第34話 異世界の麺
ノアに再びキッチンカーへ変形してもらう。野営は屋台の時と同じくキッチンカーで行う。
村や街まで進んで宿をとってもよかったのだが、マーテルは俺の世界の料理を希望したので、野営することとなった。さすがに街中でキッチンカーを出して料理をするわけにはいかないからな。
昨日はマーテルの宿に泊めさせてもらったことだし、そのお礼は俺の世界の料理を作って返すことになったのだ。
「さて、何にしようかな」
といっても、屋台を手伝ってもらった時にまかないとして焼き肉のタレや生姜焼きのタレを使った料理はすでに食べてもらっている。やはり米が欲しいところだよな。日本の料理を語るためにはどうしても米に合う料理が前提となってしまう。
ふむ、ニフランの街で購入したあれを試してみるか。
「よし、まずはこいつを茹でてと……」
「これは携帯食料の麺じゃな。味がしなくてあまりおいしくないのじゃ……」
「マーテルも知っているんだな。確かにこれは塩だけで食べてもあまりおいしくないけれど、料理の仕方次第では一気においしくなるんだ」
『マスターの世界では米やパンに次ぐ主食となっているそうですよ』
「ほう、そうなのか。それは楽しみなのじゃ!」
こちらの世界では携帯食料として販売されている麺。パンがあり小麦があるので、小麦を水と塩でこねて伸ばして切って乾燥させれば乾麺となる。ただ、こちらの世界では出汁などの概念がないので、茹でてそのまま塩で食べるらしい。
うどんまで太くはなくパスタほど細くはないちょうど中間くらいの太さだ。そしてそれとは別に細い麺も売っていたので2種類を購入してきている。お店の人に聞いたところ、これにはカルミラ草と呼ばれる植物の汁を加えて練った麺らしいけれど、小麦だけをこねるよりも弾力があるので細く切っているそうだ。
俺の世界でもうどんは小麦粉と塩だけで作られているが、中華麺にはそれに卵とかん水が加えられている。かん水とはアルカリ性の湖などで得られるもので、麺にコシを与えるらしい。おそらくそのカルミラ草とやらがその代わりになっているのかもしれない。
ちなみにパスタの麺はデュラム小麦という種類の小麦をあらびきにしたものが使われている。普通の小麦よりもモチモチとした食感が特徴のようだ。なんだか格好いい名前の小麦だから覚えてしまったのは俺だけではないはずである。
「よし、完成だ。こっちが焼うどんでそっちがソース焼きそばだよ」
「どちらもおいしそうなのじゃ!」
今日はふたつの料理を作ってみた。ふたつといっても具の肉と野菜は同じなので、麺と味付けが異なるだけである。麺の種類が違うから、厳密に言うとどちらもなんちゃって焼うどんとなんちゃってソース焼きそばだがな。
やっぱりコンロが三口もあると本当に便利だ。俺の家ではコンロが一口しかなかったら、自炊するのも結構大変だったんだよ。今回も並行して二種類の麺を茹でたあとに二種類の味付けで焼くこともできたからな。
「さて、まずはこっちの焼うどんか。麺が少し細いけれど、どうだろうな? ……うん、ちゃんと焼うどんの味だ」
「おおっ、麺に独特の風味のする味がついていておいしいのじゃ!」
一口目を口に運ぶと、まず麺のモチモチとした弾力が歯に跳ね返ってくる。噛むたびに小麦の甘みが広がり、同時に醤油の塩味と少し焦げた香ばしさが舌全体を包む。やはり焼うどんはこの出汁と醤油の味が決め手だな。
茹であがった麺に肉と野菜を加え、醤油、みりん、顆粒出汁で味付けをしながら炒めるだけだ。麺も少し細いけれど、十分焼うどんの味になってくれている。やはり日本人はこの出汁と醤油の味を定期的に取らないとだめだな。あと強いて言えばカツオ節がほしいくらいか。
「むむっ、こっちの細い麺には濃厚な味が付いているのじゃ! これはハンバーガーのソースにも使われていた味じゃな!」
「おっ、さすがだ。こっちはこの黒い調味料で中濃ソースというんだ」
残念ながらキッチンカーには中濃ソースしか常備されていなかった。贅沢かもしれないけれど、ウスターソースがあればなお完璧だった。
とはいえ、焼きそばを作るのには中濃ソースでも問題なかった。少しだけ味が濃いかなとも思わなくもないが、立派な焼きそばである。焼うどんと同様に茹であがった麺に肉と野菜を加え、ソースで味付けをしながら炒めるだけだ。
どちらの麺料理も問題なく食べられるな。こちらの世界では携帯食料として大きな街では簡単に手に入るようなので、多めに購入しておくとしよう。パンが主食なこの異世界で麵があると料理の幅が広がるからな。




