何度目かの収束
正気に戻った花房。念の為に頭も調べたが、異常は無かった。地面に座り込んだ花房は、事態の収束を実感して息を吐きつつ、ぽつぽつと喋り始めた。
「いやぁ……正直、私が洗脳なんてされると思ってなかったんです」
「まぁ、だろうな」
そういうのを無効にする異能も持ってるっぽいからな。俺も同じ類いの慢心はしているかも知れない。
「でも、それ以上に驚いたのは私より強い人が居たことです。覚醒まで切って正面から負けるなんて、洗脳以上に有り得ないですって……自信、無くしちゃいました」
「アンタは自信が無いくらいで丁度良いと思うが」
「た、確かに調子には乗ってましたけど……ぅぅ」
花房は赤くして俯き、呻き声を上げた。
「私、めっちゃ恥ずかしいじゃないですか……最悪です……」
「まぁ、恥ずかしい程度で済んでよかったな」
洗脳されてからの時間的に民間への被害は無いだろうからな。ギリセーフだ。
「……俺は、既にやらかしてるからな」
あの時取り逃がした戯典は、天能連に操られて既に大勢を殺している。更に、今回も戯典は回収出来なかった。保身に走ってゴーレムを作るより、さっさと乗り込んで直々に潰す方が何倍も良かった。結局のところ、こうして生身で潰しに行く結果になってる訳だしな。
「老日さんもそういう経験があるんですか?」
「いや、そういうのじゃなくてな……まぁ、何でも無い」
別に、俺は中二病的暴走をした訳じゃない。そうなってる奴はこっちで何人か見た訳だが。
……向こうも大丈夫そうだな。
使い魔の視界を共有して見ると、何とか収まって居そうな様子が伝わって来た。
『こっちは終わった。そっちも大丈夫か?』
『何とか死者は出していません。ただ、何人かは逃がしてしまいました』
『一応、殺した奴はちゃんと死体も残さず消しといたぜ』
問題なさそうだな。
『ナイスだ。これでも復活してくる奴が居れば、魂由来の蘇生かそもそも複製しているかのどっちかになるな』
多分だが、複製の可能性は低い。それが出来るなら、同一個体がもっと沢山居て然るべきだ。
「老日さんって、何でそんなに強いんですか?」
「アンタの世界には魔素自体無かったのか、極端に薄かったのか知らないが、俺は魔物を殺して魔素を取り込むことで強くなった。後は、修行と実戦と勉強だな」
俺が答えると、花房は少し不満そうな顔をした。
「何ていうか、凄い真面目な感じですね……」
「逆に、アンタはどうやって強くなったんだ?」
見当は付いてるが、一応聞いておこう。
「『模倣』ですよ。これで、山ほど異能をコピーして強くなったんです。異世界の人が言うには、私はすっごい異能自体と相性が良くて、因子を受け入れる器みたいなのが大きかったみたいです。だから、普通なら絶対無理な量の異能をコピーして保持出来てるらしいですね」
「そうか。召喚も無作為じゃないだろうからな、地球で一番異能の適正が高いのがアンタだったんだろう」
異能の因子は魂に結び付いている。一度、こいつの魂も観察してみたいが……流石にだな。
「……ていうか、魔物を倒して修行して強くなったって殆ど何も答えて無いようなものじゃないですか!」
「掘り返してきたな」
花房は俺を睨みつけ、座ったままじりじりと近付いて来た。
「今の地球だと、強くなる方法とか皆それでしょう! 老日さんが平均レベルなら分かりますけど、流石にそうじゃないですよね?」
「まぁ、平均では無いな」
「舐めないで下さいねっ!? 地球に帰って来た私がハンターとか異界とか色々知って、最初にしたこと何だと思います?」
「知らん」
俺が答えると、花房は更に目線を険しくした。
「世界最強を調べたんですよ! ハンターとか、魔術士とか、そういうのひっくるめて最強なのは誰なんだろうって!」
「誰だったんだ?」
思えば、調べたことも無かったな。
「分かりませんでしたっ!!」
「何でだよ」
この話の流れで分からなかったパターンとかあるのか。
「でも、最強っぽい人は何人か見つかりましたよ? 剣聖とか雷神とか、日本最強だと不死身の人とか!」
「凄そうな肩書だな」
確かにどれも聞いたことはある。
「皆、やばそうな説明とか動画とか沢山出てきましたけど……絶対、私の方が強いです!!」
「本当か?」
何か普通に負けそうな気がするが。
「だって、山を斬るとか私でも再現出来ますし、雷なら私だって使えますし、死なないだけなら私の方が強いに決まってますッ!」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「だから、そんな私に勝った老日さんが平均よりは高いとか、そんな程度じゃないのは分かってるって話ですよ!」
随分、回りくどく来たな。
「それで、何だ?」
「本当はどうやって強くなったんですかッ! 私ももっと強くなりたいです!」
もっと強く、か。




