詰め
黒い龍の群れが、宙から真っ逆さまに落ちて来る。それらは迷うことなく地面に突っ込んで行き、血の花園を破壊していく。
「南極を破壊するつもりかね、君は……ッ!」
「そんな規模は無い」
やろうと思えばそのくらいの規模にも出来るが、する理由が無い。この攻撃の目的は、相手の整えた盤面を……つまり、血の花園を破壊することだ。
「『幽遠の館、銀の蔵』」
「それ以上……くッ」
俺を止めようと動き出したニオスを邪魔するように、天から降りてきた龍が飛び込んで来る。それは地面に頭を入れ込みながら凄まじい爆発を引き起こし、ニオスの肉体を消し飛ばす。
「『聖銀の槍、神金の盾、黒鋼の刃』」
再生した瞬間のニオスに追い打ちをかけるように更に別の龍が襲い掛かる。
「『主の命にて、舞い踊れ』」
俺の周囲に無数の武器が現れ、浮かんでいく。
「『千鉄舞鋼』」
私用空間から呼び出された無数の武器。その全てが意思を持ち、宙を舞い始めた。
「ッ、これは……!」
戦慄の表情を浮かべるニオス。そこに千を超える武器の嵐が雪崩れ込んでいく。
「速度が足りていないか」
ニオスは霧となって避け、蝙蝠となって避け、凄まじい速度で駆けまわって避け、刃の嵐に触れられないようにしている。
「『炉の神よ、偉大なるフォールナクスよ』」
だが、問題は無い。相手の行動を妨害し続けることが目的だからだ。
「『万物を焼く全能の火を、神代の炎を授け給え』」
俺の右腕に、金色に燃える種火が宿る。
「『金禍神炎』」
種火は広がり、右腕を覆って剣まで伸びた。
「終わらせるか」
俺は一瞬で百メートル以上離れたニオスの下まで辿り着き、その刃を振るった。
「『血陰の帳』」
ニオスの眼だけがギョロリとこちらを見た瞬間、ニオスの体が消え去った。黄金の炎を纏った刃が血の匂いが残る空気だけを焼き焦がす。
「逃げられた……? 転移の魔術には見えなかったが」
それに、俺の勇者としての勘が離れていないと告げている。まだ、ニオスは近くにいる。
「……そういうことか」
空間の裏側、異空間に逃げられた。不味いな、時間が無い。
「『門にして鍵』」
俺は誰も入れない筈の異空間に魔術を使って入り込んだ。
「そこか」
そこまで広くない血の空間。その中で目を瞑っていたニオスに一瞬で距離を詰め、黄金色を纏う刃を振り下ろす。
「ッ、またか」
ニオスの姿がまた消え去った。今度はこの異空間から現世に戻ったのだろう。俺は剣を地面に突き立て、黄金色の炎をこの異空間全体に延焼させた。
「『門にして鍵』」
俺は再び魔術を使って異空間を脱出し、現世へと舞い戻った。それから直ぐにニオスを見つけ、即座に飛び出し……
「時間切れか」
ニオスに辿り着く寸前で、加速が限界に達した。一気に速度が低下し、刃はニオスに届かない。
「遂に、限界が来たようだな……老日勇」
会心の笑みを浮かべるニオス。その手に握られた血の刃が俺に迫った。




