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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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in 本部長室

 真剣な表情で、犀川は口を開いた。


「……人工の異界、という可能性もあります」


 有り得るのか、そんなもの。


「最近、人工の魔物や人為的に改造された魔物が何体も発見されています。同じように何者かの手によって作られた異界という可能性も、有り得ます」


「それこそ、有り得るんすか? 正直、妖怪が偶然異界のシンボルになっちゃった的な話の方がまだ納得できるっすけど」


 赤咫尾の言葉に、犀川は首を振る。


「あの異界の整備をした私だからこそ、分かるんです。今思えば……あの不自然さには、人為的なものを感じます。あの異界には他の異界のような変化が無いんです。崩壊する危険性も全然見えませんでしたし、拡大しようとすることも無いですし、それに幾つも魔術的な痕跡がありました」


「でも、異界なんだろう?」


「恐らく、異界と同じ性質を持つ結界……再現された異界です」


 再現された異界、か。


「だが、そんなことをする意味があるのか?」


「破壊されない為、じゃないっすかね。普通の結界の中にそんなのが居たら即壊されるっすけど、異界なら壊されることは無いっす。それに、自分からハンターが来て戦ってくれるんで、データとかも取れる……とか」


「私もデータを取る為だと思います。それに、多分あの異界を作ったのはさっき言った人工の魔物を作ってるような人達です。人工の魔物には瘴気を扱うものやアンデッドが多いので、今回の鳥とも共通点があります」


 なるほどな。それは、つまり……


「アンタが思うに、あの異界は魔物を作ってる奴らと同じ奴らが作った異界ってことか?」


「私はそう予想してます」


 しかし、そうか。胸糞悪い奴らが作った胸糞悪い異界が、試験場として便利に利用されていたと考えると、複雑だな。


「村を縄張りにしていた妖怪を利用して作った、人工の異界。という話ですか?」


 そこまで話に参加していなかった章野が尋ねた。


「恐らく、そうですね」


「なんか、きな臭くなってきたね……もしかして、私たちの出番!?」


「違うっすよ。地域課の仕事じゃないっす」


 ぶぅ、と白雪は頬を膨れさせた。


「それより白雪、質問を済ませるっすよ」


「む、忘れてました」


 ごほん、と白雪は仕切り直し、こちらを真っ直ぐに見つめた。


「老日君、貴方は故意に異界を破壊しましたか?」


「いいえ、だ」


 美しい青い魔眼が俺を確かめる。そして、白雪は直ぐに頷いた。


「おっけー! 白だよ白!」


「まぁ、そうっすよね」


 赤咫尾は頷き、資料のような紙をぱらぱらと取り出した。


「あとちょっと話を聞かせて貰ったら終わりなんで、よろしくっす」


「分かった」


 俺はふっと息を吐き、椅子に背を預けた。




 ♢




 後日、試験自体は合格したという通知があった。だがしかし、それとは別に俺は協会の本部に呼び出されていた。


「……すみません、老日さん。結局、こうなってしまいました」


「いや、俺が原因だからな。アンタに謝られる必要は無い。」


 ロビーで待っていた都栖は俺を見つけると深く頭を下げた。


「行くか」


「はい」


 都栖は俺の前を歩き、エレベーターに乗り込んだ。何人も乗り込んだエレベーターの中、俺達は無言で待つ。


 何度も止まるエレベーターが最上階に辿り着くと、残っていた人間は一斉にエレベーターから降りた。一番奥に乗っていた俺達は最後に外に出る。


「ここです」


「あぁ」


 都栖は扉の前に立つと、コンコンコンと三回扉を叩いた。


「入っていい」


 すると、直ぐに扉の向こうから声が聞こえた。


「失礼します」


 都栖が扉を開き、一礼して中に入る。俺は取り敢えずその動きを真似ておいた。


「何の話か、分かっているな?」


 そこに座っていたのは、長髪の女。冷たい目線でこちらを見ている。


「鳥居異界の話です」


「そうだ。事情は聞かせて貰ったが、実際に異界が消滅するという損害が発生している訳だ。これは当然、協会としては看過できない」


 何やら、面倒臭い話になりそうだな。


「状況としては事故に近いが、損害の一切を協会で補填するというのもおかしな話だろう。故に、何らかのペナルティや賠償が必要であると判断した」


「そうなのか」


 正直、俺が悪いとは一切思っていないんだが。


「待って下さい。今回の責任は監督者であった私にある筈です。老日勇が今回の事態を回避することは不可能とすら言えるレベルです。彼に賠償責任があるとは思えません」


「君の責任は一カ月間の停職処分で償ってもらう。ハンターとしても同期間は活動停止だ」


 都栖は歯噛みし、女を睨みつけるように見た。


「老日君、君も納得できないか?」


「あぁ、色々とな」


 三億円払えみたいな滅茶苦茶なことを言われるようなら、強硬手段に出る必要があるだろう。


「実際、今回の事故を回避出来たかと言えば難しいとは思うが、何もしていない協会と実際の原因になった君、どちらが損害を補填すべきかと言えば、君だろう?」


「何もしていないのが問題なんじゃないのか? 俺は与えられた課題通りに試験をこなしただけだ。寧ろ、今回の件は協会の調査不足が原因だろう」


 ふむ、と女は頷いた。


「そもそも、アンタは誰なんだ? 俺はアンタの名前すら知らないが」


「随分、口が悪いな。私は箕浦(みのうら)だ。協会の本部長を務めている」


 俺を睨みつけながらも、箕浦は答えた。

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