星天
黄金色の光を纏った瑠奈。同じ色に染まったその目には、どこか狂気が宿っている。
「ほう、知らない術だな! いつ創り出した?」
「『月の剣』」
答えることなく、瑠奈は右手に黄金の光で作られた湾曲した剣を生み出した。三日月のような形をしたその刃は、振るわれると同じ形をした光の刃を高速で飛ばす。
「あはははははっ!! どう、師匠!!」
「ふむ……なるほどな」
狂気を孕んだ目で滅茶苦茶に光の刃を飛ばす瑠奈。アステラスは冷静に頷き、漆黒のマントを翻した。すると、光の刃は漆黒のマントに吸い込まれるようにして消えた。
「どうやら、代償が無い訳では無いようだな」
「あははっ、代償!? 寧ろプラスでしょッ!」
明らかに異常なテンション。正に、狂ってしまうことが代償のようだ。
「さて、先ずは一つだな?」
アステラスの背後に小さな虹色の星が浮かぶ。見た目は可愛らしいそれだが、その正体は魔力の塊だ。恐ろしいことに、この空間に居るアステラスの魔力は消耗するどころか回復し続け、溢れ出している。そして、余剰の魔力が形となったのがあの虹色の星型だろう。
「残念だけど、壊しちゃうよ!!」
「出来るものか」
魔力を保管する虹の星は、破壊すれば中身も零れてしまうだろう。だが、アステラスは簡単にそれをさせるような相手ではない。飛来する光の刃をマントで防ぐと同時に、再び千を超える魔法陣が花開き、放たれた虹の光弾が瑠奈を狙う。
「効かないよッ!!」
「この空間における吾輩の魔力効率は百倍以上だ。星魔術に限ってはな」
瑠奈は虹の光球を黒い海で防御することなく、月の剣で弾きながらアステラスへと迫る。
「『星遊び・砕星呑流砲』」
「残念ッ!」
虹の奔流。瑠奈の体はそれが触れる寸前で消滅し、代わりにアステラスの背後に現れた。
「二つ目」
「ッ!」
しかし、その転移を読んでいたかのように虹の光弾が群れを成して上から迫り、瑠奈は飛び退く。それと同時に、虹色の小さな星がもう一つ現れる。
「『星々は泣く。来たる破滅を嘆いて』」
「詠唱してる暇なんて……ッ!」
直ぐさま斬りかかろうとする瑠奈だが、アステラスを中心に虹の光を撒き散らす爆発が発生し、吹き飛ばされる。その体に傷は殆どついていない。離れた距離を瑠奈は転移で再び詰めた。
「『星々は哭く。来たる終焉を嘆いて』」
「あははっ、届いたッ!」
アステラスの前まで辿り着き、黄金色の刃を振るう。しかし、アステラスの目の前に現れた虹色の五芒星の陣がそれを防ぎ、続けて瑠奈を囲むように魔法陣が展開し、虹の光線が放たれる。
「うわっ!?」
ギリギリでそれら全てを回避した瑠奈。しかし、その瞬間にアステラスの背後に三つ目の星が浮かぶ。
「『星天の鎮魂歌』」
三つの虹色の星が砕け散り、空を何かが埋め尽くす。魔力で出来たそれは、魔法陣だ。黒い魔法陣に中心部から色が灯り、虹の光が広がっていく。
「最大規模、だな」
地球で見た中では最も規模の大きい魔術であると同時に、隙の大きな魔術ではある。が、今の冷静さを欠いている瑠奈では無効化することは出来ないだろう。
「フハハハハハッ!! 星三つだッ! 落ちよッ、星天ッッ!!!」
端が見えない程に広がった超巨大魔法陣。虹の光が強まり、そこから巨大な星が現れる。岩で表せるようなサイズではなく、メルヘンな虹色の魔力弾でも無い。正真正銘の星が、現れた。
「ッ!」
それは魔法陣から完全に抜け出すと、凄まじい速度で地面に迫る。一秒にも満たないその時間の中、星が大地に触れる寸前で黄金色の光が溢れた。
「『月神の一矢』」
一条の光が……黄金の矢が、星を撃ち抜いた。
「あははははっ、私の勝ちだね!!」
貫かれた星は、そこから黄金の亀裂が迸り、凄まじい光と共に爆発し、弾け飛んだ。破片となったそれらですら凄まじい衝撃を各地に齎していく中、瑠奈は勝ち誇ったように笑い……その体がぐにゃりと歪んだ。
「な、に……これッ!?」
慌てて黒い海を呼び寄せ、自身を守ろうとする瑠奈だが、黒い歪みは収まらない。
「転移も出来ないッ、こんな、嘘――――」
黒い歪みは瑠奈を覆っていた海ごと呑み込み、何事も無かったかのように消え去った。
「上ばかり見ていては、足元を掬われるぞ……ブラックホールにな!!!」
これで、第四位か。魔術結社、侮れないな。




