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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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情報共有 in 晩飯

 危なかったな。家に帰り着いた俺は、ついさっきの出来事を思い出し、安堵の息を漏らした。


「顔も隠してなかった上に、色々と見られたな……しかも、相手は一級と来てる」


 だが、正体は露呈しなかったし、深く入れ込んでくるような気配も無かった。そんな暇は無いって感じなんだろう。


「マスター、ご飯出来てますよ」


「あぁ、今行く」


 俺の部屋の扉の向こうから声をかけて来るステラ。一応着ていたハンターの装備を浄化し、着替えた俺はリビングに戻る。


「主様、実戦の方は如何でしたか?」


「そこそこだな。五級異界だと流石に試し甲斐も無かった」


「そうですか」


 と、メイアは恍惚としたような笑みで頷いた。


「予想通りだったか?」


「えぇ。新たな力とは言えど、主様が五級程度の異界に手古摺る筈もありませんから」


 まぁ、俺の異界全ての魔物を敵に回すようなやり方は単純な五級異界の難易度と同等では無いが、実際手古摺る筈も無いレベルではあった。


「最低でも三級くらいまでは上げたいところだな」


「主様なら直ぐですよ」


 本気でやったら直ぐかも知れないけどな。流石に、そういう訳にも行かない。爆速でランクを上げていれば、目立つこと必至だ。


「と、一つ聞きたいこと……というか、共有しておきたいことがあるんだが」


 俺がそう言ったところで、人の姿をしたカラスが料理を机に運んでくる。とんとんと、座卓に置かれていく皿には四人分の料理がきっちりと乗っていた。


「カァ、なんだ?」


 絨毯の上に座り込んだカラスはステラが持ってきた箸を受け取ると、俺に言葉の続きを促した。


「魔物を作ったり、変異種……改造してる奴が居るらしい」


「カァ……心当たりがあんな」


「カラス、何か知っているの?」


 俺が言うと、直ぐにカラスが返事をした。皆がカラスに視線を向けるが、魚の身を口の中に放り込み、呑み込んだ後でカラスは続きを話し始める。


「アレだよ。結構前に、ダンジョンに行った時だ。大嶽丸を倒した後くらいだったか」


「……あぁ」


 思い出した俺は、頷いた。


「マスターも何か知っているんですか?」


「いや、俺とカラスが思い浮かべてるのは同じだ。お前らが有名になり過ぎて身動きが取りづらかったからな、カラスと二人でダンジョンに行ったんだが……そこで、カラスが変異種と出くわしたんだよ」


「先に戦ってた奴らは、スカルスパイダーの変異種だとか言ってたな。だが、本来あの異界では有り得ないレベルの強さの変異種とも言っていた」


「……確かに、何ともきな臭いわね」


 その情報だけでもきな臭いのは確かだが、それだけじゃない。


「加えて、その変異種は妙な力を使っていた。ミアズマだかマナズマだか言う、瘴気の力だ」


「瘴気、ですか」


 メイアの言葉に、カラスは頷く。


「カァ。まぁまぁ手強かったぜ? つっても、あの頃のオレで手強いレベルだから、今のオレなら余裕も余裕だろうがな」


 笑い飛ばすように言うカラス。実際、今のカラスなら余裕ではあるだろうな。


「二級が一人と三級が二人で構成されたパーティでも全く勝てそうにないってくらいだったからな……強さとしては、七里なら普通に勝てるってくらいか?」


「……しちり」


 俺の言葉に首を傾げるメイア。


「あぁ、アレだ。前に俺の試験官をすることになった、準一級の元ハンター。闘気を使って戦う戦士だな」


「思い出しました。前に、主様の口からも聞きましたが……ソロモンの騒ぎの際に、表彰されていた方ですね」


 そんなこともあったな。


「それだ。つまり、準一級クラスなら順当に勝てるレベルの相手って訳だが……それでも、二級のハンターが三人集まっても勝てるか怪しいレベルだな」


 とは言っても、御日なら勝てそうな気もするが。二級も幅が広いということだろうか。


「しかし、態々その話をしたということは……その変異種や作られた魔物を見つけたか、その話を誰かから聞いた、ということですか?」


「そういうことだ」


 ステラの推察に頷いた俺は、本題に入るべく箸を一度置いた。


「異界で術を試していた俺は、変異種らしきオーガを殺した。そいつ自体の強さはそこそこ程度だったが……その時、俺の結界の中に男が一人入り込んで来た」


「許せませんね」


 許してやれ。異界の中でだだっ広い結界を張って通せんぼなんて、そっちの方が迷惑ではあるからな。


「そいつの顔自体は俺も知ってる奴だった。とは言っても、一方的にだが」


「有名人ということですか?」


「そうだ。男は、一級のハンター……氷野雪也だった」


「氷の王子ですね」


 レスポンスが速かったな。こいつの有名人への反応というか、ミーハーなところはどうかと思うが、個人の趣味趣向に口は突っ込まずに置く。


「そいつが、変異種やらを作ってる疑惑のある奴らを追ってるらしくてな。俺が話を聞いたのもそいつからだ。一応、隠してる話っぽかったが……詰めが甘いのか、情報を漏らした挙句に口止めもされなかった」


「成程、流石ですね」


 何が流石なのかは知らないが、本人が語っていた通り調査員の真似事をするのは慣れていないんだろう。


「話は分かりました。こちらでも可能な限り調べて見ようと思いますが、まだ何かありますか?」


「いや、無いな。ただ、そこまで積極的に調べなくてもいい。国の奴らが既に動き出してるなら俺達が手を出す必要も無い。寧ろ、バレて天能連みたいに襲撃をかけられる方が面倒だ」


「カァ。だったら、オレもついで程度に調べることにする」


「私もそれとなく、上がって来る情報からそれらしいものを精査するだけに留めます」


 これで、するべき話は終わりだ。俺は再び箸を手に取り、幾つも並ぶ料理に箸を伸ばした。

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