第51話 歓迎の宴
「ほう、マーテルが男性を連れてきたからもしやとも思っていたが、婚姻を結ぶために里へ戻ってきたのか」
長老さんまでそんなことを言い始める。
いや、誰もそんなことは言っていない。ベルダさんにはそれとなく聞かれたけれど、そこはきっぱりと否定したぞ。まだマーテルとは出会ったばかりだし、結婚どころか恋人ですらない。
「なっ、なにを言っておるのじゃ、父上! ソ、ソウタとはまだ出会ってから一月も経っておらぬわ!」
「なにっ、出会って一月も経っていないのに結婚だと! お父さんは絶対に認めないからな!」
「………………」
全然話を聞いてくれない……。だから違うというのに……。
「あなた、少し落ち着きなさい」
「ぐえっ!?」
突然バーロルさんの首元が後ろに引っ張られた。そこにはいつの間にかとても綺麗な女性が立っている。この里にいる女性は全員が美形で、この女性も例外なくとても美人だ。
「母上、ただいまなのじゃ!」
「お帰り、マーテル。元気そうね」
マーテルがバーロルさんから離れ、女性へと抱き着く。この女性がマーテルの母親なのだろう。
父親に抱きしめられた時よりもだいぶ嬉しそうだ。マーテルもこうして見ると年相応の女の子に見える。
「は、はじめまして、ソウタと申します。マーテルには何度も助けてもらいまして、友人となりました。そのまま護衛をしてもらいつつ、しばらくの間旅に同行してもらっております」
『ノアです、どうぞお見知りおきを』
マーテルの母親であるマーナさんに視線を飛ばされたので、頭を下げて礼儀正しく自己紹介をする。
父親の手前、護衛であることを強調した。
「ソウタの作るご飯はすごくおいしいのじゃ! それにソウタの相棒のノアはとってもすごいのじゃぞ!」
「あらあら、相変わらずマーテルは食いしん坊ね。ソウタさん、ノアさん、娘がお世話になっております」
マーナさんが俺とノアに向かって頭を下げる。よかった、誤解は解けたみたいだ。
「そ、そうか……マーテルが男を連れて来たと聞いたので、つい……。ソウタさん、大変失礼しました。バーロルと申します、娘がお世話になっております」
「は、はい。こちらこそマーテルにはとてもお世話になっています」
バーロルさんが礼儀を正して手を差し出してくるので握手をする。エルフという種族にも握手の習慣はあるらしい。
真面目な顔をするとすごく威厳があるので、こちらも緊張してしまう。
「……ところでマーテルとは呼び捨てで呼び合う間柄のようですね。ぜひ娘との関係を詳しくうかがいたいですな」
「………………」
握手している手が痛い……。めっちゃ圧をかけてくるな……。
「ち、父上はもう邪魔じゃからあっちへ行くのじゃ!」
「ぐはっ!」
マーテルの言葉に崩れ落ちるバーロルさん。
うん、この人はだいぶ親バカのようだ。なんかもうこの場がめちゃくちゃになってきたぞ……。
「ほう、イモを熱した油に浸すとこんな味になるのか!」
「こっちの唐揚げという料理もすごくおいしいわね! グレートボアの肉がこんな味になるなんて驚いたわ!」
日が暮れて夜になった。
長老さんの家で挨拶をしたあとは空いている家に案内されてようやく一息つくことができた。しばらくするとマーテルが来てくれて里を少しだけ歩く。今日は俺のために歓迎の宴を用意してくれたらしく、家の下の広い場所に椅子やテーブルがあり、たくさんのご馳走が並べられていた。
里のみんなはノアに興味津々だったので、ノアの紹介がてらキッチンカーに変形してもらい、フライドポテトと唐揚げを作って里の人たちへ振る舞った。これからしばらくお世話になあるわけだし、こちらも友好的な態度で接するべきだろうと考えたわけだ。
「客人なのに料理を振る舞ってもらってすまぬのう。このタレの味は非常にうまいわい」
「それは焼き肉のタレという調味料を使っています。俺の方こそこんなにおいしい料理を振る舞ってもらって感謝しています。こっちのビーダルラビットの肉なんて本当においしいですよ!」
このビーダルラビットという肉は焼き肉のタレとよくあうな。さすがにご飯を炊くと時間がかかるので自重したが、白米と合わせたい気分である。
ここに出ている料理はどれも俺が食べたことのないような食材を使ってくれている。それに他の街では高価だった香辛料などもふんだんに使っているので、どれも本当においしい。
エルフには長い寿命があるので、舌もだいぶ肥えていくのかもしれないな。とはいえ、俺の世界の料理や味付けもエルフの里の人たちにも新鮮で楽しんでもらえているようだ。




