第38話 唐揚げ
「ノア、キッチンカーに変形を頼む」
『はい、マスター』
道から少し外れたところでノアに原付からキッチンカーへと変形してもらう。ここなら全方向が見渡せるから、魔物が来ればノアが気付いてくれる。
「さて、さっきのやつを使ってと……」
「さっきブラックコンドルの肉を小さく切って醤油とやらに浸けていたが、いったい何を作るのじゃ?」
「俺の世界だとすごく有名な鳥料理だよ。こいつをフライドポテトやポテトチップのように揚げるんだ」
ブラックコンドルを解体した際、もも肉の一部を一口大に切って、醤油、料理酒、ニンニク、ショウガを混ぜたボールに入れて揉みこみ、冷蔵庫へ入れておいた。あまり肉の部位はわからない俺だが、もも肉くらいは知っている。
15分くらい移動してきたけれど、本当は1時間以上浸けておいたほうがより味は染みこむのだが、さすがにお腹の方が限界だ。
「小麦粉と片栗粉を混ぜ合わせたものをこの肉にまぶして、熱した油に浸していく」
「……ふ~む、相変わらずソウタの世界の料理は手が込んでいるのじゃ」
「確かにこっちの世界だと、シンプルに焼いて串焼きにしたり、煮込んでスープにしたりすることが多いかもね」
俺が調理しているところをのぞき込みながらマーテルが呟く。素材の肉がうまいからそれでも十分売り物になるのだろう。
「こんなものかな。さて、ちゃんと中まで火が通っているかな? ……はふっはふっ、うん、うまい!」
こんがりとキツネ色に揚がっているサクッとした衣にかぶりつくと、中からアツアツの肉汁が口の中に溢れる。肉は驚くほどジューシーで想像以上に柔らかく、脂の旨みと漬け込んだタレの味が至福の味を作り出す。
外はカリカリで中は柔らかく、噛むほどに肉の味とタレの味が絡み合う唐揚げ。タレを長時間つけ込めておらず、タレの食材の割合や揚げる温度や時間などが適当で初めてだったにもかかわらずにこの味とは本当に驚いた。これはブラックコンドルという肉自体の味が非常にうまく、唐揚げという料理に適しているのかもしれない。
「は、早く妾にも食べさせてほしいのじゃ!」
「ああ、ごめん。十分に火は通っていたから、すぐに皿へ盛り付けるよ」
唐揚げに火が通っているかを確認するための試食だったのだが、ついおいしすぎて感激してしまった。
それを見てマーテルが羨ましそうにしているので、すぐに皿へ盛り付けて2人で少し遅めの昼食にする。
「おおっ、なんじゃこれは!? ブラックコンドルを食べたことは何度もあるが、こんなにうまい料理は初めてじゃ!」
「こんなおいしい肉を何度も食べたことがあるのか……。唐揚げは衣の中に肉汁を閉じ込めるから、外側は油でカリカリになって、中はとってもジューシーになるんだよ」
マーテルは唐揚げという料理方法に驚いており、俺はマーテルがこんなにおいしい肉を何度も食べたことがあることに驚いている。
なんとも世界の違いとは大きなものだな。こちらの世界に来て思っていたことだが、やはり俺の世界よりもこの異世界の食材の方がおいしいようだ。俺の世界にはない魔力というものが関係しているのかもしれない。
「味変にマヨネーズやマヨ七味をつけて食べてもおいしいぞ」
「むむっ、マヨネーズとやらは味がまろやかになるのう! こっちのは少しピリッとした辛味も加わっておいしいのじゃ!」
「あとはレモンという酸味のある果物をかけると味がさっぱりしておいしいから、街へ行ったら酸味のある果物を探してみるか」
個人的にはマヨネーズに七味をかけたマヨ七味が好きなんだよ。トリアルやニフランの街ではレモンは見かけなかったけれど、酸味のある果物はあったので、それで代用してもよさそうだ。
「味が変わると止まらぬのじゃ!」
「このあともまだ原付で走るからほどほどにな」
冷めたらどれくらい味が落ちるのかも試してみようと思って多めに揚げたのだが、マーテルがすべて食べ尽くしそうな勢いだ。とはいえ、俺も今まで以上に箸が止まらない。ハンバーガーもおいしかったけれど、素材の味が違うとここまで味が違うのだな。
「うん、これなら十分売り物になりそうだな。ブラックコンドルの肉はそれほどもつわけじゃなさそうだし、せっかくならまた街で屋台をやって消費するか」
「うむ、これなら銀貨5枚でも安いと思うのじゃ!」
『多くの場所を旅してきたマーテルがそう言うのなら安心ですね』
……さすがに銀貨5枚はぼったくりすぎだとは思うが、あれだけ大きな鳥型の魔物の肉の相場はわからない。かなり強そうだったし、空を飛んでいて仕留めるのは難しい魔物なのかもしれない。
値段はあとで決めるにしても、また屋台で販売するのはアリかもしれない。俺とマーテルだけであの量を腐る前に消費するのは難しそうだし、殺されそうになったが、相手を倒した以上はいただける部分を最後までいただくとしよう。




