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最後の約束

瑠奈の一人称視点です。

 邪神の姿が跡形もなく消え去ると、優日はハーモニクスを解除した。

 するとあの子の体から6人の少女たちが姿を現す。あの子自身も髪の色と瞳の色が変化していたが間違いなく優日だと分かった。


 その少女たちを掻き分けるようにして優日に飛び付いたのは穂鳥ちゃんだった。もちろん、わたしもすぐその後に続いた。


「優お姉ちゃん!」

「優日!」

「わわっ」


 飛び付く直前、周囲の子たちが厳しい視線を向けてくるのが分かったが、優日が全く拒んでいないことが分かるとすぐに警戒を解いて、各々が現場検証のようなものを始めていた。




 やがて落ち着いてくると、わたしは優日に自分がアンヤの中にいた瑠奈(わたし)の記憶を持っていることを説明し、優日はわたしたちにあっちの世界で起こった出来事に関する要点を掻い摘んだ説明をしてくれた。

 もちろん、わたしはほとんど知っているようなことだが中には知らないことだってもちろんあった。

 それは優日が新しい女神となったという事実だ。


「瑠奈さん。優お姉ちゃんが別の世界で生きているってことを知っていたんですよね、どうして言ってくれなかったんですか」

「言っても穂鳥ちゃんは信じてくれなかったでしょ?」

「うっ、それはまあ……」


 唇を尖らせていた穂鳥ちゃんもわたしの指摘が間違いないと思ったのか、バツが悪そうに視線を逸らした。


「あはは。瑠奈と穂鳥ちゃんってば、いつの間に仲良くなっていたのかな?」

「仲良くありません!」


 久しぶりの優日の笑顔を見ると込み上げてくるものがあった。……ううん、それはわたしも知らないような屈託のない笑顔だ。

 この子がこんな表情を浮かべられるようになったのは、間違いなくあの子たちのおかげなんだろう。


 そんなことを考えながら優日と穂鳥ちゃんのやり取りを眺めていると、わたしの袖が誰かに引かれるような感覚があった。

 ずっと視線を向けてきていたから、それが誰なのかはすぐに分かったけど。


「お母さん……」

「……わたしはあなたのお母さんじゃないよ、アンヤ」


 アンヤのお母さんは、わたしから分かたれた魂の欠片であるもうひとりの瑠奈(わたし)だ。

 それはわたしと同じようで少し違う存在だから、わたしは決してこの子のお母さんではないのだ。


 ――わたしはきっと、瑠奈(わたし)のようにこの子を娘として愛することはできないから。


 それがちゃんと伝わってくれたのか、アンヤは少し寂しそうな表情を浮かべた後に首を傾げると、ゆっくりと口を開いた。


「なら……おばあちゃん?」

「おばっ!?」


 わたしたちのやり取りを聞いていたひまりと颯がすぐさま追及してくる。

 たしかに間違っているとも言えずに否定しきれないのが誤解に拍車を掛けた。

 アンヤも「おばあちゃん」と呼んで慕ってくるので、困ったどころの騒ぎではない。




 さて、優日がその後に語ってくれた事実。

 それはわたしたちの住む世界とあちら側の世界が繋がったままだと、双方の世界にとって良くない影響を及ぼすということだった。

 数千年前にテル――火の大精霊ハイターと邪神メフィストフェレスがこの世界にやってきてしまったのは完全な事故のようなものらしく、その影響で僅かながらにもこちらに魔素が流れ込んでしまっていたのだという。

 そしてテルが扉を開いたことで、今は向こう側の世界からの影響を急激に受けてしまっているとも。


「ミネティーナ様の屋敷に火の大精霊ハイター様の記録は確かに残されていたよ。瑠奈も知っているところで言うと水の大精霊レーゲン様と同じ、初代の大精霊だね」


 テルのことを優日に尋ねてみるとそんな返答が返ってきた。

 今さら疑ってもいなかったけど、やっぱり彼は偉大な大精霊様だったということだ。


「さて、話を戻そうか。私もこっちの世界に未練がないと言えば嘘になるよ。でも私はあっちの世界でみんなと一緒に生きていくと決めている」

「優日……」

「だから、少しだけこっちで過ごした後に完全に世界の繋がりを断つつもり。短時間であれば、影響もほとんどないはずだから」


 そう言って笑顔を浮かべた優日はまず穂鳥ちゃんの実家――つまり優日が5年間暮らしていた伯父さんたちの家に向かった。




 普通であれば信じられないが、本人が目の前にいるのだ。優日の伯父さんたちも涙ながらに彼女との再会を喜んでいた。

 優日の伯父さんたちも彼女に対しては後悔の念を抱いていたようだけど、優日が今幸せだと分かると最終的には笑顔を浮かべていたのでこれでよかったんだろう。


 そして最後にあの子はご両親の墓参りに行きたいと語った。

 身内だけで済ませるべきかとも考えたけど、結局わたしとひまり、颯も一緒に行くことになった。


「こ、この地面は人工のもの? 何でできているの? これ車っていうんだよね、どうやって動いているの?」


 家の中でも相当なものだったけど、移動の最中となるとあの子(スライム)たちは興味津々な様子で周囲を見渡しては質問を投げ掛けてくる。

 特にシズクとダンゴ、コウカは大興奮のようで優日とヒバナが手を焼いていた。


 ――それはさておき、お墓に到着すると優日は感慨深そうな表情を浮かべながらその墓石に触れた。


「私もパパやママと一緒に埋葬してくれたんですね」


 自分のお墓に来るなんて体験をするのなんて優日くらいのものだろう。

 この子は今、どんな気持ちで墓石に触れているというのだろうか。

 そんなややしんみりとした雰囲気の中で、先程までは賑やかだったスライムたちが真剣な表情を浮かべながら、お墓の手入れを手伝っていたことがひどく印象的だった。




 やがて、お墓参りも終わると優日たちはあちらの世界に帰る支度をはじめた。


「ねえユウヒちゃん。このテレビっていうの持って行っちゃダメかな」

「ダメだよ」

「ならこのスマートフォンっていうのは?」

「だーめ」


 こちらからあちらの世界にはほとんど何も持ち込まないと、優日は決めたらしい。

 シズクは知識欲を刺激されて様々なものを研究の為に持って帰りたがっていたけど優日は断固拒否していた。他の子たちも密かに肩を落としていたのをわたしは見ていたけど。

 でも伯父さんたちに説得されて、あの子の思い出の品はいくつか持ち帰ることにしたみたいだ。アルバムを抱え込む優日の顔は僅かに綻んでいた。


 その後は穂鳥ちゃんがヴァイオリンのケースを持ってきて演奏を始めたり、ひまりと颯がどこからか借りてきたインスタントカメラで写真を撮ったり、お腹が空いたと優日とヒバナがご飯を作ってくれたりと優日たちが帰るにも帰れない雰囲気になっていく。




 ――それでも、優日の意思はやはり固いようだ。




 テルが大きな扉を開いた場所まで戻ってきたわたしたちは優日たちと言葉を交わす。


「穂鳥ちゃんは責任感が強い頑張り屋さんだけど、時にはゆっくりと羽を伸ばすのも大事なことだからね」

「優お姉ちゃんは心配性すぎます。私ももうそんなに子供ではありませんもの」


 穂鳥ちゃんの番が終わると最後にわたしの番が回ってくる。


「――ねえ優日、今……幸せ?」

「うん……幸せだよ」


 あの子たちの顔を見渡す優日は本当に幸せそうだ。でも不思議と嫉妬はしなかった。


「あのさ……もうひとりの瑠奈には言ったけど、目の前にいる瑠奈にも私の気持ちをきちんと伝えさせてほしいな」

「うん?」

「ずっと私と一緒にいてくれてありがとう、瑠奈」


 記憶には確かにある言葉だった。でも記憶の中のそれはわたしに向けられたものではなかったはずだ。

 それが今、ちゃんとわたしに向けられているんだ。


「うん、うんっ!」

「あの子たちのこと、大切にしないとダメだよ?」

「わかってるよ、優日。これからもお互いにさ、生きて……幸せでいようね」


 これがわたしと優日が交わした最後の約束。


 わたしたちはそれぞれの道を歩いていくけれど、これは悲しい別れではない。

 もう決して交わることのない道でも、一度通じ合った想いはずっとこの胸の内に残り続けるはずだから。




    ◇




「ん……懐かしい夢を見ちゃったな」


 ベッドの上で上半身を起こしたわたしはそう独り言ちた。

 ――その直後、自室のドアが控えめにノックされる。


「瑠奈、もう起きている……? 今日、ひまりさんたちと遊びに行くと言っていなかった?」


 母の声だった。

 どうやらわたしを起こしに来てくれたらしいけど、もっと早く来てほしかったと思わざるを得ない。

 電子時計に視線を向けたわたしの肝が冷えていく。




「瑠奈さーん、こっちこっち!」


 息を切らしながら駅前に駆け込むと、聞き馴染みのある声が鼓膜を震わせた。


「もう先輩ってば、寝坊?」

「はぁ……はぁ……ごめん。大学のレポートに追われてて」

「へぇ、大学生ってそんなに大変なんですね。ご愁傷さまです」

「……わたしが溜め込んでいたということもあるけど」


 そう口にしたわたしは、颯から残念のものを見るような目で見下ろされていた。


「まあそんなことより!」

「え、そんなこと……」

「そんなことより瑠奈さん、朝のニュースは見た!?」

「いや、寝坊したから何も……」


 やや興奮気味のひまりが私の眼前にスマートフォンの画面を向けてくる。

 その画面に目を這わせているわたしがその内容を理解するよりも早く、ひまり本人がネタバラシをしてくれた。


「穂鳥ちゃん、例のコンクールで入賞したんだって!」

「……ほんと?」

「今日グループチャットでも颯ちゃんとたくさんお祝いしたんだよ!」

「え……」


 わたしは頭を抱えたくなった。

 あの子はわたしに対してやけに厳しい態度を取ってくるというか、お祝いが遅れれば少し面倒くさい反応をしてくるのだ。

 自身のスマートフォンのロックを外し、彼女との個人チャットを立ち上げるとやはり未読メッセージが大量に溜まっていた。


 ――おめでとう、頑張ったね。


 これだけ送信すれば少し小言を言われはするもののとりあえずは沈静化するだろう。

 これはあとでビデオ通話2時間コースかな。


「じゃあ早速、遊びに行きましょう!」

「瑠奈さんが寝坊した遅れを取り戻さないといけないし」

「ちょっ、ちゃんと謝ったでしょ!?」

「課題を溜め込むようなだらしのない人の謝罪なんて無効よ、無効!」




 ――ねえ、優日。あなたは今、何をしているのかな。

 わたしは今日も幸せに過ごしているよ。





これで瑠奈のエピソードは完結です。

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