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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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202/512

人型カラス

 睨み合う影の仮面を付けた男と、変異種。


「誰だか分からんが、助かった……感謝する」


「味方、だよね……僕達も援護するッ!」


 青髪の女が闘志を取り戻し、杖を変異種に向ける。しかし、カラスは肩を竦めて首を振る。


「カァ、要らねえな。先にそいつを診てやった方が良いだろ」


「かぁ……? わ、分かった!」


 鴉のような鳴き声に首を傾げながらも、青髪の女は深い傷を負った赤髪の処置を始めた。


「カタ、カタ……」


 瘴気を纏う黒い魔力の剣が、四本同時に動き出し、その八本の脚でカラスに接近した。


「っと、速いな」


「カタ……?」


 カラスの影から無数の鴉が飛び出したかと思えば、いつの間にかカラスの姿は消えていた。


「ここは六級の異界だったよな? 何でこんなのが居るんだ?」


「す、すごい……なに今のっ!?」


 変異種の背後、鴉の中からぬるりと影のように現れたカラスを見て、緑髪の女が興奮したように叫ぶ。


「……こいつは、変異種だ。通常のスカルスパイダーが何らかの要因により変異したモノ。私たちはその調査と討伐を依頼され、ここを訪れたのだ」


「カァ、なるほどな。だが、だとしたらお前達で勝てないのは何故だ?」


 普通に考えれば、討伐を目的に訪れたハンターが負ける道理は無い筈だ。勝てるハンターが手配されるに決まっているからだ。


「通常、六級相当の異界にこのレベルの変異種が現れることは無い。故に、二級と三級で構成された私たちのパーティで勝てると判断されたのだろう……何しろ、発見情報では外見しか分かっていなかったからな」


「僕としても、今回は……運が悪かったと思ってる」


 変異種は自身の攻撃を躱したカラスを観察しつつ、鴉の群れを切り裂いていく。様子を伺っているようだ。


「そうか。まぁ、運が悪かったなら仕方ねえな。戦場ってのは、運が悪けりゃ死ぬもんだ」


「だが、今回は寧ろ……幸運だったと思っている。六級相当の異界に、貴方レベルの強者が居たのだから」


 変異種を前に余裕そうに立つカラス。それは明らかに、六級異界に居る筈の存在ではなかった。


「カタ……」


「随分、慎重派だな?」


 四本の剣を構え、ジリジリと距離を詰める変異種。


「『黒瘴刃(ミアズマブレイド)』」


「喋れんのかよ」


 どこか機械的に響く声に、カラスは驚きながら刃を避ける。しかし、その直後には次の刃が迫っている。


「危ねぇな」


 カラスは足元の影に潜りながら二本目の刃を避け、また消えた。


「『瘴気拡散(ミアズマスプラッシュ)』」


「そいつは良くねえな」


 カラスが姿を現し、黒い影で変異種を覆い、拡散する瘴気を押し留めた。


「『闇蝕呑(ブラックア)――――」


「『――――暗黒瘴魔(マナズマモード)』」


 変異種を覆っていた影が崩れて消え去る。そこから現れたのは、暗黒で体をびっしりと覆った変異種。さっきまでの瘴気を溢れさせている状態から、完全に一体化して纏うような形態に変化したのだろう。


「その黒いの……やっぱり、影化(スキアー)で避けなくて正解だったな」


 カラスの真眼は瘴気を極めて危険なものであると判断していた。故に、影となってすり抜けることすら避けていた。


「カタ……」


「来いよ」


 走り出す変異種。その瞬間、足元の影から腕が伸びてその体を掴もうとするが、暗黒の瘴気によって崩れて消えた。


「カタ……ッ!」


「カァ、惜しいな」


 振り下ろされる刃に合わせるようにカラスの体が半分消え去り、黒い影の断面を見せた。


「カタッ、カタッ!」


「ハハッ、良い感じだ。影化(スキアー)、最高の能力だな!」


 激しく振るわれる剣戟。しかし、その度にカラスの体がぐわりと変化し、黒い断面を見せながら避けられる。


「何あれ……全部、当たってない?」


「うーん、僕には速すぎて見えすらしないね」


「……影の力、か。凄まじいな」


 影化(スキアー)によって己の体を影に変え、そして影となった自分自身に体の一部を潜らせる。敵の攻撃を擦り抜けている訳では無く、ただ攻撃に合わせて体を収納して避けているのだ。

 そして、それを可能にするのは真眼の能力だ。この力は単に相手の情報を探るだけでは無く、単純に眼としての性能を高く引き上げる。


「カタ、カタ……ッ!」


「良し、こんなもんだろ」


 黄金色の眼が揺れ、影が揺らぐ。暗黒の剣は全てが擦り抜けているかのように避けられ、変異種は焦ったように距離を取った。


「『暗黒瘴魔砲(マナズマキャノン)』」


 距離を離してから直ぐに、暗黒の波動が放たれる。それは真っ直ぐにカラスに向かうが、カラスは影へと潜って消え、そのまま波動は背後のハンター達に進む。


「きゃッ!?」


「なにこれ!?」


 だが、彼女たちの足元の影がぐにゃりと歪み、全員の体が一瞬で深くまで沈んだ。頭だけ出た状態となった彼女たちの頭上を暗黒の波動が通り過ぎ、そして変異種の目の前にカラスが現れる。


「よぉ」


 軽い調子で現れたカラスを、変異種は一瞬にして粉微塵に切り裂いた。


「……カタ?」


 しかし、どうやら様子がおかしい。切り刻まれたカラスの体はどろりと影のように崩れ落ち……


「『暗き天翼(アンダルム)』」


「カタ……ッ!?」


 変異種の背後、上から現れたカラスがその巨大な翼で変異種を覆った。


「『闇蝕呑影(ブラックアウト)』」


 漆黒の翼は暗黒の瘴気と蝕み合い、食らい合い、そして……


「カ、タ……」


 変異種の体は闇に呑まれ、この世のどこからも消え去った。


「オレの勝ちだな」


 カラスは自信ありげな笑みを仮面の下で浮かべ、漆黒の翼をはためかせる。


「……天使様」


「私には堕天使にしか見えないが」


 黒い影の仮面からは黄金色の瞳が覗き、背からは漆黒の翼が生えている。どこか神聖さすら感じるその容貌に、緑髪の女は拝むように手を合わせていた。


「あ、あの……天使様、お名前を教えてください!」


「勘弁してくれ。オレまでアイドルになったら、ボスの胃に穴が開いちまう」


 カラスは緑髪の女の向ける目線に溜息を吐くと、自身を漆黒の翼で覆い……どろりと影に溶けて消えた。

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