一太刀と一突き
始まった詠唱、それを止めるべく骸骨は連続して青白い斬撃を放つ。
「『黄金の光は貴方の為に、紅い罅は貴方の為に』」
ひらひらりと斬撃を躱し、メイアは言葉を紡ぎ続ける。
「『何でも、耐えて見せるから』」
魔力が溢れ、メイアの髪が黄金色の光を放つ。
「『――――月紅紋』」
黄金の髪が月明かりのように光り輝き、身体中に紅の紋様が走っていく。その効果は単純な身体能力の上昇に加え、月光による強化だ。
「尋常に、だったかしら」
メイアの腕に血が纏われ、薙ぎ払うように振るわれると、飛来した斬撃を弾き飛ばした。
「受けて立ってあげる」
「来、い……ッ!」
メイアの体が霧となって地上に降り、骸骨の前で姿を現す。
「見えるわ。今の私なら……避けられる」
「その、力……代償、か」
幾度も振るわれる骨の刀を避けるメイア。骸骨はその正体を見定めるように攻撃を止め、メイアを睨んだ。
「ふふ、正解。でも、そっちから来なくても構わないわよ」
メイアの体が僅かに浮き上がり、両腕を広げる。すると、背中から無数に血の鞭が伸びて骸骨を襲う。
「無駄、だ」
四方八方から合間無く襲い掛かる血の鞭を、骸骨は白い刀で切り裂いていく。
「じゃあ、これはどう?」
「ッ!」
メイアが地面に手を当てると、そこから血の棘が走り、骸骨の足元から飛び出す。骸骨はその棘を避ける為に後ろに跳び退くが……
「その動きを待ってたわ」
飛び退いた先の地面が血の沼に変わり、骸骨の足が沈む。
「さぁ、終わ――――」
移動不能になった骸骨に止めを刺すべく飛び出したメイア。しかし、その出鼻を挫くように骸骨から青白い光が溢れた。
「『餓骨狂葬』」
光の中から飛び出して来たのは、全身から青白い炎を滾らせる骸骨。その刀にすら炎を纏わせ、狂ったような勢いでメイアに襲い掛かる。
「終わり、だッ! お互い、に……ッ!」
霧となってその場から逃れようとするメイア。刀から溢れる青白い炎はその霧すらも焼く。
「ッ、そういうことね……!」
霧から戻ったメイアは腕を欠損していた。焼かれて消えた霧の分だろう。
「貴方も、代償なのねッ!」
少しずつ煤けていく骸骨の体を見てメイアは言った。メイアの言う通り、恐らく骸骨のこの炎は自分自身をも焼くような狂った炎だ。
「良いわ、最後まで踊りましょう」
メイアは腕を一瞬で再生させ、その腕を伸ばした。
「『紅蓮武装・潔炎剣』」
その手に燃え盛る紅蓮の細剣が握られる。瞬間、骸骨がメイアの眼前まで迫り刀を振り下ろした。
「ぬ、ぅ、ォォ……ッ!」
骸骨の刀を細剣が受け止め、赤い炎と青白い炎が混じり合う。
「ふ、ふふ……力では負けないわ」
「ぬぉォッ!?」
メイアの細剣が刀を押し返し弾く。その勢いで赤い炎が溢れて骸骨の体を焼いた。
「やる、な……だが、速度では」
骸骨の体が一瞬にして消え失せ、青白い残像を残してメイアの背後に現れる。
「『髏透斬』」
「ッ!?」
振り返りながら刀を受けようとするメイア。しかし、骸骨の刀は青白く透き通ってメイアの細剣を通過し、そのままメイアを切り裂いた。
「妖術、って奴かしら……ッ!」
「然り」
肌から血を噴き出させたメイア。その傷は直ぐに塞がるが、骸骨の攻勢は止まない。
「『嵐霊斬』」
骸骨が嵐のような勢いで刀を振り回す。一度の斬撃と共に三つ以上の青白い刃が発生してはあらゆる角度からメイアに襲い掛かる。
たった一人を相手にしているのに四方八方から斬りかかられるその技はただの人間であれば一秒と持たずに息絶えるだろう。
「『紅き血よ、咲き乱れよ』」
メイアの皮膚を裂き、肉を斬っていく斬撃の嵐。それによって噴き出した血が意思を持って動き、メイアを中心に渦を巻く。
「血の守り、か」
貴威が付与された血の渦は青白い霊力と妖力の刃を防ぎ、メイアを守る。骸骨の嵐は完封されたと言っても良いだろう。
「ならば……」
骸骨は刀を構え、血の渦の中のメイアを睨む。
「『恩には報いを、裏切りには報いを』」
白い刀から白いオーラが溢れ始める。
「『過ぎたるものなど、誰が決めたか』」
その白いオーラは霊力だろうか、妖力だろうか。
「『漸く死しても、まだ足りぬ』」
白いオーラは骸骨まで波及し、青白い炎は純白の炎に変わっていく。
「『左近の司、鬼でも骸でも構わぬ』」
焼き焦げていた骸骨の体が漂白されるように白さを取り戻し、しかしより一層焼けるような匂いが強まる。
「『そこに一太刀、あれば良い』」
骸骨は遂に、飛び出した。思い切り舞台を踏みしめ、メイアに飛び込んだ。
「『鬼神忠刀』」
振り下ろされる刀。溢れる白い炎は霧となってもその霧を焼き切るだろう。メイアはその刃を見てフッと笑みを浮かべ……
「『紅貴突き』」
刃を避けることなく、紅蓮に燃える細剣を突き出した。
「ぐ、ッ――――」
白い骨の刀はメイアの体を真っ二つに切り裂き、メイアの体を斜めに分けた。
「……見事なり」
そして、メイアの細剣は骸骨の頭蓋を貫き、完全に破壊した。
「漸く、逝ける」
頭の無い骸骨が最後の言葉を紡ぐと、漸くその骨の体は完全に砕け散った。




