第48話 里の入り口
森を1時間ほど歩き、だいぶ奥まで進んできた。あのあとも何度か魔物に遭遇した。その中にはこちらを襲ってくるヘビ型の魔物とサル型の魔物もいたが、どちらもマーテルが撃退してくれた。
やはりマーテルの魔法はすごかったな。大型の魔物でも風魔法や水魔法で難なく撃退していた。ありがたいことに俺の出番はまったくなかったぞ。
「………………」
「どうしたの、マーテル?」
前を進むマーテルが腕を組みながらなにやら考え事をしている。なにか気になる事でもあったのだろうか。
「いや、魔物の動きが少し気になってのう。どの魔物も興奮した様子じゃったが、近くに凶暴な魔物はいなかったのじゃ」
『普段この森に生息する魔物がそういう性質を持っているわけではないのでしょうか?』
「そんなことはなかったと思うのじゃが、妾が前回里帰りをしたのは10年ほど前じゃからな。帰る度に森の生態系も少し変わっておるし、この森にヌシのような大きな魔物が現れたのかもしれぬ。今のところそこまで大きな異常ではなさそうじゃから大丈夫じゃ」
『なるほど、さすがに10年あれば森の生態系が変わっていてもおかしくありませんね』
森の生態系か。あまり意識をしたことがなかったな。そもそも魔物が興奮状態だったこともあまりわからなかった。今のところ問題ないならなによりだ。
……それよりも10年ぶりの里帰りというほうが気になった。いくら寿命が長いとはいえ、10年はさすがに長い気がする。そしてマーテルはいったい何歳なのだろう。
「おっと、そんなことを考えていたら着いたようじゃ」
そう言いながらマーテルが立ち止まる。しかし、そこには先ほどまでと同じ森が広がっているだけだった。
「ええ~と、なにもないように見えるけれど……」
「普段は魔法で魔物や人が近寄らないようにしておるからのう。少し待っておれ」
マーテルは目の前の森の向かってなにやら呟き始めた。
「おおっ!」
するとただ森が続いていたはずの景色がボロボロと崩れ始め、ツタでできたトンネルが姿を現した。
「ここが妾の里の入口じゃ。入り口からはこの場所を知っており、特殊な魔法を使える者しか入ることができぬ」
「なるほど、これはすごいな!」
幻影とかを見せる魔法なのか、このツタのトンネル以外は森の景色がただ広がっている。その不思議な光景に思わず驚いてしまう。手品とかを見せられている気分だ。
部外者である俺をいきなり招待しても大丈夫なのかと思っていたけれど、こういう外敵を排除する仕組みがあるのなら大丈夫な訳だ。まあ俺は魔法を使えない以前に、戦闘能力が皆無なので森の中を進むことすらできないけれどな。
「エルフの里へようこそなのじゃ」
「おおおお!」
『これはとても幻想的で美しい光景ですね』
ツタのトンネルを抜けた先は開けた場所となっていた。
そこには広い畑が広がっていて、たくさんの作物を育てている。その奥には森の中にあった木よりも太くて大きな樹が何本も立ち並んでおり、その樹の上にはたくさんの家と思われる建物が並んでいた。どうやらエルフの里の人たちは樹の上で生活をしているらしい。
そしてその高い木のさらに奥。この開けた場所の一番中心にはそれよりも遥かに高い一本の樹が悠々とそびえたっていた。遠くから見えるここからでもあれだけ大きいのなら、きっと何十メートル、もしかすると100メートル以上あるほどの大きさなのかもしれない。まるで天を突くほどの高さだ。
「すごい、すごいよマーテル!」
「それほど驚いてくれたのなら妾たちも嬉しいのじゃ。やはりあれを見ると里に帰って来たという感覚がするのう」
前に聞いた話では世界樹というわけではなく、葉に特別な力が宿っているわけでもないただの大きな木らしいけれど、大きくて神々しく見えるあの樹はきっとエルフの人たちに特別なものなのだろう。
「うわっ、なんだ!? 魔物?」
そんな綺麗な光景に目を奪われていたところで、突然畑があった場所へ大きな竜巻が巻き起こった。
「ああ、あれは畑の収穫を行っているだけじゃな。エルフという種族は魔法に長けており、大抵の者が魔法を使うことができるのじゃ。そのため里での仕事は大体の者が魔法を使っておるぞ」
「……すごいなあ」
どうやらあの竜巻は風魔法によって作り出されたものらしい。畑作業を魔法でおこなうとはまさに異世界といった感じだ。
そのままマーテルとノアと一緒に畑の方へ進んでいった。




