ダンジョンボスとか
カラスと合流した俺は、ダンジョンの最深部へと歩いていた。
「カァ、先に行ってるなんて酷くねぇか」
「どうせ勝つだろうと思ってたからな。何かあったのか?」
後から追いついて来たカラスだが、予想よりも時間がかかっていた。
「変異種って奴が居たんだよ。まぁ終わって見れば余裕だったが、結構強かったな」
「強いって、どのくらいだ?」
カラスから見て強いなら、かなり強いことになる。ただ、カラスは自分を過小評価するところがあるからな。
「あー、そうだな……良く分からねえが、二級と三級の三人パーティでも全然勝てないって感じだったな。オレが勝ったのも相性的な部分が大きい」
「……それは、かなり強いな」
ここは六級のダンジョンだ。変異種とは言え、二級レベルのハンターが三人居て勝てないのはかなり異常だ。
「ミアズマだかマナズマだか知らねえが、良く分からねえ黒い力を使ってたな」
「一応、後で見ておくか」
カラスの人型での戦いも気になるしな。
「もしかすれば、吸血鬼が手を出してきた可能性もあるしな」
「見た目は明らかに吸血鬼じゃなかったぞ。人型の蜘蛛の骸骨だったな」
何だそれは。
「だが、骸骨か。スケルトンなら吸血鬼の眷属ってことも考えられるが……まぁ、分からないな」
考える仕事はステラに任せよう。アイツが居れば、俺は思考を放棄できる。
「ボス、あの扉……ぽくねえか?」
「あぁ、ボス部屋か」
ダンジョンには基本的にコアを内包するコアルームというものがあり、その手前にはボス部屋がある。そこには大抵の場合、強力な敵が居る。
「行こうぜ」
「あぁ」
俺はカラスを肩に乗せたまま鉄の扉に手をかけ、開いた。
「居るな」
「さっきの骨蜘蛛の方が強そうだな」
そこに居たのは、大剣を持った骸骨だ。その体躯は二メートル程もあり、相応のプレッシャーのようなものを感じるが……まぁ、それだけだ。
「カタ……」
骸骨が顔を上げ、こちらを見る。
「なぁ、ボス。これ、ここから攻撃したらどうなるんだ?」
今、俺達はまだボス部屋に入りきっていない。扉を開き、そこから見ているだけだ。
「絶対にやるなよ。違反行為だ」
「……そんな、ダンジョンに配慮する必要があるのか?」
違う。別に空気を呼んでやらない訳じゃない。
「そいつは本来、部屋から出ることは無いんだが……部屋の外から攻撃すると、暴走して部屋の外まで出てくるようになる」
「カァ、そういう話か」
確実に倒せるなら、まぁそれでも良いんだが……他人の生死に関わる以上、許されない行為だ。
「じゃあ、さっさと入って倒そうぜ」
「あぁ、頼んだ」
カラスは目を細めて俺を見た。
「……別に、良いけどよ」
部屋に足を踏み入れると、その瞬間に骸骨が大剣を持ち上げて動き出した。
「カァ」
カラスが一鳴きすると、大量の鴉の群れが現れて骸骨へと襲い掛かる。
「カタ……ッ!」
振り回される大剣。しかし、それでは鴉の群れの全てを葬ることは出来ず、数秒も経つ頃にはボロボロに傷付いていた。
「アレは使わないのか?」
「闇蝕呑影か? 楽勝な相手には使いたくねぇな。疲れるし、消費も激しいからな」
確かに、魔力をかなり使う魔術ではある。今のカラスの魔力量では気軽に使えるものでもないのだろう。
「カ、タ……」
「ただ、こんだけの密閉空間なら……こういうことも出来る」
骸骨はふらふらとこちらに歩いて来るが、次の一歩が足元の影に沈み込んだ。
「ここはもう、オレの世界って訳だ」
この部屋の地面には黒い影が濃く満ちていた。地面の模様すら分からない程黒く染まった影は、骸骨をずぶりと沈み込ませ、呑み込んでいく。
「カタ……カ、タ……」
影が大剣ごと骸骨を呑み込むと、それから直ぐに地面が元の姿を取り戻し、一つの赤い魔石が現れた。
「火属性の魔石か。悪くないな」
「高いのか?」
俺は魔石を拾いながら頷く。
「属性付きの魔石は基本高いな。こっちだと属性を付与するような加工を出来る奴も少ないみたいだからな」
向こうでは属性付きの魔石くらいは簡単に作れていたが、こっちだと難しいらしい。
「取り敢えず、帰るぞ」
これがあれば、ある程度の稼ぎにはなる。一旦このダンジョンは終わりで良いだろう。
「カァ、楽勝だったな」
「こっちだ。乗るぞ」
さっさと帰れとばかりに現れ、鬱陶しく光を放つ魔法陣の上に乗り、俺達は帰還した。




