第47話 ウィストラルの森
「おっ、見えてきた。あれがウィストラルの森か」
『さすがに距離がありましたね。その甲斐もあって走行ポイントは300ポイントまで貯まりました』
ルーガロの街を出発してから4日、ついにマーテルの故郷である里があるウィストラルの森へと到着した。
この4日間はいろいろとあったな。夜中に魔物が襲ってきたが無事にキャンピングカーの壁に阻まれた。そのあとはマーテルが魔法を使って魔物を倒してくれた。それほど大きくはないオオカミ型の魔物だったとはいえ、キャンピングカーの壁には傷ひとつついていなかったから、大型の魔物の体当たりなどでも耐えられるだろう。
昼間にも何度か魔物と遭遇することもあったが、マーテルがすべて倒してくれた。以前に見せてもらった風魔法だけでなく、火魔法や水魔法など様々な魔法を使えたし、ブラックコンドルを倒した時の魔法よりも大規模な魔法を使えて本当にすごかったな。
キャンピングカーでの野営も問題ないことがわかったし、マーテルがいる限り大抵の魔物はまったく相手にならないこともわかった。少なくともマーテルが一緒にいる間は安全に旅ができそうである。
「それではこの森を抜けるのじゃ。グランバの森ほどではないが、かなり広い森じゃからはぐれないようにのう」
「ああ、もちろんだ」
いよいよこれから森の中へと入る。エルフの里へ行くためとはいえ、森の中に入るのはだいぶ怖い。
森の中だとノアに乗ることができないから俺は完全に無力なのだ。一応護身用の防具などは持ってきているけれど、絶対にマーテルから離れないようにしなければ。
あとは最終手段としてキャンピングカーに変形したノアの盾という手段がノア自身から提案された。確かに夜魔物に襲われた時、全然傷付いていなかったからかなりの強度はあるみたいだけれど、できれば使いたくない手段である。
「……マジで怖いんだけれど、冒険者の人はよくこんな森の中を歩けるよね」
「その辺りも慣れじゃな。慣れてくると音だけでなく、魔物の殺気などもある程度感じることができるのじゃ」
森の中は背の高い木々に覆われ、陽の光が遮られて薄暗い。風や虫や小鳥などが葉っぱを揺らしてあちこちから音がして気の休まる暇がない。
視界もほとんど見えないから、いつどこから魔物が襲ってくるのかと不安になってしまう。よく冒険者の人たちはこんな怖い森に入れるものだ。もしもここで日が暮れたら完全に詰みだ。グランパの森で日が暮れそうになったから助けにいけないという理由を今身をもって理解した。
「とはいえ、ノアがいてくれるだけとてもありがたいと思うのじゃ。この森であればずっと過ごしてきたからある程度わかるが、他の森では魔物の襲撃だけでなく、道に迷わないかも気にしなければならぬからのう」
『マウンテンバイクの地図があれば迷う可能性はありませんからね』
「なるほど」
普段は魔物の襲撃に加えて森に迷わないように注意もしなければならないのか……。確かに周囲の木々はどこもまったく同じに見える。
この森はマーテルが長く育った森で道がなくてもエルフの里までわかるらしいけれど、見知らぬ森に入ったら道がわからなくなりそうだ。現に俺もすでにやってきた道が怪しくなってきているほどである。
「……止まるのじゃ」
「っ!」
前を歩いているマーテルが待ったをかける。俺はすぐに止まって身をかがめた。
男として情けない限りだが、マーテルが前を歩き、その後ろに俺が続いてノアが後ろを警戒してくれている隊列をとっている。
「ワイルドディアじゃな。あやつは人を襲わぬから大丈夫じゃ」
「ふう~」
前方からガサガサと音がしてそこから茶色い大きなシカが現れた。元の世界で見たシカとはだいぶ角の形が異なるようなのはあれが異世界のシカだからだろう。
人を襲わない魔物とわかってマーテルが立ち上がり、俺もそれに続く。
「ワイルドディアの肉も野性味があっておいしいのじゃが、さすがにあれを里まで持っていくのは大変だから放っておくのじゃ」
「……うん、そうだね」
澄んだ瞳をして可愛らしいシカだなと思っていたけれど、マーテルはおいしく食べられるかを判断しているようだ。この異世界は文字通り食うか食われるかだから、その考え方の方が正しいのだろう。俺も早く順応しなければな。
『少し興奮状態にあるようにも見えますね』
「うむ。そういう時はより強い魔物に襲われている可能性もあるから注意した方がいいのじゃ」
「な、なるほど……」
よく見るとシカ型の魔物は周囲をキョロキョロと見回して焦っているようにも見える。
当たり前だが、あのシカ型の魔物を捕食する魔物もいるわけだな。森怖い……森怖い……。




