第55話 戦闘開始
「状況はかなり厳しいようじゃな。あと数時間もすればスタンピードが街までやってくるようじゃ」
街の周囲を囲う壁は5メートルほどの高さで、実際に登ってみるとかなりしっかりとした造りになっているらしい。
エルフの里のみんなはひとつの集団となって固まるようだ。他にも冒険者たちや騎士団と思われる人たちがそれぞれ固まっている。パーティでの連携もあるだろうし、各々で固まって戦うほうが安心できるのだろう。
「スタンピードがこの壁まで到達した時点をもって儂らも撤退の契機とする。各自撤退するための魔力は残しておくのじゃぞ」
長老さんの言葉で、いったん各自で休憩に入った。
「本当にとんでもないことになったな……」
里でスタンピードの話を聞いた時はあまり実感がなかったけれど、いざここまでくると急に実感が湧いてきた。
城壁の上では多くの人がせわしなく動き、バリスタや砲弾などの準備をしている。嫌でもこれから戦闘が行われることを意識せざるを得ない。
『マスターには戦闘能力がないので、あまり無茶はしないでくださいね』
「ソウタとノアを巻き込んでしまって申し訳ない。妾たちのことは本当に気にしなくてよいから、無理だけはしないでほしいのじゃ……」
「ああ、もちろんわかっているよ。大丈夫、無理してついて来ているわけじゃない。俺だって里の人にはすごくお世話になったし、街の人たちも含めて誰も死んでほしくないと思っているよ」
「……すまぬのう」
そう、誰も怪我をしないのが一番だ。もし撤退するとしても、それなりの犠牲は出てしまうかもしれない。
現在の走行ポイントで取れる乗り物の中で戦闘に特化したものはまだ出ていないけれど、お世話になったマーテルやエルフの人たちを守るためならば、迷わず残っている戦闘ヘリのお試しチケットやSPチケットを使うつもりだ。
……ただそれでも5分という限られた時間の中で大量の魔物を倒すことができるのかは疑問だ。強い魔物とかなら戦闘ヘリで倒すことができると思うけれど、限られた時間の中で数を倒すのは難しい気もする。
SPチケットはその状況に適した乗り物に変形してくれるというが、魔物を一気に殲滅してくれそうな乗り物には心当たりがない。戦闘機のミサイル攻撃とかが一番現実的だけれど、5分ですべては難しい気がする。もちろんそんな状況になる前にみんなが大勝利してくれるのが一番良いのだがな。
「見えてきたようじゃな。……すごい数じゃ」
「……途切れることなく森の奥から出てきますね」
「一面魔物だらけです」
2時間後、ついに森の奥からスタンピードによる魔物の群れが現れた。まだ距離があるというのにとんでもない数であることが一目でわかる。
大小様々な種類の魔物がまるで統一された意志を持っているかのようにまっすぐベルバルの街へ向かって来ている。
「来たぞ! まずは魔法部隊、頼んだぞ!」
先ほど長老さんと話していたソルガさんが全体の指揮を執っている。すでにエルフの里のみんなは魔物が向かってきている壁沿いに立ち、魔法で攻撃する準備ができていた。
俺やノアはその後ろで待機している。撤退する際は魔物の群れに取り囲まれる前に街の反対側の出口から脱出するてはずとなっている。
「撃てえええ!」
「インフェルノ!」
「ライトニングテンペスト!」
「アクアブラスト!」
「うおっ、マジか……」
合図と共に大規模な魔法の数々が魔物の群れへ向かって放たれた。それぞれの魔法が着弾すると同時に魔物の身体が燃え上がり、雷の嵐によって吹き飛ばされ、水の奔流によって押し流された。
これまでマーテルに見せてもらった魔法とはまったく規模の異なるすさまじい威力の魔法であった。冒険者や騎士団の人たちも魔法を放っていたが、その威力を軽く凌駕している。俺だけでなく、他の冒険者や騎士団の人たちも驚いていた。
「……これでもまったく怯まないのじゃから面倒じゃ」
だが、そのすさまじい威力の魔法を見てもまったく怯んだ様子もなく前進してくる魔物たち。横にいる魔物が吹っ飛んでも躊躇なく突っ込んでくるのだから、もはや恐怖しかない。
これがスタンピードか。魔物の数に加えて死を恐れずに突っ込んでくる魔物は相当な脅威だ。
「このまま魔法を順に放て! 弓兵とバリスタ班は撃ち漏らした魔物に照準を合わせて撃て!」
さすがに大規模な魔法は連続して放つことができないので、エルフのみんなは4つのグループに分かれて順番に魔法を放っている。こうすれば突進してくる魔物を順番に仕留めていくことができる。
そして大規模な魔法はある程度離れた場所に照準を合わせている。撃ち漏らして壁まで近寄ってくる魔物は弓やバリスタなどで順に倒していく作戦だ。
いよいよ本格的な戦いが始まった。




