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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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黒岬

 放たれた弾丸の雨が、少年の背に浴びせかけられる。


「待ッ」


 文月はその様を見て目を見開くが、大きく広がった闇の翼が弾丸の雨を全て受け止めた。


「俺? 俺は大丈夫ですよ。こんな明らかモブみたいな奴らに負ける訳無いし」


 傲然と言い放った少年は文月に背を向け、その手に握った柄から刃の先まで漆黒に染まった刀を化け物達に向ける。


「一分以内に片付けてやる」


 黒岬の姿が、その場から消えた。気配を追って視線を彷徨わせる文月は、その姿が空の上にあることに気付いた。


「先ずは、デカブツからだ!」


 黒岬の掲げた手の平の上に、巨大な漆黒の槍が生まれる。手に触れられることなく放たれたそれは、ビルや地面を餌に成形された巨人の頭に突き刺さり、巨人はたたらを踏んで後ろに倒れかけた。


「へぇ、結構硬い……っ!」


 余裕そうに巨人を眺めていた黒岬の背後、現れた炎の人型がその手を黒岬に伸ばした。しかし、黒岬はそれを察知して振り返りながら刀を振るう。


「チィッ、気付きやがったな」


「そりゃ、背中が急に温かくなったら気付くでしょ」


 炎の人型は漆黒の刀を自身の体を変形させることで避け、代わりに両手を突き出した。


「だったら、正面火力で焼き殺してやるぜェ!!」


「無理だね」


 黒岬は言い切り、その手を放たれる炎の渦に伸ばした。


「だって、俺の方が強いし」


 放出された闇の魔力は、コンクリートですら一瞬で溶かしてしまうような炎も食らっていき、逆に一瞬で炎の化け物を呑み込んだ。


「さて、と……」


 次はどうするか、と一瞬動きを止めた黒岬は機械の化け物がその銃身を一纏めにしたように、巨大な砲身をこちらに伸ばしていることに気付いた。


「撃たせる訳無いだろ」


 黒岬は刀の先を砲身に向け、溢れんばかりの魔力をそこから撃ち放った。


「黒針」


 細い闇の光は、巨大な砲身を撃ち抜き……機械の化け物は、凄まじい闇の爆発に呑まれて消えた。


「あ、まだデカいのが残ってたな」


 黒岬は巨人の近くに一瞬で移動し、漆黒の刀を振るった。直接触れていないにも関わらず、その斬撃は巨人の首を一太刀で斬り落とした。


「刀の扱いを習えたのも、今思えばラッキーだったな」


 なにかを思い出すように言った黒岬は、周囲をぐるりと見た。


「ヤバい化け物は居るけど……まだ大丈夫そうだな」


 離れた場所で蟹や蛇に蛸の混ざった化け物と戦っている仮面の男を見てそう呟くと、地面に倒れてはいるもののまだ息絶えてはいない巨人を見下ろした。


「有効活用するか。エコだしな」


 黒岬は地面に降り立つと、頭を失って駄々をこねる子供のように暴れている巨人の体に手を触れた。


「気配は……死に掛け、五人。死に立て、三人かな」


 巨人の体に闇の茨が突き刺さり、蔦となってその全身から四方八方に伸びて行く。その蔦はあちこちで倒れている者や、重傷を負っている者に結び付き、黄金色の輝きを放つ。


「敵は分かりやすく化け物で楽だな」


 続けて、黒岬は漆黒の刀を天に掲げ、その上に無数の闇の刃を作り上げた。それらは蔦と同じく四方八方に飛んでいき、しかし怪物達の体を貫き、切り裂いていく。


「っし、殆ど一分以内でしょ」


 そう言うと、黒岬の体は再び空に浮き上がっていく。


「ラストは、あの四面くらいのボスみたいな敵だけか」


 黒岬は空中から刀を巨大な敵……アルガに向け、魔力をその先端に集めた。


「行くか」


 放たれた闇の奔流はアルガの体を覆う、巨大な蟹の甲殻を貫いた。



「――――どうも。手助けに来たけど、要る?」



 アルガの眼前に現れ、仮面の男と並んだ黒岬は刀を構えてそう聞いた。






 ♦




 隣に並び立った少年。澄ました表情で、漆黒の刀を構えている。なにか覚えのある魔力が飛んできたと思ったが……黒岬だ。


(何で、こいつがここに居るんだ……?)


 内心浮かんだ疑問を表には出さず、俺は一先ず投げかけられた言葉に答えることにした。


「必要ない。大丈夫だ」


 仮面を着けているお陰で、今のところ俺だとバレている様子は無い。試験の際は俺に執着してくる様子を見せて来たからな。気付かれない内にどこかへ行ってもらおう。


「……その声は、まさか」


 一瞬で気付かれたな。


「あぁ、知り合いに似ているか? 残念だが違う。俺からの見覚えは無いからな」


「あの時の!」


 無理だ。こいつ、完全に覚えてやがる。


「……だったら、何なんだ」


「別に、何ってことは無いですけど……俺と同じくらい強い癖に、全く噂も聞かないから何してたんだろうって思ってましたよ」


 目の前で暢気に会話をしていた俺達に、痺れを切らしたのかクラーケンの触手が無数に伸びて襲い掛かる。


「それは、俺も思ってたことだな。アンタ、今までどこで何やってたんだ? まともにハンターをやってれば、もう一級になってそうなもんだが」


「っと、まぁそうなんでしょうけど、ちょっと色々あったんですよ。俺にもね」


 俺が触手を斬り裂いて防いだ横で、黒岬は闇の魔力をバリアのように展開して防いでいた。


「それで、そっちはどうなんですか」


「俺か? 俺は、メインはハンターだな。今は五級だが、一先ずは三級をゴールに考えてるところだ」


「ふざけてるんですか?」


「大真面目だ」


 眉を顰める黒岬に、俺は正面から言ってやった。

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