第54話 スタンピード
「街からの情報によると今回発生したスタンピードはかなりの規模のようじゃ。スタンピードによる魔物は理性を失い人の生活する村や街を順に襲っていく。この里の周囲に張ってある意識を逸らす魔法もその魔物には効果がないじゃろう」
次々と悪い情報が長老さんの口から出てくる。その魔物は視覚とは別の感覚で人のいる位置がわかるのだろうか。
「伝え聞いた情報ではスタンピードはベルバルの街へ向かっておる。そしてその次はこの森へと向かってくるじゃろう。すでにベルバルの街におる非戦闘員は避難を始めており、迎え撃つ者たちはベルバルの街でスタンピードを迎える準備をしておる」
暴走する魔物の群れを真正面から撃退するのか……。誘導したり罠を張ったりと策はありそうなものだが、俺が考えるような対策は街の人たちやエルフの人たちがすでに考えているだろう。あるいは単純に準備をする時間が足りないのかもしれない。
「どのみちこの里へも魔物が襲ってくる。戦闘が可能な者はベルバルの街と共に戦おうと思う」
「ああ、どのみちこちらへ来るのなら戦おう!」
「私たちの里を守るわ!」
「うむ、時間はあまりない。必要な物を持ってすぐに移動をする。戦闘に参加をせず避難する者も準備をしておくように」
長老さんの言葉に湧き上がる里の人たち。
いきなり大変なことになったぞ……。
「ソウタ殿、ノア殿。いきなりこんなことになってすまぬが、聞いての通りじゃ。すぐにマーテルと一緒に避難してほしい」
「長老、妾もみなと共に戦うのじゃ!」
「駄目だ! お前は避難していなさい!」
「そうね、あなたは他のみんなと一緒に避難していなさい。わがままは許しません!」
マーナさんもバーロルさんもマーテルに有無を言わせぬ様子だ。
自分の子供を戦場へ向かわせたくないに違いない。マーテルの他にもこの里には子供の姿をした者もいたし、その子たちも避難するのだろう。
「……あの、俺も一緒についていっては駄目ですか? ノアは速いですし、気球で空を飛ぶこともできるので、いざとなった時の避難の手伝いはできると思います」
「ふむ、報告によると空を飛ぶ魔物はいなかったようじゃ。ソウタ殿がそう言うのなら構わぬが、これは儂らの問題であるから、本当に無理はせぬようにな」
「はい」
さすがにこの状況でなにもせずに俺だけ逃げるというのはなしだ。ノアがいればなんらかの力になれるかもしれない。
「いざとなったら妾もソウタとノアと避難するのじゃ!」
「……仕方がないわね、その代わりに危なくなったらすぐにソウタさんと避難するのですよ」
「っ!? なにを言っているんだ、マーナ!?」
「この子が素直に言うことを聞かないことはあなたも分かっているでしょう。隠れてついてこられるよりも目の届く範囲に置いておいた方がいいわ」
「うぐっ……確かに……」
聞いた話によるとマーテルが里を出る時もひと悶着あったらしい。ご両親も大変だな……。
いざとなったら、すぐに避難するという条件でマーテルも同行することになった。すぐに準備をして、ベルバルの街へ向かう。
森の中では何度か魔物に遭遇したが、先日遭遇した魔物以上に混乱している様子だった。同じ魔物ということで、離れていてもなんらかの異常を感じ取っているのかもしれない。
「……街もすごく慌ただしい様子だ」
「避難する者が大半なのじゃろうな」
ベルバルの街へ無事に到着したが、街の中や外も非常に慌ただしい様子だ。避難しようとしている大きな荷物を持った人や馬車が次々と街から出てくる。
エルフの一向ということでとても目立っていたけれど、今は非常事態ということで、それを気にするような者は少なかった。
「タルバン殿、来てくださいましたか!」
「会うのは久しいな、ソルガ殿」
街の中へ入り、騎士団がいる場所へと案内されると、甲冑に身を包んだ偉そうな人たちがやってきて長老さんたちに頭を下げてきた。この人がポーザバードを使ってエルフの里とやり取りをしていた人かな。
随分と腰が低い感じだけれど、やっぱり長老さんは結構偉い人だったりするのだろうか……。
「この度はご助力感謝いたします。エルフの皆様が手を貸していただければ百人力です!」
「ベルバルの街の次は儂らの村になりそうじゃから当然じゃ。状況はどうなのじゃ?」
「……正直、かなり厳しい状況です。魔物の個々の強さはそれほどでもないのですが、とにかく数が多く、過去最大級の規模のようです」
「スタンピードで一番厄介な点じゃな。儂らも魔法には自信はあるのじゃが、魔力には限界があるからのう……」
「国に救援を要請したのですが、時間的に厳しいでしょう。街の城壁がどれだけ耐えられるかどうか……。壁が破られた場合は街を捨てて即時撤退します。タルバン殿も決して無理はされないようお気を付けください」
「うむ。ソルガ殿も御武運を」
……状況はあまりよくないようだ。
そのあとは騎士団の人に案内されて、街の城壁の上へと案内された。




