何が何でも
本腰を入れてこちらを殺すことにしたらしいニオスは、その黒い甲冑のような甲殻に青い紋様を走らせて襲い掛かって来た。
「随分、速くなったな」
「幾つかの貴重なリソースを消費している。君を殺す為だけにな」
俺より速いことは無いが、それでもさっきと比べれば三倍以上の速度だ。
「だが、その速度でも対応し切れてはいないな」
「ッ!」
フェイントをかけた斬撃にはあっさりと引っかかり、ニオスの体は真っ二つに両断された。当然、一瞬で再生はされるが。
「先ずは、切り刻んでおくか」
俺は分かたれた上下の体が繋がろうとするのを斬撃で阻み、そのまま全身を粉々に切り刻み、ニオスをドロドロの血だまりに変えた。
「『滅光砲』」
続けて、世界を覆い尽くすような光を放つエネルギーの波動を放った。光はニオスを呑み込み、その射線上にある全てを焼き尽くす。
「……中々、やってくれるな」
炎の中から、老いた男が現れた。黒い甲冑のようなものは纏っていない、最初の姿だ。
「決めたよ。君という異常の極みに居るような強者を見て、決めた」
「今更、改心でもするのか?」
俺が言うと、ニオスは笑った。
「改心も何も、私は初めから悪では無いさ」
「だったら、どうするつもりだ?」
ニオスはその手に十字架のような血の剣を生み出した。同時に、その身に青い紋様が走っていく。
「今回は、君の殺し方を調べることにする。君を放置し続けていれば、きっと私の願いは永遠に成就しない。そんな予感がするからね」
「そうか」
ニオスの背から黒い蝙蝠の羽が大きく伸びた。それははためくと、ニオスの体を僅かに持ち上げる。
「何が何でも死んで貰うぞ。老日勇」
「何が何でも殺します。老日勇」
さっきよりも速度はあるな。防御力を捨てて速度を取ったか。確かに、俺の剣は防御を簡単に突破しながら肉体を破壊していた。
「だが、耐性まで失うのは悪手だな」
これまで効かなかった魔術が効くようになるのは、俺にとってかなりの有利だ。
「『現れよ、血の軍勢』」
ニオスが言うと、周囲一帯、視界の範囲内全てから血の肉体を持つ獣や人間が現れる。その数は数えるのも億劫な程だ。
「『無閃』」
剣を薙ぎ払うように振るうと、灰色の斬撃が血の軍勢を全て消し飛ばした。
「『咲き誇れ、血の花園』」
「『肉体の否定、精神の否定、魂の否定』」
再び一対一……いや、一対二となった状況で、お互いに魔術を唱える。
「『血の花の楽園』」
「『存在の破壊』」
ニオスを中心に血の花園が広がっていき、そのニオスの肉体が弾け飛ぶ。
「ズラされたか」
本来なら一撃で欠片も残さず消し飛ばされている筈だが、そうなっていないということは避けられたということだ。肉体で回避した訳では無いのは確実だから、精神か魂をズラして避けたのだろう。
「先ずは盤面を整えに来たか」
辺り一面に広がる血の花園。俺の足元から生えた花が足に噛みついて来ているところを見るに、攻撃能力もありそうだが……それだけでは無いだろう。
「『血の尖兵』」
「なるほどな」
血の花の中から、食い破るようにして現れる無数の血の兵士。纏われた血の鎧には魔術的な防御が刻まれていることが分かる。
「『咲き乱す血の薔薇』」
そして、ニオスの後方に巨大な血の薔薇が出現する。緑の茨が触手のようにうねり、ニオスを守るように伸びた。
「……そろそろ、ケリを付けないとな」
無限加速による加速、その限界が近付いている。常に加速し続けるこの魔術は、何れ肉体が耐えられる限界が来る。その時には術を解除して最初の速度まで戻る必要がある。そうなれば、かなり危険な状況になるだろう。
「『夜天の果て、煌めき輝く龍の群れ』」
「『赤き人の血、臓腑から沸き立つ』」
詠唱しながらも、襲い掛かって来た血の尖兵を斬り殺す。
「『星々を砕き、宙の火に焼べる』」
「『血の呼び声』」
ニオスがニヤリと笑い、体の内側から血液が沸騰するような感覚に襲われるが、それ以上のダメージは無理やり掻き消した。
「『龍星群』」
空が光り、黒い岩石のような体の龍が群れを成して現れた。




