第31話 これから
「ふ~む、触れることができないし、任意で姿と声を伝えることができるのか。魔法とは異なるようじゃし、妾にはまったく仕組みがわからないのじゃ……」
『マスターの世界には魔法がなかったようですし、こちらの世界の魔法のように特別な能力なのかもしれませんね』
「………………」
とある宿の一室。ベッドの上に座りながら、マーテルがサイコロ状になってフワフワと浮いているノアの様子を検分している。
あのあとドルアさんと分かれて、宿を探そうとしたら、マーテルが泊っている宿へ案内された。……いや、案内というよりは連行されたようなものだ。完全に有無を言わさない様子だったぞ。どちらにせよ今回は俺一人の力だけではなくマーテルに助けてもらったので、拒否するつもりはなかったのだが。
マーテルが泊っている宿はかなり大きく、元々は一人用の部屋みたいだったけれど、先ほど宿の人がわざわざベッドをひとつ持ち込んでくれた。今日は俺もここへ泊まっていいということだろうか……?
「それでソウタはこれからどうするつもりなのじゃ?」
「そうだな、とりあえずお金は多少貯まったから別の街へ拠点を移動するつもりだ。ドルアさんたちが今回のことを言いふらしたりはしないと思うけれど、屋台でだいぶ目立ってしまったし、走行ポイントを貯めるためには新しい場所を走らなければならないからな」
この街でもう一週間ほど屋台を開くことも考えていたが、気球も使ってしまったし、この街も潮時だろう。
「マーテルから聞いていたお米が気になるから、東の方へ進んでいこうかなと思っている」
「ふむ、東か。ちょうどよい、妾もそろそろ拠点を移すつもりだったのじゃ。妾もソウタに同行するとしよう!」
「えっ、同行!? でもマーテルって確か東の方から来たんじゃないの?」
「うぐっ……。そういうことはしっかりと覚えているのじゃな……」
そもそも米の話はマーテルから聞いた話だ。いろんな場所を旅しているのに、わざわざ元来た場所へ戻るのもおかしな話だ。
「……実を言うと、先の件がなくともソウタに同行しようと考えていたのじゃ。冒険者ギルドでは途中で遮られてしまったがのう」
そういえば冒険者ギルドでマーテルは俺になにか頼み事があると言っていた。いろいろとあって忘れていたけれど、あれは俺に同行したいということだったのか。
「ソウタの故郷や料理に興味があったし、ノアのことを知ってより一層ソウタに同行したいという気持ちは強くなったのじゃ。妾はAランク冒険者じゃし、魔法には自信がある。護衛もできるし、とりあえずお試しということで構わぬからどうじゃ?」
「……少しノアと話をさせてもらうぞ」
「うむ、もちろん構わぬぞ」
旅の同行者か……。もちろん考えなかったわけではない。どちらかといえば乗り物は複数人で乗るものだ。
俺やノアのことを話すのはとてもリスクが高いことだとも認識していたが、マーテルなら成り行き上とはいえ俺の秘密を話したし、これまでのことから十分信用に値すると判断している。そもそも俺をどうにかしようとしていたら、グランバの森へ気球で向かい際に何とでもできたからな。
俺としても魔法が使え、この異世界を旅しているマーテルはとても頼りになるし、むしろこちらから同行をお願いしたいくらいだ。とはいえ、今も俺一人の旅ではないからな。相棒であるノアの話も聞いてみないと。
「俺はマーテルと同行してもいいと思うけれど、ノアはどう思う?」
『私も賛成です。正直なところ、護衛の魔道具を手に入れた現状でも自衛手段に不安があります。彼女は優秀な魔法使いということで先ほどの気球のように彼女の魔法と乗り物を組み合わせることができそうですし、マスターの身がより安全となるでしょう。それに彼女のこれまでの言動から判断すると、今のところマスターに危害を与える気はなさそうです』
「そうだな。俺も同意見だ」
どうやらノアもマーテルと行動することに賛成のようだな。魔法使いのエルフか、旅の同行者としては随分と頼もしい。
「マーテル、ぜひ俺たちと一緒に同行してほしい」
『マーテル様、どうぞよろしくお願いします』
「おおっ、嬉しいのじゃ!」
俺とノアがそう言うと、表情を緩ませるマーテル。断れるかもと不安だったのかもしれない。
「向かう先は東の方で大丈夫なのか?」
「うむ、構わぬぞ。基本的にはソウタの行きたいところへ妾がついていくのじゃ。別の村や街を通る時はそちらをお願いしたいくらいじゃな」
「了解だ」
基本的な方角は俺が決めて良いようだ。お金にも余裕ができてきたことだし、まずは一番気になっている食材の米を探していくとしよう。
「それじゃあ明日は朝から移動しようか。……えっと、俺もこの部屋で寝てもいいのかな?」
念のためマーテルに確認する。一緒に同行するとはいっても、もちろん財布は共有しない。先ほどのドルアさんのお礼の金貨10枚もマーテルは必要ないと言っていたが、きっちりと半分に分けた。こういうことはパーティを組むならより一層しっかりと分けなければな。
とはいえ今日はいろいろあって俺も限界だ。ここから宿を探す気力はないから、頭を下げて床に寝袋を敷いてでもいいからここで寝かせてほしい……。
「もちろん構わぬぞ。とはいえ、ぬしも男じゃからな。妾の見事なプロポーションを見て欲情してしまうかもしれぬが、ちゃんと我慢するのじゃぞ」
「それはないから安心してくれ」
「なんでじゃ!」
確かにマーテルの容姿は可愛らしいが、さすがに胸部の起伏もほとんどない彼女に欲情するほど俺も終わってはない。
何より一緒にノアもいるからな。そんな状況で女性を乱暴したりするわけがないだろうに。




