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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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月下の戦い

 迫る二人の吸血鬼にメイアは笑みを浮かべ、ステラが影から飛び出した。


「『紅蓮武装(スカーレットウェポン)竜血爪(ドラコレテナ)』」


「『形態変化(フォームチェンジ)武装支腕展開(アーマメントアームズ)』」


 二人の振り下ろした血の剣をメイアが巨大な血の爪で受け止め、ステラが無数の遠距離武装を展開する。


「『銀粒砲(アルゲントゥム)複射(マルチレイ)』」


 ステラの背部から展開された支腕から細い銀の奔流が三つ迸り、三人の展開していた血の魔法陣を全て貫き、そのまま吸血鬼達の頭部を三つ破壊した。


「二人じゃ足りないわよ」


「ぐ、ぬッ!?」


「ぐふァッ」


 メイアの右腕を覆う巨大な血の爪は二人の吸血鬼の剣を弾き、そのまま二人の体をぐちゃぐちゃに引き裂いた。


「『銀粒砲(アルゲントゥム)出力最大(マキシマム)』」


 銀の奔流がその背後から放たれ、メイアはそれが触れる直前で飛び退いた。最初のものよりも三倍ほど太い魔力の奔流は、銀色に輝きながら二体の吸血鬼を呑み込んだ。

 メイアによってぐちゃぐちゃに引き裂かれていた彼らはその攻撃を避けることは出来ず、ただ消え去るしか無かった。


「ッ、化け物は奴だけでは無いか……!」


「『血盟の契り』」


「『血よ、贄を捧げるッ!』」


 焦りながらも前に出る者、さっきと同じ詠唱を紡ぐ者、詠唱の短い術を使う者。死の危険が身近まで迫った彼らは、咄嗟にそれぞれの行動をした。


「『紅蓮武装(スカーレットウェポン)潔炎剣(ノビリス)』」


「『銀粒流(アルゲントゥム)』」


 巨大な血の爪を燃え盛る紅蓮の細剣へと入れ替えたメイアは前に出た吸血鬼を切り裂き、炎で燃やし尽くす。右手を突き出したステラは銀の奔流で血の魔法陣を描く詠唱者を呑み込んだ。


「『顕現せよ、血の悪魔よッ!』」


 最後に残った男の半身が消え失せ、そしてたった今ここで死した者達の魂が()()に集まっていく。


「は、ハハッ、やったぞ! 殺せ悪魔ッ! お前は、お前たちはもう終わりだッ! 馬鹿共がッ、吸血鬼の掟を軽んじるか――――」


「私が貴方を放置したのは、その術が取るに足らないものだったからに過ぎません」


 男の残った半身を、銃弾と光線の雨が呑み込んだ。

 バラムとパイモンの能力を受け継いだステラは、周囲の情報を解析し、それを元にかなり正確な未来を予知することが出来る。


「グヌォオオオオ……!」


 故に、現れた赤い悪魔も……ステラは、どのような存在であるか既に知っていた。それは、男が術を使おうとした段階で解析を済ませていたからだ。


「これだけの吸血鬼の魂を贄に呼び出された悪魔と聞けば、恐ろしく思えるけど?」


「呼び出された訳では無く、作られただけです。規定された術に基づいて、想定通りに出力された性能の敵というだけですから」


 図体の大きく、翼を生やした赤い悪魔。長い鉤爪を持つそれは、二人の存在を認識すると直ぐに襲い掛かった。


「グヌォオオオオオオッ!!」


「十分速いけどッ!?」


 一瞬でメイアまで距離を詰めた悪魔。メイアはギリギリで燃える細剣を振り上げ、鉤爪を防いだ。


「ヴォオオオオエエエァアアアアアアアッッ!!!」


 悪魔の体から血が無数の触手のように迸り、メイアを貫こうとするが、メイアは赤い霧となって消える。


「速いのは、貴方が本気を出していないからでしょう」


「でも、それが必要な程の知能があるようには見えないわね」


 月紅紋。メイアの身体性能を大きく引き上げるその力は、未だ使われていない。悪魔はキョロキョロと周囲を見渡した後、姿を現したメイアを見つけた。


「ちょっと、試してみようかしら」


「大した効果は望めませんよ」


「グヌォオオオオオッ!!」


 振り下ろされる鉤爪をメイアはそのまま受け、肉体を破壊される。その直後、裂かれ潰された体が赤い光を放ち……悪魔の体に小さく傷が付けられた。


「……っと、駄目みたいね」


 同じ悪魔の力だからか、血の悪魔には共有の能力は殆ど効かなかった。悪魔は怯んだ様子も無く、そのままメイアへと襲い掛かる。


「アレ、お願い」


「良いでしょう。試してみますか」


 メイアが目を閉じると、凄まじい量の情報がステラから流れ込む。そして、メイアは目を閉じたまま振り下ろされる鉤爪を紙一重で回避し、反撃の細剣を悪魔の胸に突き刺した。


「ッ、ふぅ……やっぱり、疲れるわね」


「純正な生物の処理能力では限界がありますので、仕方が無いことかと」


 それは、ベレトの権能。共有のもう一つの使い方だ。ステラの予測解析された景色を共有によって覗き見る行為。単純に見えるだけではないその情報量による疲労は凄まじく、僅かな時間しか使えない技だ。


「グ、ヌ……ォオ」


 心臓を貫かれ、そこから赤い炎を噴き出させる悪魔。膝を突きながらも、まだ倒れてはいない。


「『銀粒砲(アルゲントゥム)出力最大(マキシマム)』」


 だが、一時的に足を止めてしまった悪魔は、その大きな図体を丸ごと銀の奔流に呑み込まれ、完全に消滅した。


「ミッションコンプリートですね」


「そうね……拍子抜けするほどに、簡単だったわ」


 メイアは空を見上げ、美しく輝く月を眺めた。


「月は、綺麗だわ。いつもね」


「そうですね。しかし、不思議なモノですね」


 ステラの言葉、その真意を探るようにメイアは視線を向ける。


「吸血鬼というのは太陽が弱点ですが、月の下であれば力を得ることが出来ます……しかし、月の光というのも、元は太陽の光でしょう?」


「ふふ」


 ステラの言葉に、メイアは笑みをこぼした。


「簡単なことよ。お月様はこうして見上げていたって、眩しく無くて、とっても綺麗でしょう? 月は私達を気遣って優しい光を送って下さるのよ」


「……なるほど」


 ステラはメイアの月への信仰のようなものを感じ取り、ただ頷いた。



「――――そりゃあ、違うな」



 どこからか、声が聞こえた。枯れた木の上に、男が立っていた。

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