顔はみんなを笑顔にするんだなぁ、としみじみ思う。


 ――さて、ダンゴが終わったし次の子に移らないとね。

 思考を切り替えた私はアンヤを抱きしめながらベッドに腰掛けていたノドカの隣へと移動する。


「お姉さま~どうかしたの~? もしかして~アンヤちゃん~?」


 ノドカが突然やってきた私に首を傾げるが構わずに向こう側を向くように伝えると、不思議そうな表情を浮かべながら従ってくれる。

 私は《ストレージ》からブラシとノドカの為に買ったその他諸々の道具を取り出した。

 ノドカの髪は水浴びをしない限りはいつも寝癖で飛び跳ねている。寝起きである今は言うまでもないだろう。


「多分、ノドカは面倒くさがるだろうからあまり言わないつもりだけどさ、少しは身嗜みに気を遣った方がいいよ?」

「う~ん、そう~?」

「そうだよ。これからダンゴの髪だってノドカがやりたいんでしょ?」


 ノドカの髪に優しくブラシを通しながら、会話をする。

 ――この子、寝ていられたらなんでもいいとか考えていそうだからなぁ。


「こーら、ゆらゆらしないの」

「んふふ~、ごめんなさい~」


 眠いのか、体を揺らすノドカに軽く注意する。


「ノドカの髪は元々綺麗だからさ、ちゃんと整えてあげれば可愛くなるよ?」

「うん~でも~……」


 この子が何を言おうとしているのか、すぐに分かってしまった。


「面倒くさいんでしょ?」

「えへへ~……先に~言われちゃった~」

「もう……」


 全く悪びれる様子を見せないノドカ。何がおかしいのか、彼女はクスクスと笑っている。

 その様子に軽く呆れながらも手は止めずに動かし続ける。

 髪を梳き終わるとノドカの前に回り込み、彼女の前髪をヘアピンで留めた。一応この子の属性である風っぽい意匠かなと思って買ったものなのだが、本当に風なのかは分からない。

 そうして次に手に取ったのは桜色のカチューシャだ。これで跳ね上がっている前髪は抑えるという寸法である。

 簡単なので、これくらいなら面倒くさがることはないだろうと算段したものだ。

 最後に両サイドの髪を三つ編みにして後ろに回す。

 そしてそれらを後ろで結び、リボンを付けてあげればハーフアップの完成だ。


「ダンゴ。鏡、貸してもらっていい?」

「あ、ごめん! すぐ返すね」


 ダンゴから手鏡を受け取り、礼を言う。

 手鏡を渡すために私の近くまで来たダンゴは、どうやらノドカの変化にすぐ気づいたようだった。


「ノドカ姉様も主様に整えてもらったの?」

「そうなの~似合う~?」

「うん、とっても似合ってるよ!」


 ノドカがダンゴに自分の髪を見せびらかす。彼女自身、自分の髪型がどうなったのかをまだ把握していないだろうに。

 それに呆れつつも手鏡を渡してあげる。

 抱いていたアンヤと交換するように手鏡を受け取ったノドカは、様々な角度から鏡を覗き込んでいた。


「見違えたわね。いつもの跳ね上がり具合は私から見てもどうかと思うレベルだったし」

「う、うん。前より少し……あ、あか、明るく見えるから、ノドカちゃんらしい……かな」

「お姉さまたちに~褒められて~、わたくしは鼻が高いです~」


 近寄ってきたヒバナとシズクが感想を述べる。

 それを聞いたノドカが胸を張って自慢げにするが、そこで鼻が高くなるのは私じゃないのか。


「いや、どうしてあなたが自慢げなのよ……」


 案の定、ヒバナにツッコまれている。

 ――そうだよ、ノドカ。それは私の功績だからね。


 そこでふとヒバナが指先で自分の毛先を弄っているのが目につく。

 もしかしてヒバナも髪型を変えたいと思っているのだろうか。


「ヒバナとシズクも何か考えてみる?」

「別にいいわよ、困ってないし」

「あ、あたしも別に……」


 別にそうではなかったようで、残念ながら断られてしまった。

 髪が長いヒバナは弄りがいがありそうだが、あの子の言ったように魔法主体で戦う2人は髪を纏めたりしなくても困らないのだろう。

 自分の髪を燃やすというミスもしそうにない。

 普段からお互いに手入れはしている――あの子たちが進化してすぐに私が教えた――ようだし、今の髪型が似合っているので少し残念な気持ちもあるにはあるが変えたほうがいいとは思わなかった。




 それからみんなと朝の時間を過ごしていたら、コウカがじゃれあっているダンゴとノドカをぼうっと見つめていることに気付いた。

 何かあったのかな、と思い声を掛けると意外な言葉が飛び出してきた。


「少し、勿体なかったかもしれないと思っていました」

「勿体ないって、髪を切ったこと?」


 私の問いにコウカは肯定で返す。

 まさか、コウカが髪のことを気にするとは思わなかった。かつて丸坊主でもいいと言っていたこの子が、だ。

 そこでふと新たな疑問が浮かんでくる。


「魔力で伸ばせたりしないの?」

「……残念ながら」


 コウカは「時間を掛ければ自然と伸びますが」と言って苦笑する。

 残念なことに傷を治すように髪を伸ばすことはできないらしい。切ってすぐとかなら話は別なのかもしれないが、しばらく経っているコウカにはどのみち無理なのだろう。

 彼女は自分の髪を撫でながら、また口を開く。


「勿体なかったとはいっても今の髪型が戦いやすいのは事実ですし、伸ばすつもりもありません。ですが……」


 そこでコウカは何かを言い掛け――やめた。


「……いえ、今はこの髪型でいいんです」


 追及することもできたが、今のコウカの表情がどこか優しいものだったから別に聞かなくてもいいのだろうと思った。

 だから私は短い言葉を返すだけに留めておいた。




 そうして朝の時間は穏やかに過ぎていく。

 少しずつ私たちの日常になっていくこの光景。

 ――でも、やっぱりこのままじゃ駄目だよね。

 私は腕に抱いたアンヤを見てそう強く思う。

 こうしてみんなと穏やかな時間を過ごしていても、ここには何かが足りない。漠然とではあるもののそう感じていた。


 今のアンヤはまるで影だ。私たちと一緒にいるはずなのに、ふとした瞬間に消えてしまってもおかしくないような。

 こんなのはきっと間違っている。だから――。


「決めた、私はこれからアンヤともっと話をする」


 立ち上がってそう宣言した瞬間、当然のようにみんなの視線が突き刺さる。

 少し気恥ずかしさを覚えたが、こんなものは勢いだ。

 私はみんなの顔を見渡す。


「そこで、みんなにお願いがあるの」

「えっと……お願いですか?」

「うん、みんなからも積極的にアンヤに話しかけてあげてほしいんだ」


 唐突なお願いに私の意図を掴みかねているのだろう。みんなの表情には困惑の色が色濃く出ていた。

 私はアンヤもこの輪の中に入れてみせると決めた。

 それをアンヤが望んでいるのかは分からない。意思を示してくれないというのは望んでいないということなのかもしれない。

 ――きっとこれは私の我儘なのだ。

 これまでみんながアンヤに話しかけていた回数は少ない。私だってみんなと話す回数と比べれば遙かに少ないものだろう。

 この子はただ無口なだけなのかもしれない。ノドカのように寝たり、ボーっとしていたりするのが好きなだけなのかもしれない。

 でももし何かのショックで心を固く閉ざしてしまっているのなら、私はそれを解してあげたい。

 私たちがいるから大丈夫だって思ってくれるような、アンヤにとって温かい居場所になってあげたい。

 そのためにはきっと諦めずに声を掛け続けてあげることが必要だと思うから。


 それらの考えを伝えた上で告げる。


「このままじゃ嫌だなって思ったんだ。それがアンヤにとって迷惑でも、私の我儘だったとしても、絶対に」

「ユウヒちゃん……」

「ユウヒ……でも……」


 私の話を聞いたヒバナとシズクは否定とまでは行かないものの、困惑しているようだ。

 無理もない。出会った当初2人は少ないながらもアンヤを気に掛けてくれていたものの、あまりに反応が返ってこないからと諦めてしまった経験があるのだから。


「アンヤちゃんは~抱き心地が~ポカポカでしたから~、いいと~思います~」

「うん、ボクもアンヤと仲良くなりたい! なんたって、アンヤはボクの妹だからね!」


 反対に前向きな反応を示してくれたのはダンゴとノドカだ。

 ダンゴはまだしもノドカの理由はよく分からなかったが、受け入れてくれたのならまあいいだろう。

 ――そうなるとここまで発言がないコウカの様子が気になる。周りの視線も彼女へと集中していた。

 この間も彼女はアンヤをジッと見つめて考え込んでいたようだが、やがてゆっくりと口を開いた。


「わたしはマスターの言うことなら文句はありません。それに……迷惑なんかじゃありませんよ」

「え?」


 てっきり承諾の言葉だけだと思っていたものだから、反射で聞き返してしまった。

 迷惑ではない、というのは声を掛けることがアンヤにとって迷惑なのかもしれないと言ったことについてだろうか。


「わたしたちはマスターと一緒に行きたいと思ったからこそ、ここにいます。アンヤだって同じです。わたしたちにとって名前を受け入れるということはそういうことなんです」


 “わたしたち”というのはスライムのことを指すのだろう。

 みんな――スライムとの契約は相互に同意を得た上でこちら側が名前を授けることで結ばれる。

 彼女たちが持つ独自の感覚は私には分からないが、一緒にいたいと思ったのは私も一緒だったので納得できる話だ。

 ゆっくりと噛みしめるように言葉を紡いでいくコウカは「だから……」と続ける。


「迷惑なんかじゃありません。声を掛けることも、一緒にいることも、きっと」


 コウカはきっと、私が今やろうとしていることに対して弱気になっている部分を感じ取り、その不安を取り除こうとしてくれたのだろう。

 いつもそうだ。この子はいつだって私のことを考えてくれている。


「そうね、その子も私たちと一緒よね……」

「うん、だったらいつかきっと……」


 コウカの言葉から何かを感じ取ったのか、ヒバナとシズクの2人が決心したように頷く。


「正直、話しかけるだけで上手くいくかは分からないけど」

「な、何もしないよりかはずっといいはずだからっ」

「……ありがとう、みんな」


 こうして、私たちはアンヤに心を開いてもらうために積極的に触れ合うようになった。

 アンヤが心を閉ざしているのなんて、ただの推測に過ぎない。

 でも本当の理由がどうであれ、別に構わない。きっとこれは意味のある行動だから。

 それに私たちがこの子と一緒に抱きはじめている想いも本物のはずだから。


 腕の中のアンヤを優しく撫でながら、思う。

 ――ここがあなたの居場所になってくれるはずだよ、と。


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