第43話 ルーガロの街
「おっ、見えてきたな。あれがルーガロの街か」
「うむ。まさかこれほど早くここまで来ることができたとは驚きじゃ」
キャンピングカーを開放してから2日が過ぎた。
新しい乗り物が増えたおかげで、原付よりも安心な車で進んで行ける距離が増えたのは助かる。まあ、その分危険な気球を使わなくなったから、進む速度はそれほど変わっていないのだが。
『マスターの探している米という食材があるといいですね』
「ああ、さすがに米がないと辛くなってきたぞ」
これまでと同じようにいくつかの村を経由して依頼された荷物をは運びつつ、目的地であるルーガロの街へと到着した。マーテルの話と村で集めてきた情報によると、この街で米が売っているらしい。キッチンカーのおかげで味付けは満足できるようになったが、やはり日本人としては米の味が恋しくなるのである。
米米米米米米、頭の中にはあの真っ白でふんわりと炊かれたご飯が映像として映し出されている。人はご飯をしばらく食べないとこうなってしまうようだ。
市場で米を探しても、そこから宿を探してご飯を炊くまでだいぶ時間がかかってしまう。そのため、俺たちがルーガロの街へ入ってすぐに目指したのは屋台街だ。屋台街なら米を使った料理が売っているため、見つけたらそのまま食べることができる。
「串焼き、煮込み、スープ……違う、米を使った料理がないぞ……」
「少しは落ち着いたらどうじゃ? まだ街へついてすぐじゃろう」
『周囲から少し不審に思われておりますよ』
「うっ、悪い……」
2人の指摘はもっともである。焦ったところで見つかるという訳でもないし、少し落ち着くとしよう。
パンや麺類などの主食となる料理も売られているから、米があるとしたらきっと屋台の中にあるはずだ。
『マスター、あれではないですか?』
「えっ? おお、あれだ! よかった、やっぱりあったか!」
ノアの指示する方向を見ると、そこにはご飯を焼いた料理を出す屋台があった。焦げ目の間に見える白くて小さな粒は間違いなくご飯である。
「すみません、これってお米ですよね? とりあえず2つください!」
矢継ぎ早に屋台をやっている30代の女性に質問と注文を一遍にする。わかっていても、ご飯を前にするとどうしても焦ってしまう。
「ええ、そうよ。これはご飯を焼いた焼き飯ね」
「やっぱり!」
俺が知っている焼き飯はチャーハンのようにいろんな具材が入ったご飯を炒めたものだが、ここで売っている焼き飯は焼きおにぎりのようにご飯を網で焼いている。形はおにぎりの三角ではなく丸く平べったい感じだ。もしかすると異世界だとおにぎりという概念がないのかもしれない。
なにはともあれ間違いなくこれはご飯である。
「はい、お待ち。熱いから気を付けてね」
「ありがとうございます!」
店の人から焼きおにぎりをもらってお金を払う。ひとつをマーテルに渡しつつ、椅子とテーブルを探すよりも早く焼きおにぎりにかぶりついた。
「……うん、これは間違いなくご飯だ」
口へ運んだ瞬間、外側の皮がパリッと弾け、中からモチモチの温かいご飯が溢れ出す。噛むたびに米粒がほぐれ、外側の噛みごたえのある食感と中の柔らかな食感のコントラストがたまらない。
味付けは醤油などを使わずに塩だけで、具は何も入っていない。それにもかかわらず、本当に久しぶりのご飯の味を噛みしめると、懐かしい味と前世の思い出が頭の中に蘇ってくる。ご飯を食べたことによって元の世界から随分と遠くまで来てしまったことを改めて理解した。
「う~む、確かに食感はよいのじゃが、味がそれほどないように思えるのじゃ」
「ご飯にはいろんな食材を合わせてこそだからね。すみません、これをもうひとつください。それとこのお米は市場へ行けば売っていますか?」
「はい、もうひとつね。ええ、市場に行けば売っているわよ。うちが仕入れているお店を教えてあげるわ」
「ありがとうございます!」
お店の人からもうひとつ焼きおにぎりを受け取る。仕入れているお店まで教えてくれるなんてありがたい。
さっきは久しぶりの味に感動して一気に食べてしまったから、今度はゆっくりと味わって食べてみる。
モチモチとした食感にほんのりと甘いご飯の味。元の世界で食べていたご飯よりも少し甘みが足りず、米の粒は少し長い気もするけれど、十分においしいご飯だ。確か日本の米は長い時間をかけて品種改良してできたものだと聞いていたけれど、このお米も十分においしい。
こちらの世界の食材は元の世界のものよりもおいしいから、お米も多少は期待していた。さすがにご飯は元の世界の方がおいしいかもしれないけれど、それでも俺にとってはこの米が手に入るという事実がなによりも嬉しかった。




