第22話 この世界の魔法
「おっと、自己紹介が遅れたのう。妾はマーテルじゃ」
「俺はソウタです。マーテルさんは――」
「マーテルで良いぞ。敬語もいらんのじゃ」
「………………」
いきなり言葉を遮られた。もしかすると見た目通り俺よりも年下なのかもしれない。相手がそう言うのなら従うか。
「わかった。マーテルは日本という国は知っている?」
「ニホン? いや、初めて聞く国の名じゃ」
やはり日本のことは知らないか。俺のような転生者が他にもいるんじゃないかと、これまで訪れた街でもそれとなく聞いているのだが、今のところ日本を知っていた人はいなかった。
「俺の故郷は日本という国なんだけれど、遠くに来すぎて戻れなくなってしまったんだ。日本ではこのハンバーカーのような料理やこういった物なんかはそれほど珍しくはないんだよ」
「ふむ、それはすごい国じゃのう。あのハンバーガーはどれも本当においしかったし、あのポテトとやらは外がカリッとしていて中はホクホクで初めての味じゃったぞ!」
「気に入ってくれてよかったよ。それにしても、マーテルはよく4つも食べられたよ。大柄な男の人でも3つくらいが限界だったからね」
うまくノアから話を逸らせたようだ。それとは別にマーテルの食欲はすごかったな。
目をキラキラさせながらハンバーガーとポテトについて語るマーテル。……俺の考え過ぎだったか。単に珍しいものやおいしいものに目がないだけだったのかもしれない。
「あれほどおいしければ食欲が出るのも当然じゃぞ! のう、他の者には誰にも話さぬし商売にしないと誓うから、仕込みをしているところを見ていてもよいかのう?」
そう言いながら上目遣いでこちらを見てくるマーテル。その仕草はまるで西洋の人形みたいでとても可愛らしい。そういえば仕込みと片付けをしなければいけないところだった。
「構わないけれど、そこまで大したものじゃないからな」
実際のところハンバーグの作り方は誰でもわかるだろうし、肝心のソースはキッチンカーで補給されるから同じ物は作れない。そして俺は走行ポイントを貯めるためにしばらくしたらこの街から離れるつもりだからレシピを知られても問題ないのだ。
「そうだ、もしかしてマーテルって魔法を使えたりする? もしも使えるんなら、交換条件として魔法を見せてよ」
「うむ、使えるぞ。もちろんそれくらい構わぬ。どんな魔法が見たいのじゃ?」
「おおっ、それが魔法か! そういうのが見たかったんだよ!」
どんな魔法が見たいのかと聞きながら、彼女の両手には火、水、風、土の塊がフワフワと浮かんでいる。
先ほどまでは何もなかった空間に突然現れた魔法。物理の法則とかが馬鹿らしくなってくる光景だけれど、こういうファンタジーな世界に少し憧れはあった。
「……まだ魔法を放ってはいないのじゃがのう」
「俺は魔法を見たことがなかったから、こういうのだけでも見たかったんだよ。水のやつをこっちに近付けられる?」
「うむ」
マーテルの手の平にあった水球がゆっくりと上がってくる。キッチンカーの中から身を乗り出し、フワフワと浮かんでいる水球を指でつつくとプルプルと揺れた。
まるで宇宙空間にいる時の映像を見ているようだ。まさか異世界でその時の光景が見られるとは思いもよらなかった。これが魔法か、とても面白いものを見ることができた。
「ありがとう、満足したよ。俺は魔法の適性がなかったから羨ましいなあ」
「魔法の適性がある者の方が稀じゃからのう」
トリアルの街で俺に魔法の適性がないことは確認済みだ。教会や冒険者ギルドに水晶のような魔道具があって、それで魔法の適性を測ることができたのだが、残念ながら俺にはどの魔法適正もないらしい。とはいえ、魔法に適性のある人の方が少ないようだし、万能ビークルという能力があるからさすがに贅沢か。
俺が魔法を使えないから詳しくは聞かなかったけれど、これだけの種類の属性の魔法を使えるのはかなりすごいことなんじゃないか?
「それじゃあ明日の分の仕込みをするか。さすがに中に入れるのはちょっとまずいから、そこからで頼むよ」
「うむ、わかったのじゃ」
そう言いながらキッチンカーの前へ椅子を持ってくるマーテル。
さすがに初対面でノアの中まで案内する気はない。それにまだ明るいし、隅っこの方とはいえ屋台街でなにか問題を起こすようなことはしないはずだ。
「なるほど、肉をあえて細かく切ってから焼くのじゃな」
「ああ。俺の故郷のハンバーグという料理なんだ。こうすることで柔らかく食べることができて、肉汁が中から溢れてくる。いくつかの肉を混ぜ合わせたり、野菜を入れることもできるからな」
「ふむ、手間はかかるが、歯の弱い者には喜ばれるじゃろうな。それにパンや野菜に挟んでソースと一緒に食べるのならばこちらの方が合いそうじゃ」
マーテルは小さいのに随分とグルメなんだな。やはり見た目通りの年齢ではないのかもしれない。




