第24話 不審者
『マスター、起きてください!』
「うう~ん、もう朝か……」
『違います。不審な者がキッチンカーの周りにいます』
「えっ!?」
ノアの話を聞いて、キッチンカーの車内で寝ていた俺は飛び起きた。時刻は深夜、こんな時間にこの屋台街へ来ている者の目的なんてロクでもないことに決まっている。
「周囲の状況は? 不審者は何人いる?」
『どうやらこのキッチンカーを調べているようですね。男が2人のようです』
小声でノアに問いかけるとそんな答えが返ってくる。
この街でハンバーガーの屋台を出してから4日、早くも俺のことを嗅ぎまわってくる輩が現れたらしい。
「……2人なら予定通りあれで追っ払うぞ」
こういった状況は事前に想定してノアと相談をしている。俺も寝袋の隣に置いてある小型のナイフと新たに購入した自衛用の目つぶしボールを手にした。
ただ、できるだけ直接的な戦闘はしたくないので、頼むからこれで退いてほしい。
『承知しました。いきます』
パアァァ!
「うおっ、なんだこりゃ!?」
「うわっ、眩しい!?」
キッチンカーの外から車内にまで届くくらい大きなクラクションの音が一瞬だけ鳴り響き、外にいた男たちの声がして、バタバタと立ち去る音が聞こえた。
『男2人は逃げたようですね。作戦成功です』
「そうか、よかったあ~」
ノアの報告を聞いてほっと胸をなでおろす。今のクラクションの音とキッチンカーのヘッドライトを付けたことにより、不審者を追っ払うことに成功したようだ。
これでも逃げないようだったら、クラクションをひたすら鳴らして近くの人を集める作戦をとるところだったが、あまりにも目立ってしまうので最後の手段だった。
「……やっぱりキッチンカーの秘密を探りに来たのかな?」
『相手は2人でしたし、そこまでしっかりとした装備はしていませんでした。どちらかというと売上金目当てか、ここで販売している料理のレシピを盗もうとした可能性の方が高いと推察されます』
「なるほど。やっぱり目立つとそういう輩も引き寄せてしまうのか。ぼちぼちこの街も潮時かもしれないな」
『そうかもしれませんね。十分に資金も集まってきたので、そろそろ別の拠点に移動をしてもよいかもしれません』
ありがたいことにこの4日間で想定していた以上のお金を稼ぐことができた。このキッチンカーが目立つということもあったけれど、ハンバーガーはこちらの世界の住人の舌にあったようで、毎日完売してくれた。
宿代もキッチンカーで寝泊まりすることによって節約できたし、資金にはだいぶ余裕ができた。そろそろ次の街へ移動してもいいころだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……そういうわけで、昨日はそんなことがあったんだよ」
「ふむ、本格的にこの店の料理の秘密を盗もうとするのならもっと大勢で来るじゃろうし、十中八九売り上げ狙いの賊じゃろうな。この大きくて目立つ魔道具を狙ったのかもしれぬ」
そして屋台の営業を始めてから5日目。今日も朝から多くのお客さんが集まってきてくれて、昼過ぎには食材が切れて完売した。
そのあとはいつものように翌日の仕込みをしながらマーテルと話している。2日目にマーテルがこの屋台を訪れてから、毎日ハンバーガーを購入してくれ、店の営業が終わったあとはこうして話をする仲になった。
「防犯がしっかりしているようじゃし、もう近付いては来ぬじゃろうな。とはいえ、別の輩が探ってくることはあるかもしれぬがのう。どうじゃ、これで完璧じゃろ!」
「ああ。もうばっちりだな。でも今はハンバーグの出来よりも俺にはそっちの方が重大なんだけれど……」
マーテルが小さな手でこねたハンバーグはしっかりと丸い形となっており、ハンバーガー用のパティとして十分な出来だ。昨日からなのだが、店の営業が終わったあとにマーテルと話をしながら翌日の仕込みをしていると、マーテルから仕込みをやってみたいと言われた。
さすがにキッチンカーの中へ入れるのはまだ躊躇があったので、キッチンカーの横のカウンターの上でパティを作る手伝いをお願いした。キッチンカーの中にある調味料や調理器具などはキッチンカーの外に出すと瞬時にもとにあった場所へ戻ってしまうのだが、キッチンカーのカウンターは車内に含まれるらしい。
包丁を持たせるのも少し怖いので、俺がホワイトミルブルの肉をひたすらミンチ肉にしてボールに入れ、マーテルがそれをこねてパティの形にしてくれた。できたパティを俺がひたすら冷蔵庫に重ねて入れていく。このキッチンカーの冷蔵庫は家庭用の物よりも大きいのでありがたい。
ミンチ肉をパティの形にしてもらうだけでもだいぶ助かっている。だけど今はマーテルがちゃんとハンバーグを作れるようになったことよりも夜に不審者が現れたことの方が重要なのだが……。
「明日でちょうど屋台を借りてから6日間になるし、このまま店を続けるか一度考えるか」
「なにっ!? それは困るのじゃ!」




