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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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来歴の一片

 花房は唇に手を当て、思案するように目を伏せる。


「これだけの強さを持ちながらも一級ハンターの中に居ない、そして同じ世界最強クラスの人に関しても全く詳しくない……どこか、俗世離れしてますよね。もし異世界で強くなったとしたら、誰にも気付かれずにここまで強くなれたのも納得が行きます」


「……それだけか?」


 ふるふると花房は首を振る。


「まだあります。私が最初、白雪さんと話した時、異世界帰りであることを話しても全然疑うような素振りを見せませんでした。まるで、前例があるように」


 白雪か。


「そして、今日ここに老日さんが現れた時……二人は明らかに面識があるような素振りを見せていましたよね? 名前、呼ばれてましたし」


 白雪、今度会ったら……というか、今もどっかで聞いてるだろアイツ。遠くから見てそうな感じだったしな。


「おい、出てこい白雪」


 沈黙が場を支配する。


「命令だぞ」


「……」


 目の前にぽつりと現れた白雪は、ばつが悪そうな顔で視線をそらしている。


「どうするんだ、これ」


「……どうしよう?」


 こっちが聞いてるんだが。


「白雪、一応言っとくが俺のことは他言無用だからな」


「それは分かってるけど……」


 白雪は花房に視線を向けた。


「一応、契約しておくか」


 破ろうと思えば破れる可能性は高いが、破られたら破られたで分かりはする筈だからな。


「えっと……」


「手を出せ。他の奴に話せないようにする」


 差し出された花房の手を握り、俺は契約の魔術を唱えた。


「良し」


 疑うこともなく受け入れる花房。直ぐに契約は成立した。


「お、おぉ……これが魔術……」


「破棄されたら分かるからな」


 こくこくと頷く花房。


「て、ていうことは……本当に、そうなんですか!?」


「まぁ、そうだ」


 花房は目を輝かせた。


「老日さんの世界はどんな世界だったんですか!?」


「……異能が無くて、魔術がある世界だな」


 一番大きな違いを言うなら、そこだろう。


「やっぱりっ! だから、最初に会った時に異能がある世界なのか聞いて来たんですよね?」


「そうだな。魔術や魔物は俺の居た異世界から流れ込んで来たものだってのは分かってたんだが……異能に関しては全くの謎だったからな」


 思えば、割と露骨な質問だったかも知れないな。


「それで、他には……世界観というか、どんな感じだったのか聞きたいです」


「一言で言えば、中世だ。良くあるドラゴンが出てくるようなファンタジー的な世界観……いや、ファンタジーというには暗すぎる世界だったが」


「ほう……それでそれで? もっと詳しく!」


 何食わぬ顔で聞いてるが、こいつも大概良く分からない存在だよな。全ての属性を操れる魔法使いってだけでおかしな存在だが、魔眼やら何やらでそれだけじゃないのも分かっている。謎だ。


「……」


「あの、老日さんの世界にも魔王とか居たんですか?」


 魔王か。アイツも可哀想な奴だった。ある意味、俺よりも地獄を味わっていたのはアイツだろう。


「居た」


「強かったですか?」


 花房の問いに、俺は目を細めた。


「今のアンタじゃ、百人居たって勝てやしない」


「そ、そんなに……」


「そりゃそうだろ。油断して洗脳されるような奴が勝てる訳ねぇよ」


 俺はふっと息を吐き、立ち上がった。


「まぁ、俺の話はこれくらいで良いだろ」


「えぇ~? 私はもっと聞きたいよ~?」


 そろそろ警察やら何やらが来たっておかしくない。長居すべきでも無いだろう。


「兎も角、後は戯典だな」


 それと、あの怪しすぎる女と天能連のボスか。こいつらは結局始末できていない。


「そういうのは警察に任せて……って言いたいところだけど、老日君なら任せた方が上手く行きそうだよねぇ」


「あの、二人ってどういう関係なんです?」


 関係、か。


「主従関係だよ!!」


「おい」


 あながち間違ってる訳でも無いが、違うだろ。


「え、えっと……?」


「違うからな?」


 一歩距離を取った花房に、俺は弁解の言葉を伝える。


「こいつのつまらない冗談だ。な?」


「ハイ、冗談デス」


「……そういえば、ここに白雪さんを呼ぶときも命令とか言ってましたよね」


 詰んだ。


「……もう、疲れたから何でも良い」


「ご、ごめんって老日君……ちょっとからかっただけじゃん?」


 俺はさっき肆式を使ってるんだよ。そもそも、こいつも本気で戦った後だろ。何でこんなに元気なんだ?


「華凛ちゃんも、冗談だからね!? 冗談っていうか、私が口を滑らせない為に仕方なくっていうか……ね!?」


「ふふ、何となく分かっては居ましたよ? 白雪さんのことですから、どうせ碌でも無いことしてそうなったんだろうなぁって」


「そ、それはそれで傷付くけど!? ていうか、今の華凛ちゃんに言われたくないしっ!」


「ッ、言いましたね……!? 確かに、白雪さんにも老日さんにも迷惑はかけましたけど、私は白雪さんみたいに悪戯心で――――」


 俺は深く息を吐いて周囲を見回し、誰も居ないのを確認して転移魔術を発動した。

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