第39話 ミロガル村
「すみません、今晩この村に泊めていただけないでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ。この度はこんな辺鄙な村まで荷物を運んでいただき、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございます。東方面に進んでおりまして、そちら方面の村や街へ届け物がある場合は届けられるかもしれないので教えてください」
「ほう、東の方ですな。村の者にも聞いてみます」
原付で走ること数時間。今日はブラックコンドルに襲われた以外はトラブルなくミロガル村へとたどり着いた。予定ではもう少し進むつもりだったのだが、解体作業の疲れもあるので、今日はこの村に一晩泊めてもらうことになった。
ついでにこれまでと同様にこれから向かう東方面に届け物がないかを確認する。これまで通ってきた村すべてで歓迎され、ご飯をご馳走になったり、泊まらないかと誘われたりした。原付でも結構な道のりだったし、訪問客が来るのも稀なのかもしれない。
走行ポイントを稼ぐのがメインのため、商業ギルドを通さない時はかなり安めの依頼料で引き受けている。村によっては結構貧しそうな村も多かったからな。今回は宿泊代とご飯代である程度相殺してもらうとしよう。
「あらあら、お嬢ちゃんの耳はとっても長いのね」
「お姉ちゃん、あっちで遊ぼう!」
「む、むう……」
村長さんとの話が終わって村長さんの家の外へ出ると、マーテルが多くの村人に囲まれていた。これまでの村もそうだったが、やはりマーテルの容姿は目立つらしい。
困っているマーテルを連れて、村の使っていない離れの家へと移動して晩ご飯をご馳走になった。
「ふ~む、さっきは散々な目にあったのじゃ……」
「マーテルは大人気だったね」
『他の村でもそうでしたし、きっとエルフという種族が珍しいのでしょうね。マスターも子供たちからいろんな話を聞かれましたし、この村は大きな街から離れているので、来訪者自体がとても珍しいのでしょう』
ノアの言う通り、このミロガル村は大きな街から離れていて客人が珍しいこともあるのだろう。ただ、俺はこの異世界へ来てからまそれほど時間が経っていないので、あまり大層な話はできなかった。ちょうどさっきブラックコンドルに襲われて危なかったことくらいだ。
「いただいた食事もおいしかったね」
「さすがに昼にあの唐揚げとやらを食べてしまっては何も言えぬな……」
「まあブラックコンドルの肉には敵わなかったけれど、俺には野草や川魚なんかの味は結構新鮮だったよ」
村で出てきた晩ご飯は野草などを炒めたものと川で獲ってきた川魚の塩焼きであった。他の人にはありふれた料理なのかもしれないけれど、俺にとっては新鮮な料理だった。
特に川魚の塩焼きはおいしかったな。塩だけでも十分うまい。魚を丸ごと焼いて食べる経験なんてそれほどなかった。
やはり魚料理も実にいい。米を手に入れることができたら、海のある場所へ行って海鮮料理を楽しむのもいいかもしれない。
「さて、それじゃあ今日は寝るか。いろいろあったからさすがに疲れたよ……」
『明日も早いですからね。それにうまくいけば明日か明後日には200ポイントが貯まりそうです』
「そうだな。明日中に頑張って進もう」
まだ少し早いかもしれないけれど、早く寝て明日に備えるとしよう。
「……身体を伸ばして横になれるだけ昨日よりもまだマシじゃが、もう少し柔らかいベッドで寝たいものじゃのう」
「俺の安い寝袋よりはこっちの毛布の方がいいかな。それに村の中にいるってだけで安心感があるよ」
離れにある使っていない家には来客用の薄い毛布のようなものがあるだけだった。早くキャンピングカーが欲しいものだ。
俺の知っているキャンピングカーなら多少は柔らかいベッドがあると思うんだけれどな。
「ふむ、村の中にいると言ってもそこまで気を抜かない方がよいのじゃ」
「えっ、どういうこと。さすがに村の中にいれば魔物は襲ってこないでしょ?」
「気にするのは魔物だけではないぞ。村の者から襲われる可能性もゼロではないのじゃ」
「……マジかよ」
さすがにそれは考えていなかった。あんなに人の良さそうな村の人たちまで警戒しなければならないのか……。
「もちろん悪だくみをしている者は非常に稀じゃが、完全に信じ切るべきではないのじゃ。酷いところだと村ぐるみで訪れた者の身ぐるみを剥ぐという村もあるらしいのう。妾が珍しいエルフという種族であることもあるがな」
「なるほど……」
『こちらの世界では治安の面でも普通以上に気を付けなければならないようですね』
マーテルが女性のエルフということもあるが、そういった輩はいるようだ。まあ、元の世界でも治安の悪い国もあるし、日本が平和すぎただけなのかもしれない。
柵のある村の中で泊まる時も気は抜かないようにしなければな。




