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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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燃ゆるは熾火、照らすは天日。

 居合、抜刀。閃く黄金色の刃はベリアルの喉元に迫り……炎の槍に防がれた。


「うォッ!?」


 瞬くような必殺の一撃。それを何とか防いだベリアルだったが、その勢いは凄まじく、倒れこそしなかったものの、ベリアルは数メートル押し退けられた。


「ギャハッ、危ねェ危ねェッ! 案外悪くねェじゃねェかァッ!!」


 ベリアルは一瞬で御日に距離を詰めると、そのまま槍を振り下ろした。


「ッ!」


「良いねェ! 少しは楽しめそうだなァ!?」


 炎の槍をギリギリで回避した御日は肌がチリッと焼ける感覚に眉を顰め、飛び退いた。


「おいおいッ、チキってんじゃねェだろうなァ!?」


 距離を取った御日に一瞬で距離を詰め、槍を振り回すベリアル。火の粉が舞い散り、空気を焦がす。


「オラァッ、終わっちま――――ッ!」


 炎の槍が振り下ろされた瞬間、刀から四つの黒い花弁が飛び出し、御日の頭に叩き付けられんとしていたベリアルの槍を空中で固定する。


「天日流、烈日(れつじつ)


 槍を固定され動かせないベリアル。その懐に御日は潜り込み、黄金の刃を全力で横に薙いだ。赤い闘気が炎のような軌跡を残し、ベリアルの腹部に刃が迫る。


「ぐ、ッ!?」


 強烈な一撃を腹部に食らったベリアル。刃は胴体を切断こそ出来なかったものの、皮膚を破き、肉を裂き、骨を斬って、凄惨な斬撃の痕を残した。

 通常の斬撃であれば真っ直ぐな斬撃痕が残る筈だが、御日の剣技によってベリアルの腹部には茨が通ったようなズタズタの傷が付けられている。


「ギャハハッ! こいつァ、マジに面白ェじゃねェかよォッ!!」


 ベリアルは黒い桜の花弁を弾き飛ばして炎の槍を構えなおし……腹部の傷が全く再生していないことに気付いた。


「んーッ!? 傷の再生が遅いなァ……自分の生命の波動を異物として残すことで再生を阻害してるってとこかァ!? 良いねェ! ヒリつくねェ!? 傷もォ、テメェもォッ!! ギャハハハハハッ!!!」


 それは、闘気による再生の阻害だ。御日の生命エネルギーである闘気を斬撃と共に体内に刻み付け、肉体の再生を阻害するという技術。

 御日が自分で編み出したこの技術は、敵に強烈な傷痕を刻む烈日と相性が良かった。


「さァ、どうする……次の機を伺ってるってところかァ? 確かに、身体性能で差がある以上は隙を吐くかカウンターを狙うかくらいしかチャンスはねェよなァ?」


「ッ」


 自身の狙いに気付かれた御日は息を呑み、刀を握る力が強くなる。


「再生が遅くなるっつっても、時間が経ちゃァ流石に治っちまうぜェ?」


 その言葉を聞いても、御日は動かない。構えは解かないまま、ベリアルの一挙手一投足を捉え続けている。


「……あァ、なるほどなァ。救援を待ってるってとこかァ? 確かに、一時間もありゃァ、一級なんて呼ばれるような奴らも来るかも知れねェなァ」


 ベリアルは頷き、炎の槍を掲げた。


「だったら、話は簡単だァ……そっちから攻めなきゃ終わりの状況を作ってやるだけの話だぜェッ!!」


 ベリアルの背後に無数の炎の槍が浮かび、御日に穂先を向けて行く。


「ほォら、どうすんだァ!?」


「ッ!」


 数十本の炎の槍が放たれ、御日に迫っていく。


「天日流、赤鴉(せきあ)の舞」


 御日は自身の周囲に四枚の花弁を浮かべたまま、赤い闘気を纏う黄金の刀で槍を切り裂きながら舞うような動きで回避していく。



「――――ギャハハッ! こっちからは攻めないと思ったかァ!?」



 御日の背後に突如現れたベリアル。しかし、振り下ろされる炎の槍は巨大化した黒い一枚の花弁によって防がれた。


「へぇッ! 隙を突いたつもりだったがァ――――ッ!」


 悠長に喋るベリアルに、残っていた三枚の花弁がナイフのように迫り、その肉体に突き刺さった。


「逃がさない」


「ッ!?」


 槍を防いでいた花弁はその柔軟さを活かして槍を包み込むように変形し、ベリアルの腕まで覆い、ベリアルの体に突き刺さった三枚の花弁はベリアルをその場に固定する。


「天日流」


 黄金の刀が持ち上げられ、その刃先が天を向く。同時に、普段は節約されている御日の闘気が限界まで活性化され、赤いオーラが噴き出す。



「――――落陽」



 袈裟懸けに振り下ろされる刀。それは展開された障壁を打ち破りながら身動きの取れない状態にあるベリアルに迫り……庇うように折り畳まれた橙色の翼に防がれた。


「『熾天の翼セラフィム・ウィングス』」


 その翼は紅蓮に燃え上がり、明るい光を放ちながらパチパチと音を立てている。


「まさかァ、ここまで追い詰められるたァ思わなかったぜェ……」


 神々しさすら感じるようなその翼が大きく開かれると共に、御日の刀が弾かれる。


「悪魔のアの字も感じねェくらいに神々しいだろォ? 堕天しといてガチに天使の力を使うのは正直だせェから嫌だったんだがァ……しょうがねェよなァ?」


 広げられた翼がベリアルの体に淡い橙色の光を纏わせ、その体を僅かに浮き上がらせる。


「怖気付いたかァ!? 絶望したかァ!? 悪いがァ、こっからが本番だァッ!! どうするゥ!? 今なら逃げたって良いぜェ!?」


 獰猛な笑みを浮かべたベリアル。その周囲に紅蓮に燃え、橙色の光を纏った槍が無数に浮かんでいく。


「……天日流」


 渾身の一撃を防がれた上に、敵は力を解放し、更に差は広がっている。絶望的な状況の中、御日は逃げる素振りも見せず、槍の群れを見据えた。


日暈(にちうん)渡り」


 一歩踏み出し、跳躍した御日。その足は、二歩目を()で踏みしめた。

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