第26話 営業終わり
「マジか、今日までなのかよ……」
「もしかしたら2~3日後に改めて屋台を開くかもしれませんので、その時はお願いします」
「おう、このハンバーガーってやつは最高にうまかったからな。ぜひこのまま続けてくれよな」
「ありがとうございます」
お客さんたちに今日でいったん屋台を閉めることを伝えると、残念がってくれるお客さんが多かった。たった6日間の営業だったけれど、何日も通ってくれるお客さんもいてくれて嬉しい限りだ。
料理を提供するお店を出す人たちの気持ちがほんの少しだけ分かった気がする。まあ、実際にお店を持って商売をするのならもっと考えることや大変なことが多くあると思うけれど。
「無事に終わったようじゃな」
「ああ、ありがたい限りだよ。それじゃあ屋台を片付けるからちょっと離れていてくれ」
「うむ、了解なのじゃ」
昼過ぎに昨日仕込んだ分が売れてお店を閉める。しばらくお世話になったこの場所ともお別れだ。
「変形!」
『了解しました、マスター』
「何度見ても本当にすごいのじゃ……」
ノアに命じると、キッチンカーの姿からサイコロ状の形へと戻っていく。この状態のノアは俺にしか見えないようにしてもらっているから、マーテルにはキッチンカーが消えたように見えている。
これまでも仕込みが終わったら少しだけ走行ポイントを稼ぐために街の外へ出て日が暮れるまで走っているのだが、その際にキッチンカーから元の姿に戻るところをマーテルには見せた。むしろ俺にしかノアを扱えないことを見せた方が俺にとっては安全になる。
その時もだいぶ驚いていたな。魔力を使っていないということがマーテルにとっては驚くポイントらしい。俺には魔力とやらは1ミリも感じられない。
「お隣さんにも挨拶をしてくるからちょっと待っていてくれ」
「それなら妾も行くのじゃ」
ここで屋台を続けるとしても、次は場所が変わってしまうかもしれないので、お隣でスープを売っている老夫婦にも挨拶へ行く。
「すみません、一杯お願いします」
「妾も一杯頼むのじゃ」
「はい、まいど。おや、ソウタさんですか」
「マーテルちゃんも一緒ね。いつもありがとうございます」
最初に屋台を開いた時にここの優しい味のスープを気に入ってしまって、毎日一杯いただいている。特に派手な味ではないけれど、素朴で毎日食べても飽きない味なんだよなあ。
マーテルも一緒に行ったら、マーテルも気に入ったらしく、毎日通っているらしい。俺の店やこの店だけでなく、他の屋台も回っているようだし、見た目に反してよく食べるものだ。
「今日でいったんお店を休むので、ご挨拶に来ました。いろいろとお世話になりました」
「残念ね。ソウタさんのお店のおかげで、うちの店もいつもよりたくさん売れていたのに……」
「あのハンバーガーという料理はとてもおいしかったから残念だよ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
初めて店を開いたこともあって、勝手がわからないところをいろいろと教えてもらったり、列の整理を手伝ったりしてもらった。何度かハンバーガーも購入してくれたし、おふたりにはとてもお世話になった。
うちのお店で飲み物を販売していなかったこともあって、いつもよりこのお店のスープが売れたようでなによりである。
お二人は毎日ここで屋台を開いているらしい。こういった地域に馴染んで長年やっているお店はいいものだな。
「さて、必要な物は護身用の道具や着込む防具などじゃったな」
「ああ、そこまで高くなくて逃げるのに最適な煙幕とか目つぶしとか戦わないやつを頼む。防具は頭用の兜と胸当てあたりがほしいな」
「ふむ、その辺りであれば冒険者ギルドで揃うと思うぞ。この街の冒険者ギルドは大きいから、初心者冒険者用にそういった物を取り揃えてあるのじゃ」
「へえ~そうなんだ」
トリアルの街の冒険者ギルドには行ったが、この街の冒険者ギルドは初めてだ。大きいところだとそういった物も売っているんだな。
屋台を出しながら金貨50枚以上を稼いだ。今後いろんな場所を旅することを考えてヘルメット代わりの兜と胸当ては必須である。キッチンカーは10キロメートルしか走れないから、まだ原付で走らなければならない。その場合にヘルメット代わりの兜はあった方がいいだろう。
マーテルの案内に従って、街の中心近くにある大きな建物へと入った。
「なあ、あれって……」
「ああ、マーテルじゃねのか?」
「隣にいる男は誰なんだ?」
「………………」
冒険者ギルドへ入るとあちこちからひそひそ話が聞こえてきた。話をしている人たちはみな俺の横にいるマーテルを見ている。
実は屋台をしている時にもマーテルは冒険者らしき服装をしている人たちから見られていたんだよな。なんとなく詳しくは聞けなかったのだが、マーテルはもしかすると結構有名な冒険者なのかもしれない。あるいはエルフという珍しい種族だからみんな注目しているだけかもしれないが。




