第27話 緊急事態
「よし、こんなものか。マーテルのおかげで必要な物を全部揃えられたよ」
「お安いご用なのじゃ」
冒険者ギルド内にある商店で必要な物をすべて取り揃えた。合わせて金貨20枚ほどの大きな買い物だったが、安全には変えられないからな。これである程度の備えをすることができた。
大きな街の冒険者ギルドなら鍛冶屋や商店が併設されていて、ぼったくりなんかの心配がほとんどないからおすすめらしい。他にも魔物の素材なんかの買い取りもできるらしいので、冒険者以外にもいろいろと利用できるようだ。
「なにかお礼をしたいんだけれど、また俺の故郷の料理とかでいいかな?」
「……それについてなんじゃが、ひとつ提案というか頼みがあるのじゃが、聞いてくれんかのう?」
「頼み? どんな?」
ここしばらくマーテルにはお世話になりっぱなしだ。もうマーテルとは友人みたいな関係だし、可能なことであれば引き受けるつもりだ。
「うむ、実は――」
バタンッ。
「だ、誰か助けてくれ!」
いざマーテルが頼みとやらを口にしようとしたその時、大きな音と共に冒険者ギルドの扉が開かれ、大きな声がギルド中に響き渡った。
冒険者ギルドの入り口に傷だらけの男が入ってきた。
「おいおい、ひでえ怪我だな。すぐに治療してやるぞ」
「俺は大丈夫だ。だけど仲間の1人がグランバの森でブラッドサーペントの毒にやられちまった。もう解毒剤が切れちまってもう1人と一緒に森を超えた先で待っている。頼む、誰か解毒剤を持っていってくれ!」
グランバの森――確かこのニフランの街の西側にある森だ。凶暴な魔物が多く、とても広い森で、そこで迷って命を落とす冒険者も多いらしい。森の中だとノアに乗って進むことができないので、絶対に俺が進むつもりはなかった場所だ。
それに毒を持っている魔物までいるのか……。やっぱりこの異世界はとても危険な世界だ。
「「「………………」」」
怪我をした男の必死の呼びかけに対して、なぜか冒険者ギルドにいる冒険者たちは誰も動かない。
「頼むよ、金ならちゃんと払う!」
「……わかっていると思うが、金の問題じゃねえんだ。今からすぐに出て馬で飛ばしてもグランバの森へ着くころには日が暮れちまう。夜の森の中を進むことがどれだけ危険か、冒険者ならわかるだろう?」
「ぐっ……」
そうか、そういうことか……。
確かにもう少しすると日が暮れてしまう。夜の森には夜行性の魔物が多くいて、道にも迷いやすくて昼の何倍も危険になる。
「グランバの森ならあそこで活動している冒険者も多くいる。運よく解毒剤を持っている冒険者と出会えることを祈るんだな」
「あんたもその怪我をほっといたら死んじまうぞ。悪いことは言わねえから、治療をして明日の早朝に改めて依頼を出せ」
「くそっ、それじゃあ遅いんだ!」
怪我をした冒険者が床に拳を叩きつける。彼は仲間が毒でやられていると言っていた。付き添っている1人は明日でも間に合うかもしれないけれど、毒にやられた人は朝までもたないのかもしれない。
「……マーテルでもグランバの森を夜に進むことは難しいの?」
「いや、妾なら1人でも森をこえることができるじゃろうな」
「だったら――」
「じゃが、夜の森は妾でも不測の事態が起こる可能性が高い。熟練の冒険者であるほど、ほんの少しでも命の危険がある依頼ならば断るのが正解なのじゃよ」
冷たいように聞こえるかもしれないけれど、それがこの世界の常識なのだろう。
「冒険者は慈善事業ではなく、すべてが自己責任じゃ。言ってしまえば、実力不足で森に入ったことも、解毒剤の量が足りない準備不足もすべて自業自得なのじゃ。他人を助けたいと思う気持ちは立派じゃが、それで自身が窮地に陥ってしまっては元も子もないからのう」
「………………」
自業自得か……。言葉にしてしまえばその通りなのだろう。命の危険がある分、冒険者は他の仕事よりも高価な報酬を受け取っていると聞いた。
マーテルや他の冒険者の判断は決して間違ってはいない。自身の安全を第一に考えて行動しなければ長生きできない世界なのかもしれない。
「くそ、もういい! 解毒薬を売ってくれ。待ってろ、必ず俺が助けてみせる!」
「……ほらよ。仲間の無事を祈っているぜ」
本来ならば羽交い締めにしてでも止めなければならないほどの怪我を負った人なのだが、止める人はいない。薄情かもしれないけれど、これで無理に止めに入って恨まれることもあるかもしれないし、自分たちが逆の立場に立ったらこの人の気持ちが痛いほど分かるのかもしれない。
……だけどこの人の足取りは冒険者でもない俺よりも遅く、あの怪我で夜の森をこえられる可能性はほとんどないということは俺にも分かる。
戦車の時のようにお試しチケットを使うかとも考えたが、戦闘ヘリを使ってもここから5分でそこまで辿りつけるかはわからない。SPチケットならばその場に適した乗り物に変形してくれるらしいけれど、5分で状況を改善してくれるような乗り物には心当たりがない。
屋台を開きながらも新しい道を走ってきたこともあって、多少の走行ポイントは貯まっているけれど、今の状況を解決できそうな乗り物なんて――
「……待てよ。あれならいけるのか? ノア、考えを聞かせてくれ」
『承知しました、マスター』
確かに冒険者は自己責任で、もしかすると今のような状況はよくあることなのかもしれない。だけど助けることができるのならできる限りは助けてあげたい。
「……ソウタ、いきなりひとりで何を言っておるのじゃ?」
ノアの声が聞こえないマーテルには俺がひとりでぶつぶつと言っているように聞こえるのかもしれないけれど、今は気にしている暇はない。




