第53話 しばしの休息
「ほう、こいつは奥が深いわい」
「うむ、それぞれの駒が固有の動きをしておるから考えることが多いな。加えて相手の取った駒を味方として使用できるというのも面白い」
「こっちのトランプという遊具も面白いわね。ひとつの遊具でこんなにたくさんの遊びができるなんてすごいわ」
昨日は里を案内してもらい、またしても豪勢なご飯をご馳走になったお礼として、元の世界の将棋やトランプやリバーシなどの遊具を教えてあげた。
俺が長老さんの家を訪れた時もみんなで集まってボードゲームをしていたし、みんなで遊べるかと思ったのだが、思った以上に喜んでくれていた。寿命が長いということはそういった遊具で遊ぶ時間も多いのかもしれない。
トランプは厚手の紙がなかったので、代わりに薄い木の札を作った。将棋やリバーシもそうだが、俺が作り方を教えたら、魔法を使って一瞬で作ってくれたぞ。本当に魔法は便利だ。
「ソウタ殿、とてもすばらしい遊具を教えてくれて感謝するぞ。お礼は期待しておいてくれ」
「あまり気にしないでください。俺が考えて作ったわけではありませんから」
「いや、昨日の料理もそうじゃったが、ソウタ殿の故郷のものはどれもすばらしい。こういったものにはしっかりとした対価が支払われるべきじゃ」
「……それではありがたくいただきます」
これらの遊具は俺が考えたわけじゃないから、少しだけ気が引ける。とはいえ、俺もそこまで余裕があるわけではないからな。エルフの人たちは魔道具を作るのが得意な人もいるそうだし、護身用の魔道具みたいな物をもらえないかだけあとで聞いてみよう。
俺のプライドなんかよりもそちらのほうが優先だ。先人の発明や知識に感謝するとしよう。
「長老、ベルバルの街からポーザバードが届いております」
「うむ、今ゆくぞ」
「ポーザバード?」
「鳥型の魔物なのじゃ。人懐っこく、とても速く飛ぶので里の外との連絡用に飼っておる」
マーテルが答えてくれた。
なるほど、伝書鳩のようなものか。さすがに遠くと通信できる魔道具みたいのはないみたいだけれど、ああやって遠くの場所と連絡できるのは便利だな。
さて、今日もエルフの里を見学させてもらうとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あら、明日には出発してしまうのね」
「はい、もうここへ来てから5日も過ごさせてもらいました。マーナさんたちにはずっとお世話になりっぱなしですからね」
エルフの里へお邪魔してから今日で5日目。さすがにのんびりとしすぎたので、明日には出発する。
この5日間は本当になにもせず、エルフの里を見て回ったり、美味しいご飯とお酒をご馳走になっただけだ。このままでは人間が駄目になってしまう。走行ポイントも貯めていきたいところだし、そろそろ出発せねば。
「あと1年くらいゆっくりしていけばいいのに。ねえ、あなた」
「……そうだな、長老や他の者も君を気に入っている。それにマーテルもせっかく帰ってきたことだし、もう少しゆっくりとしていってもいいと思うぞ。だが、マーテルはやらん!」
さすがに1年は長すぎるぞ。相変わらずエルフの時間間隔にだけは慣れることができない。そしてバーロルさんは勘弁してほしい。マーテルももはやあきれ顔で見ている。
ただ、まだいてもいいと言ってくれるのは嬉しいな。マーテルもしばらく俺とノアと行動を共にしてくれるようだし、またエルフの里へお邪魔させてもらうとしよう。
「あら、少し外が騒がしいわね。なにかあったのかしら?」
「えっ?」
確かにマーナさんの言う通り、挨拶に来ていたマーテルの家の外が騒がしい。なにかあったのだろうか?
「みなさん、外へ集まってください」
里中になんらかの魔法による大きな声が響き渡る。外へ出ると、他の里のみんなも集まっていた。
「少しまずいことになったようじゃ。先ほどポーザバードによりベルバルの街から連絡があったのじゃが、どうやら魔物の大量発生によるスタンピードが発生したらしい」
長老さんの言葉に周囲のみんながざわつく。
「みなも知っての通り、ここしばらくの間魔物が普段よりも興奮していたり、異常行動をとったりしていたであろう。やはりスタンピードの兆候であったようじゃ」
……そういえばこの里に来る時、魔物がいつもと少し違うとマーテルが言っていた。もしかすると、それがその兆候だったのか。




