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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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280/512

開く夜景、爆ぜる空。

 概ね優雅な休息を味わった俺だが、世間はかなり穏やかではないことになっていた。


「……またか」


 列車による小旅行から時が流れ、テレビに映るニュースは殆どが劇場殺人になった。電子機器を乗っ取って映像を流せるらしく、街中の巨大モニターなんかからもスプラッタな映像が流され、日本には再び混乱が広がっていた。


「カァ、かなり変わったよな」


「何がだ?」


 隣でテレビを見ていたカラスが呟く。


「今まではこんなに頻度も高くなかった上に、一回一回の事件が凝ってただろ? でも、今は適当に殺しまくってるって感じだ」


「確かに、まるで方針が変わったようですね……恐らく、天能連による意思だとは思いますが」


「でも、沢山殺したいって目的には見えないわよね。一回一回の事件で死ぬのは大体数人みたいだし、一般人ばっかりだから、相手を選んで殺してる訳でもなさそうよ」


 言われてみれば、かなり変だな。


「もしかすれば、神や妖怪の類いに似た力かも知れないな」


「神や妖怪、ですか?」


 メイアの問いに俺は頷く。


「あぁ。このやり方、感情を食ってるのかと思ったんだが……実際、能力の使用にはコストが必要そうな雰囲気はあった」


「確かに、やけに色々と勿体ぶってはいましたが……単純に楽しんでいるだけかと思っていました」


 というか、これだけ様々な力が複合された能力をコスト無しで使えるとは思えない。もし好き放題に使えるなら、もっと取れる手段は多い筈だ。


「それに、そうでもないと今起こってる殺しの理由が説明出来ない。快楽殺人鬼の戯典本人なら兎も角、天能連の意思で起こっていることだとすれば、態々映像を流して目立つ必要も無いだろ」


「天能連は元々目立ったことはしない奴らだったって話だからな。ここに来て急に存在を誇示するようなことをするのは確かに不自然だ」


 そうだな。とは言え、だ。


「それが分かっても、特にやれることは無いんだよな」


「そうですね……歯痒いばかりです」


 俺があそこでアイツを殺していれば、死ななかった民間人も沢山居る。勿論、悪いのは戯典と天能連の連中だってことは分かってるが……俺の選択次第で助かった命があったことも確かだ。



「――――主様ッ!!」



 メイアが叫び、俺の前に立つ。次の瞬間、壁をぶち破り飛び込んで来た巨大な怪鳥がメイアの拳で肉塊に変わった。飛び散ろうとした大量の血は、メイアの能力によって空中に留まったが、吹き飛んだ鳥の体内から球状の機械のようなものが宙を舞い光を放つ。


「爆弾ですッ!」


「分かってるわッ!」


 メイアは金属の球体を風通しの良くなった壁から上空へと蹴飛ばした。次の瞬間、爆弾は東京の夜空で爆発し、綺麗な花火となった。


「取り敢えず、こいつを……」


 肉塊と化していた鳥の死体は、空中に留まっていた大量の血液と共にふっと消えてしまった。


「カァ? 何だ今の」


「見た目は魔物のようですが……体内に爆弾が仕込まれていたことを考えるに、自爆特攻だったのでしょうね」


「あの鳥じゃ勝てないって分かってるってことは、ある程度こっちの実力は把握してる敵ってことよね。勿論、私達だと分かって狙って来てるんでしょうけど」


 俺はぶち抜かれた壁から綺麗な夜景を眺め、息を吐いた。


「異能だ」


「あの鳥が、ですか?」


 ステラの問いに、俺は頷く。


「さて……」


 世界に溶けるように消えた怪鳥。一度魂まで調べた俺には分かる。あの鳥は異能で作られていた。


「そっちから手を出して来るなら、良い」


 俺は魔術によって家を修復し、見えなくなった夜景から視線を逸らした。


「潰しに行くか、天能連」


「本気で、ということですね? 主様」


 微笑みを浮かべるメイアに頷き、俺は透明化の魔術を使用した。






 ♦




 全員無傷。焦る様子も無し、壊れた家も一瞬で修復……相当な強敵だな。


「マジかよ、オレの爆弾効いてねー!」


「俺のクリーチャーも瞬殺……えっぐいわ」


 呑気に笑っているプロージの頭を叩き、溜息を吐く。


「言ってる場合かってんだよ。お前ら分かってねぇのか? 手ェ出したってことは復讐される可能性だってあるってことだよ」


「何言ってんすか、遠隔で証拠も何も残んねぇのにバレる訳ねーって話っすよ」


 確かに、クリーチャーは消えるし爆弾は吹き飛ぶからな。証拠は残りづらいが……


「状況的に俺らの犯行ってことはバレんだろうが。ただでさえ、一瞬で何人も異能持ちがぶっ殺されてんだぞ? 攻撃もバリアか何かで効かねぇし」


「つっても、今回のはそもそも試しって話っしょ? オレらの責任じゃねっすよ~」


「そうだな。でも、自分が狙われるかも知れねぇのにヘラヘラ余裕面してんのが馬鹿だっつってんだよ」


「ハハッ、分かった分かった。気ィ付けまーす!」


 クソッタレが。俺の班はどうしてこうもクソなんだ?


「おい」


 扉が開き、灰色の髪の男が入って来た。レンドだ。


「会議だぞ、ボヤン」


「……分かった。取り敢えずお前ら、帰り道は気を付けろよ?」


「オッケー!」


「うぃ……」


 二人を置いて、俺はレンドと会議室に向かった。

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