第50話 エルフの長老
「ほう、マーテルか。前に里へ帰ってきてから30年くらいかのう?」
「10年くらいなのじゃ」
「おおっ、それくらいであったか」
「………………」
ベルダさんと同じで時間の感覚がすごいな……。こればかりはエルフ特有のものなのだろう。
それよりもこの長老さんの家には7~8人のエルフが集まっていた。それも里でこれまでには見かけなかった年配の人ばかりだ。もしかすると重要な会議でもしていたのだろうか?
「相変わらず長老の家に集まって遊んでいるとはよっぽど暇なのじゃな」
「今は畑仕事もないからのう。これが唯一の楽しみなのじゃよ」
なんだ、そこにある将棋のようなボードゲームで遊んでいただけなのか。もっと大事な会議でもしているのかと思ったぞ……。
「マーテルこそ、その言葉遣いは相変わらずなのじゃな」
「里の外ではこっちの方が威厳があっていいと教えてくれたのは長老なのじゃ!」
「おっと、そうじゃったかのう」
どうやらマーテルの言葉遣いを教えたのはこの長老さんらしい。ベルダさんは普通に話していたもんな。
「はじめまして、ソウタ殿、ノア殿。この里の長をしておるタルバンじゃ」
「はじめまして、ソウタと申します」
『ノアです。よろしくお願いします』
「ほお~魔法でもないのに不思議なものじゃな」
長老さんや他の人たちもベルダさんと同じでフワフワと浮かんでいるノアに驚いているようだ。魔法や魔道具のある世界なのだから、そこまで不思議に思うことはないのにとも思ったけれど、魔法以外の力だから余計に興味があるのかもしれない。
「実は目が覚めたら知らない場所にいて、この能力を使えるようになっていたのです。マーテルから長老さんは物知りだと聞いています。俺と同じように、突然なんらかの特別な能力に目覚めたという人を知っていないでしょうか?」
異世界については説明が少し面倒だから省略だ。ベルダさんや長老さんにノアを見せた理由のひとつに俺と同じような転生者が他にいないのかを聞きたいという理由がある。
マーテルの話によると長老さんは300歳を超えているらしく、昔はマーテルのようにいろんな場所を旅していたらしいので、そういったことを知っている可能性もある。
「ふ~む、過去に特別な魔法を使う者と出会ったことはあるが、魔法を使わないこのような力は初めて見るのう」
やっぱり俺のように異世界から転生してきた人はいないのか。
「じゃが、魔法を使わずに特別な力を有していたという記録は他国にもいくつか残っておったな。それが本当にあった出来事なのかは儂には確認はできぬが、後ほど教えよう」
「あ、ありがとうございます!」
そうか、歴史上の記録には残ってたりもするのか。前世に帰りたいというわけではないけれど、俺と同じように転生してきた仲間がいたら心強いからな。
「しばらく里で過ごしたいということじゃが、もちろん問題ないのじゃ。空いている家がいくつかあるので自由に使ってよいぞ。里の中を出歩く時は誰かと一緒に行動してくれるとありがたい」
「ありがとうございます。もちろん大丈夫です」
この里への滞在も問題ないらしい。さすがにひとりでの行動は制限されるらしいけれど、どちらにせよ俺もひとりで出歩くのは怖いからむしろありがたい。
「里の者は外の客人が珍しいからいろいろと質問をされて煩わしいと思うが、許してほしいのじゃ。行き過ぎたことがあれば儂からも注意するから教えてくれ」
「わかりました」
「儂もノア殿のことやソウタ殿の故郷のことはとても気になるからぜひ教えてほしいのう」
「長老、抜け駆けはずるいですぞ! ぜひ儂にも教えてほしいわい」
「ソウタさん、私も教えてください」
「ええ、もちろんですよ」
里への滞在も無事に許可してくれたし、転生者らしき人の情報も教えてもらえるようだし、それくらいお安いご用だ。
「ノアは万乗ビークルといって、俺の故郷の乗り物に――」
「マーテル、マーテルはどこだ~!」
俺がノアのことを説明しようとしたところで、突然長老の家の入り口からドタドタと大きな音がした。そして20代後半くらいの若い男性が入ってきた。
「これバーロル、客人の前じゃぞ」
「し、失礼しました! マーテルが帰ってきていると聞いてつい……。おお、元気だったか!」
「……父上は相変わらずせわしないのじゃ。妾は元気じゃぞ。父上も元気そうでなによりじゃ」
そう言いながらマーテルに抱きしめるバーロルさん。マーテルのほうは少しだけ煩わしそうな表情を浮かべつつも抱きしめ返している。
どうやらこの人がマーテルの父親らしい。年齢や外見的には兄くらいにしか見えないのだが、本当にエルフという種族はどうなっているのだろう?
そしてなぜか俺のことを睨んでいるのだが……。
「はじめまして、ソウタと申し――」
「貴様に娘はやらんぞ!」
「………………はい?」
いきなりバーロルさんがよくわからないことを言い始めた。




