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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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列車

 色々あったが、なんやかんや五級になった俺は使い魔達とクソ高い列車に乗っていた。一泊二日で数十万とかだそうだ。


「予定を聞かれた時は何事かと思ったが……こういうことだったんだな」


「最近、主様は色々あってお疲れかと思いましたので……以前より興味を持っているように見られました、こちらをご用意させて頂きました」


 確かに、寝台列車乗ってみたい的なことを言った記憶はある。


「しかし、凄いな……列車なのに二階まであるとか、始めて見たぞ」


 一階は居間のようになっており、二階は寝室。木材をベースにした壁は和紙やら大理石やらで装飾されており、和とモダンが融合したような高級感を感じる。


「……悪くないな」


 かなり、落ち着く。やっぱり東京に住んでいると騒々しさというか、人が多い故の落ち着かなさみたいなものはあるからな。その分、こういう場所はかなり落ち着ける。


「今度、旅館とかも行ってみるか」


「良いですね主様! 是非行きましょう!」


 もう少しでメイアの両親の仕事というか、後処理も落ち着くだろうからな。それまでは、寂しさを紛らわせる家族サービスのようなものをしても良いだろう。


「カァ、和菓子があるぞ」


「本当に旅館みたいですね。実際、それくらいの値段を取られては居る訳ですが」


 中心に設置された丸い机には和菓子が入った茶色い器が置かれ、その机を四つの背が低い座椅子が囲んでいる。


「列車にしては本当に広いよな。空間魔術って訳でも無いからな、単純にこの広さな訳だが」


 横幅は流石に旅館の一室と言える程の広さは無いが、二階まで合わせれば十分に四人で過ごせるほど広い。


「四人で一室に泊まれる寝台列車は中々無かったですよ。探すのに苦労はしていませんが、数は多く無かったですね」


 話すステラの横で、カラスが和菓子を頬張っている。


「む、結構うまいぞこれ」


「主様もどうですか?」


 メイアに勧められ、和菓子を手に取った。茶色い饅頭のようなものだが、そこまで大きくはない。


「ん……」


 美味いな。もっちりとした皮と、滑らかな甘さの白あんが美味い。


「美味いぞ」


「良かったです。私も頂きます」


 直ぐにぱくりと頬張るメイア。多分、配下として俺より先には食えないが自分も早く食べたかったんだろうな。カラスは気にせず真っ先に食ってたが。


「白あんですか。私は黒あんの方が好きなんですが……不特定多数の人が口にする物としては、癖の無い白あんの方が良いかも知れませんね」


 確かに、粒あんやこしあんが苦手って話は聞くが、白あんが苦手ってのはあんまり聞かないな。


「それで……この列車はどこ行きなんだ?」


「どこ行きとかは無いですよ。ぐるっと回って帰って来ます。ただ、途中で何度か下車して観光する時間があるようで、最初に降りるのは軽井沢ですかね」


 軽井沢、どこだったか忘れたな。


「観光の時間はカラスに戻っとくぜ、オレは」


「人数確認とかあるかも知らんぞ」


「じゃあ、その時だけ居とくか」


 本当に自由だな。まぁ、元がカラスだからな。人の感覚とは違うのは当然だが。


「因みに、バーとかもあるらしいですが、主様はご興味ありますか?」


「バーか……あんまり、俺は得意じゃなさそうだな」


 バーって、割とコミュニケーションが発生する場所だからな。俺には向いていないだろう。


「勿論、お前らは好きに行って良いぞ。俺は部屋から余り動く気は無いからな」


 この部屋の窓から景色を眺めているのが、俺にとって一番心落ち着く時間になる。


「カァ、オレもバーは興味ねぇからな。二人で行って来たらどうだ?」


「どうします? メイア」


「じゃあ、ランチの後にでも行きましょうか」


 何だかんだ、二人は仲が良いからな。俺とカラスは部屋でボーっとさせて貰おう。






 ♦




 上映室のような暗く広い空間の中で、一人の男が笑っていた。


「ふふ、羨ましいな……旅を楽しみ、その後には劇を楽しめる彼らが羨ましい……」


 巨大なモニターには、列車内の様子が映し出されている。チラチラと切り替わる画面は廊下や部屋の中、厨房、車掌室と移っていくが、列車内の全てを映しはしない。飽くまで決まった場所のみを映し出している。


「今回の登場人物(キャラクター)は中々面白そうだ……吸血鬼に機械、キャストとしては些か特殊だが、その分刺激も大きいだろう」


 カメラが廊下を歩き、バーに向かう二人を捉える。一人は黄金色の髪に真紅の目を持つ美少女、一人は銀色の長髪にライトグレーの瞳を持つ美女だ。


「さて、今回の劇はどうなるかな……? 主人公が現れるか、私の筋書き通りに進むか……醜さも高潔さも、勇気も怖気も、全てを見せてくれ」


 赤いワインを片手に、男は楽しそうに笑みを浮かべた。

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