第25話 今日の賄い
「いや、別にマーテルが困るってことはないだろ?」
「なにを言っておるのじゃ! ソウタが作ってくれたハンバーガーが食べられなくなるのは困るぞ。それにポテトチップと賄いが食べられなくなるのは嫌じゃ!」
「……そこまで気に入ってくれたのならよかったよ」
マーテルから冒険者の話を聞くお礼にポテトチップをお土産に渡したのだが、とても気に入ってくれたようだ。塩味だけでなく、キッチンカーで手に入るコンソメを細かく砕いて少量の塩と一緒に混ぜ合わせたコンソメ味も好評だったしな。
そして昨日はパティを作る手伝いをしてくれたので、アルバイト代と賄いを出してあげたのだが、賄いをすごく気に入っていた。
「とりあえずしばらく働きづめだったから、明日が終わったら1~2日は休むつもりだ。そのあとまた屋台を出すかは少し考えるかな」
この5日間はひたすらにハンバーガーを作って売っていた。この場所が6日ごとに借りるため、休んでしまうともったいないんだよ。また新たに借りる場合は場所が埋まってしまっている可能性もあるけれど、このキッチンカーなら目立つから問題ないだろう。
ある程度の資金を貯めることができたし、たまにはゆっくりと休むとしよう。
「お待たせ、今日の賄いは生姜焼きだよ」
「おおっ、とてもおいしそうな香りなのじゃ!」
仕込み作業が終わり、まだ日は暮れていないが、ちょっと早めの晩ご飯だ。手伝ってくれたマーテルの分の料理もテーブルの上に出す。昨日はマーテルの分を用意していなかったから、パティを作るためのホワイトミルブルの肉を焼き肉のタレを使って炒めたものを出したが、とても喜んでいたな。
どこから見つけてきたのか、高い椅子を持ってきたのでキッチンカーの高いテーブルに座っている。
「むむっ、昨日の肉の味もすごかったが、今日のこの肉の味もうまい! 甘しょっぱさが肉と野菜と調和してとてもおいしいのじゃ!」
「生姜の香りと醤油の味がいい感じだろ」
口へ運んだ瞬間、まず舌を包み込むのは砂糖と醤油の甘辛さ。その直後、追いかけるように生姜の刺激が鼻へ抜けて味覚が一気に覚醒する。噛みしめるたびに肉の脂がじゅわりと溶け出し、タレと混ざり合って深いコクを生む。決して脂っこすぎず、生姜の切れ味が後味をきゅっと引き締めてくれるから次の一口を欲してしまう。
生姜焼きのタレに追加で生姜をマシマシにしてしばらく漬け込んでから焼いた肉の味はさっぱりとしつつも濃厚な味わいだった。そこまで高価でないブタ型の魔物の肉を使ったのだが、とてもいい味だ。
ちなみにいろんな場所を旅したマーテルに聞いてみたけれど、醤油という調味料は初めて聞いたらしい。似たような味として魚醤はあるらしいけれど、醤油は大豆が原料だからしょっぱいけれど別物である。
「……う~ん、パンもいいんだけれど、やっぱりご飯がほしくなるなあ」
「ふむ、ソウタの故郷で主食だったコメという穀物か。妾も食べたことはあるが、そこまでうまいと思えるほどのものでもなかったのじゃ」
「まあ米は単品で食べるものでもないからな。このあとは米を探して東の方へ行ってみるかな」
パンの味も悪くないのだが、やはり生姜焼きにはご飯である。
トリアルの街やこの街に米は売っていなかったのだが、マーテルの話ではここから東の方へ行くと米を育てている場所があるらしい。面白そうな観光地もあるようだし、次は進路を東の方へ取る予定だ。
「ご馳走になったのう。ソウタのご飯は本当においしいのじゃ」
そう言いながら満足そうにお腹を抱えるマーテル。
「こちらこそ手伝ってくれて助かったよ。はい、ポテトチップと銀貨3枚」
「むう、お金よりもポテトチップがほしいのじゃがのう……」
「銀貨3枚分のポテトチップを作るのは大変なんだよ」
仕込みを2時間近く手伝ってくれた報酬を渡す。賄いも含めるとこの世界の相場よりもだいぶ高いかもしれないけれど、手伝いの他にもかなり有益な情報をもらっているから正当な報酬だ。
お金は要らないからその分のポテトチップをほしいとマーテルは言うが、それだけの量を揚げるのは大変である。それに結構な量になるからマーテルも持てないだろう。
「明日の閉店後の仕込みはないけれど、ポテトチップくらいは用意しておくよ」
「ありがたいのじゃが、名残惜しいのう……。ソウタは明日店を閉めたら空いているのか? よかったら妾がいろいろと案内をするぞ」
「それは助かるよ。冒険者視点でどんな護身用の魔道具が便利か教えてくれると助かる」
「うむ、任せておくがよい!」
お金も貯まったし、もうひとつかふたつくらい護身用の魔道具を購入するつもりだ。昨日の夜にあんなことがあったし、護衛手段は多い方がいい。冒険者のマーテルにアドバイスをもらえるのなら願ったりかなったりだ。
もしかするとその次の日にはこの街を出てしまうかもしれないから、俺も少し名残惜しい。マーテルとはこの世界でできた初めての友人のようなものだからな。




