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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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竜人

 巨大なゲートから現れたのは、一体の赤い竜人と……それに従えられているかのような、十数体のワイバーンだった。


「竜人、か」


 まさか、地球で見ることになるとは思わなかった。いや、竜殺しもその類か? とは言え、どちらもその性質は本来の竜人とは全く違うものだとは思うが。



「――――この俺が駆り出されるとは、誰が相手かと思えば」



 その姿は、正に人型の竜。はためく竜の翼に、その身を覆う竜の鱗。その頭も人のサイズではあるが、竜の頭だ。


「ただの人間一匹とはな」


 嘲笑する竜人は、その手から鉤爪を伸ばした。俺はビルの屋上という足場に若干の不安感を覚えつつも、その動きを捉えようと竜人を睨む。


「直ぐに片づけてやる」


 竜人の姿が、その場から消える。俺の背後に現れた竜人は、その鉤爪を俺の首筋に振り下ろした。


「見下してる割に、初手で背後を取って来るんだな」


「ッ!?」


 俺は振り返りながら剣を振り上げ、竜人の鉤爪を弾いた。驚愕の表情を露わにする竜人に、俺はそのまま蹴りを入れる。


「ぐッ」


「硬いな」


 一応、闘気を込めた蹴りだったんだが、まともにダメージが通っているようには見えない。どうやら、竜の鱗なだけあって魔術的な防御がかかっているらしい。


「成程な……舐めてかかれる相手では無いらしい」


 竜人は後ろに下がり、その鉤爪の伸びた手を上げて、周辺を飛んでいたワイバーンを呼び寄せる。


「ただのワイバーンと侮るなよ。生体としての格を引き上げる改造が施されている」


「それはアンタも同じってことか?」


 俺が尋ねると、竜人はふんと小さな笑いだけを零した。


「俺が何故人の形をしているのか、その理由を考えてみろ」


 ……アルガの例を考えれば、異能を持った人間を利用したかったからか? 後は、体がデカいとその分コストがかかるとかもあるだろうな。


「異能か?」


 竜人は答えることは無く、だがその鉤爪を持ち上げ……振り下ろした。


「『魔爪斬』」


 シンプルな技名とは裏腹に、鉤爪から放たれた斬撃は俺がさっきまで居た場所を通り抜け、背後の背の高いビルを切断した。一応、斬撃には速度があるようだが、ほぼ鉤爪が振り下ろされるのと同時に斬撃はビルに到達していた。動作を見て回避していなければ、浅くはない傷を負うことになっていただろう。


「それが、異能って訳か?」


「改造された、な」


 ククッと笑って言う竜人。その周囲を舞うワイバーン達が更に竜人に近寄っていく。


「『瘴気解放(ミアズマモード)』」


 竜人から溢れ出した瘴気、それは竜人の肉体を強化すると同時に、周囲に群がっていたワイバーン達まで強化していた。


「こいつらには自分で瘴気を生み出す力が無いのでな、俺が瘴気を生み出してやるのだ」


 瘴気を効率良く運用出来る特殊な機構を持つ生物。向こうでも、その多くは魔物に見られる特徴だったが、魔科学研究会はそれを再現することに成功しているのだろう。


「……はっきり言って、きな臭いな」


 この地球の科学力だけで、浅い魔術知識のみで、果たしてそこまで辿り着けるものか。未来からやってきたニオス・コルガイなんて前例もあるような、何が起こるか分からない世界故に何とも言えないが……少なくとも、ただ技術力のある集団という認識は改めた方が良さそうだ。


「もしかすれば、俺が片を付けるべき案件か」


 兎にも角にも、残りの敵はこいつらだけだ。この竜人とワイバーンの群れを片付ければ、今日のところは終わりだろう。


「……そういえば、黒岬の奴はまだか?」


 闇でアルガを呑み込んだ黒岬だが、アレは恐らくどこか別空間に拉致した筈だ。そろそろ勝負が付いていても良い頃だとは思うが……



「――――待たせましたね」



 地面から飛び上がってきた、翼の生えた少年が一人、刀を構えて俺の前に浮遊する。


「ここからは、俺に任せて下さい」


 そう力強く言い切った黒岬の体からは、闇の神力が漂っていた。


「アンタ、何があったらそうなるんだ?」


「数奇な運命の巡り合わせって奴、ですかね」


 黒岬は竜人の方を向いたまま、片手の甲をこちらに見せて来た。聖痕とでも言うべきか、そこに刻まれた聖なる傷痕からは確かに神の気配が感じられた。


「じゃあ、後は任せても良いんだな?」


「えぇ、その代わり……名前、聞いても良いですか?」


 この状況でもしつこいな。


「西山東だ」


「なんか、明らか偽名な感じが……ッ!」


 思わずこちらを向いた黒岬。その瞬間に放たれた鉤爪による斬撃が、一瞬で黒岬に到達する。しかし、ギリギリで闇の障壁を張れていた黒岬に傷は付いていなかった。


「やっぱり、アイツ不意打ちとか狙ってくるタイプだな」


 尊大な感じからして、正々堂々戦うのとか好きそうに見えるが、意外と根は小心者なのかも知れない。



「――――その力、神秘の欠片だな。お前を殺せば取り込めるのか?」



 闇の障壁が砕け散る。一瞬にして黒岬の眼前まで移動していた竜人は、その鉤爪を黒岬の首筋に迫らせた。


「無理だよ。知らねぇけど」


 黒岬は不快そうに表情を歪め、刀を持ちあげて鉤爪を防ぐ。ギリギリと迫り合った末、黒岬が鉤爪を弾き上げた。


「知らぬのならば、喰らってみねば分からんな?」


 ニヤリと笑い、その鉤爪に瘴気と魔力を纏わせる竜人。その間に、ワイバーンの群れが俺達を囲みこんでいた。

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