第21話 気になるお客さん
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「気に入っていただけてよかったです。ハンバーガーやイモのフライドポテトは俺の料理なんですよ」
一応は誉めてくれているようなので、お礼を伝える。確かに今回はキッチンカーのお試しなので、素材は値段を中心に考えていたからそれほど良い食材を使えていない。可能ならもっとおいしいパンや肉を使って、他の野菜もいろいろと試したいところだ。
多少は調理にも慣れてきて、作業をしながらお客さんと会話もできるようになってきた。とはいえ、たまにパティを焼き過ぎてノアから教えてもらったりする。フライドポテトの油だけは火事になると怖いので、そちらだけは常に意識するようにしているがな。
「ほう、どちらも初めての味なのじゃ! 冒険者ギルドで小耳に挟んで試しに来てみたが、これほどの味とは思わなかったのじゃ!」
「ありがとうございます。お客さんは冒険者なんですね?」
「うむ。依頼をこなしながらいろんな場所を旅しておるぞ」
やはりこの女の子は冒険者らしい。ちょっと驚いたけれど、この世界だと中高生くらいの年頃で冒険者として活動している者も多いし、女性の冒険者もいた。俺の世界とはいろいろと違うのだろう。
「これは持ち帰りで販売したりしないのかのう? 冒険者の昼食にちょうどいいから絶対に売れると思うのじゃ。それに飲み物も一緒に売ればさらに売れると思うぞ」
おっと、見た目に寄らず賢いな。日本でもハンバーガーはテイクアウトで販売をしているし、この子の言う通り、冒険者のように街の外で行動をしている人たちの昼食にも最適なのである。
そしてお客さんからは飲み物は売っていないのかともよく聞かれる。ハンバーガーはパンだし、喉も乾くから飲み物も一緒に売れるのは間違いないのだが、人手が足りていないのだ。
「いずれはやってみるかもしれないですが、今は人手が足りてないですからね。それにフライドポテトは冷めるとそれほどおいしくないですから」
実際のところ、今はキッチンカーで販売する分だけで手がいっぱいである。持ち帰り用の袋も探さないといけないし、ポテトは揚げ立てが一番だからな。
飲み物だけは前にテーブルを置いて人を雇って別で販売をするのはありかもしれない。
「ううむ、残念なのじゃ……」
「そう言ってくれるのも嬉しいことですよ。はい、ハンバーガー3つお待たせしました」
「ありがとうなのじゃ!」
そう言いながらエルフの女の子は嬉しそうに大きめの器に載せたハンバーガー3つとポテトを運んでいった。よっぽどハンバーガーを気に入ってくれたようだな。
「大変申し訳ございません、材料の方がなくなってしまいましたので、本日はこれまでとなります」
「くそっ、目の前で終わっちまったぜ!」
「ちぇっ、明日は朝から来るしかないか」
「またのお越しをお待ちしております」
時刻はまだ昼過ぎというのにハンバーガーのソースが完売してしまった。
昨日よりもソースを増やして量を用意したつもりだったのだが、今日は朝からお客さんが来てくれていたので、昨日よりも早く完売したようだ。お客様には申し訳ないけれど、この調子で夜まで働いていたら俺の身体も持たなかったからちょうどいいかもしれない。
他のソースとは違って照り焼きソースは結構な結構な量が作れそうだし、今日の仕込み時間も結構取れそうだから、明日はもう少し量を用意しておくか。
「さて、食材を購入する前に片付けと明日の仕込みだな」
昨日と同じように市場へ食材を購入し行く前にまずはやる事をやっておこう。
「主よ、ひとつ聞きたいことがあるのじゃ」
「んん?」
誰もいないのに声が聞こえた。とはいえ、この声と独特の喋り方は聞き覚えがある。
「ああ、やっぱり君か」
キッチンカーの下の方に視線を移すと、そこには小柄なエルフの女の子がいた。他のお客さんはもう全員帰ったのだが、なぜかこの女の子だけが残っている。
「何か気になったことがあるのかな?」
「この屋台は何なのじゃ?」
「っ! 何と言われても屋台ですよ。ちょっと特別な魔道具なんだけれどね」
女の子はいきなりそんなことを聞いてきた。ハンバーガーのことについて聞いてくるのかと思ったら、ノアのことについて聞いてくるとはな。
「……ふむ、魔道具かのう。その割には魔力をまったく感じないのじゃがな」
「ええ~と、そうなのか。俺は魔法が使えないからそこまで詳しいことまではわからないんだ」
『どうやら魔道具というものは魔力を有するようですね。魔法に長けた者ならそれを感じることができるのかもしれません』
……ノアの言う通りな気がする。しまった、魔道具は魔力を持っていたのか。どうやらノアの能力は魔法とは別の力らしい。
まずいな、なんとかして誤魔化さなければ。
「ああ、すまぬ。別に主へ危害を加えたりするつもりなどないのじゃ。ただ、この屋台が妙に気になってのう。こっちの弾力のある黒い素材は今まで見たことがないぞ」
そう言いながらキャンピングカーの前輪部分まで進み、黒いタイヤの部分を興味深そうに触っている。そうか、金属やガラスなんかはこの世界にもあったのは確認したけれど、ゴムのようなものはないのか。
俺に害を与えるつもりはないと言っているが、それを馬鹿正直に信じるほど俺は甘くない。




