第37話 使い方
元の世界では上空にそれほど危険な生物は存在していなかったが、この異世界には先ほどのような大きい魔物も多い。
気球では急な回避行動がとれず、転落したら大怪我は必至だ。マーテルの風魔法で落下の衝撃を和らげることはできるかもしれないけれど、さっきもすごい揺れだったし、あの状況で冷静に対処するのは難しいだろう。
『……そうですね。グランバの森のような大きな森を超える必要がある時や急ぎの場合以外は使用しない方がいいかもしれません』
「うむ、正直に言って、あの魔物1体ならともかく、10体ほどの群れになった場合はかなり厳しいじゃろうな……」
そうか、さっきのは1体だけだからよかったけれど、あの規模の魔物が群れで襲ってきたら、いくらマーテルでも俺とノアを守り切れない。しかも空中だから切り札のチケットを使う余裕なんてないかもな。
「うん、そうしよう。それとあまり高い高度で飛ばない方がいいかもな」
景色がいいからというのと、より上空の方が魔物はいないのかと思って上を飛んでいたけれど、そんなことはなかった。すぐに地上へ降りることができ、地上の魔物から攻撃が届かない高さを飛ぶ方が良いかもしれない。
それからノアとマーテルと話をして、気球の運用方法を決めた。やはり他の乗り物と違って、空を飛ぶのは怖いことなんだな。
「さっきの魔物はこれか。思ったよりも大きかったな……」
「こやつはブラックコンドルじゃな。少し大きめの個体のようじゃ」
『こちらの世界にはこれほどの鳥が存在するのですね。データに追加しておきます』
先ほどマーテルが撃ち落とした鳥型の魔物のところまで移動してきた。
羽の大きさだけで俺の身長を超えるといえば、それがどれだけ大きいかがわかるというものだ。こんな質量の魔物が襲ってきてよく助かったな。時間にしたら一瞬かもしれないけれど、間違いなくこの異世界に来てから初めての命の危機だった。
空だけでなく、地上を走っていてもこういった魔物と遭遇していたのかもしれないと思うとゾッとする。この世界で旅をする人たちは本気で命懸けだ。今後はより一層注意しながら進むとしよう。
「ブラックコンドルはとても美味な食材でもあるぞ。例のキッチンカーとやらにはまだ荷物が積めるのじゃろう、肉を切り出して持っていくかのう」
「へえ~この鳥は食べられるんだ。マーテルは解体作業をできるの?」
「うむ、それほど複雑なものでなければな。いろいろな場所を旅していると魔物に遭遇する機会もあるからのう」
……この世界で旅をするのは本当に大変だな。俺も早く魔物と戦える乗り物が欲しいところである。
そのあとはマーテルに教わりながら解体作業を手伝った。といっても、マーテルは風魔法を使って肉を解体していったからやり方はあまり参考にならなかったがな。血抜きのやり方や部位の切り分け方は参考になった。
先ほど命の危機を脱したことで興奮していたせいか、血や臓物などを見てもそれほど嫌悪感は抱かなかった。いつまでマーテルと行動するかわからないし、俺も解体作業はできるようになっておいた方がいいかもしれない。襲ってきた魔物とはいえ、命を奪った以上、できる限りその命をいただくとしよう。
「よし、冷蔵庫には積めるだけ積んだ。それでもまだ余るくらいだな」
「残りは置いておくしかないのじゃ。あとは血に誘われた魔物が綺麗にしてくれるじゃろう。すでに小さな魔物が集まってきておるぞ」
「うわっ、早く移動しよう」
『そちらの方がよさそうですね』
小さなイタチのような魔物が少し離れた場所からこちらを見ている。小さくてとても可愛らしい様子だけれど、血に誘われて集まってくるということは肉食なのだろう。また近寄ってきた魔物と戦闘になったら面倒だ。早くここから移動するとしよう。
「ふう~結構疲れたな。予定ではもう少し先まで進む予定だったけれど、今日は早めに切り上げようか」
まだ気球の走行距離は残っていたが、あんなことがあったばかりなので原付で進んでいる。解体作業は結構な重労働だったため、時間がかかりだいぶ疲労してしまった。お昼もすでに過ぎてしまっている。
マーテルが風魔法で大きく切り分けてくれたから助かったけれど、あれを一人で解体するのは一日以上かかっていただろうな。
「うむ、構わぬぞ。今日はどこかの村か街で宿を借りるとしよう」
昨日はキッチンカーで寝たから身体が少し硬くなっている。俺も今日は横になって寝られる宿に泊まりたい。
「ああ、賛成だ。よし、これだけ離れたら大丈夫か。少し遅めのお昼ご飯にしよう」
せっかくだし、先ほど解体したブラックコンドルの肉を試してみるか。肉の量は山ほどあるから、消費方法も考えないといけないな。




