アスモデウス
赤い宝石の埋め込まれた黒い剣、銘はバルバリウス。その赤い輝きの中には幾つもの魂が封じ込められている。
「アスモデウス」
瞬間、地獄の竜とそれに跨った軍旗と槍を持つ羊と人と牛の頭を持つ悪魔が現れた。
「ッ、アマイモン様ッ!!」
悪魔が竜の上から飛び降り、その大きな図体を揺らしながらアマイモンに駆け寄った。
「ふふ、活きが良いねアスモデウス。久し振りじゃないか」
「ソロモンに操られ逆らうことも出来ず……不甲斐ない限りです」
アスモデウスはアマイモンの前に跪き、深く頭を下げる。
「悪いが、良いか?」
「お前は、あの時の……」
待てよ? こいつを起こしたら、聖剣のことも何もかも全部アマイモンに伝えられるよな?
「アンタをこのまま解放したいところなんだが、条件がある」
「条件か、何だ?」
俺はアマイモンの方をチラリと見て、視線を戻す。
「アンタが封印された日のこと……というか、俺のことを誰にも話さないでくれ。当然、アンタの主にもだ」
「……約束出来ぬ。我の中で最も優先すべきはアマイモン様だ」
「それなら、アンタをもう一度この剣で斬ることになる」
「それでも、約束は出来ぬ」
俺が黒い剣を握る力を強めると、アマイモンが両手を上げた。
「まぁまぁ、待ってくれ給えよ」
アマイモンを見ると、にこやかな表情でこちらを見ている。しかし、その視線の奥には俺の一挙手一投足を見逃さない深い警戒がある。
「そもそも、私達に……悪魔に契約というのは難しいだろう? 」
「やり方はある。契約という形では無いが」
ふむ、とアマイモンは頷いた。
「ならば、私からも約束しよう。アスモデウスが帰って来るのなら、それ以上を求めることは無いさ」
「じゃあ、アスモデウス……呪いをかけさせてくれ」
「相分かった」
近付いて来たアスモデウスの胸に触れ、その魂に接続する。
「『冥暗の楔』」
「ぬッ」
アスモデウスの魂に、呪いの楔が突き刺さる。
「『封印された日の俺のことを誰にも伝えるな』」
これは呪いだ。と言っても、この命令を破れないような物じゃない。ただ、破られた時にペナルティを与え、それを俺に知らせる物だ。
「この約束を破った時、アンタは死ぬかも知れないし、そうでなくても俺が殺しに行く」
「それは、私もということかな?」
アマイモンの問いに、俺は頷く。
「アスモデウスがこの約束を破るのは、アンタに命じられた時だけだろ?」
「ふふ、それは確かにそうだね」
これで俺に出来ることは、この約束が破られないのを祈ることだけだ。
「……待てよ、アマイモン。アンタにも約束してもらう」
「それは、どういうことかな?」
「アスモデウスはアンタの配下だろ? やろうと思えば、アスモデウスが伝えるまでも無く魂の情報から俺のことを探れはする筈だ」
「……良く気付いたね」
アマイモンは溜息を吐き、肩を竦めた。




