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108 お城の地下には、凄いものがありました

 メイドの案内を受けてセリムとソラが通されたのは、アーカリア本城一階、武器庫の向かい側にある一室。

 他の部屋と比較すると非常に手狭で、木製のテーブルと椅子が無造作に置いてあるだけの、飾り気のない質素な内装だ。


「あの、本当にこんな部屋に王様が来るんですか?」


 一応は着席するセリムだったが、この場所に王が足を運ぶなどどうにも信じられず、念を押して尋ねる。


「そのように仰せつかっております」

「間違いない、みたいですね……」

「はい、間違い御座いません。では、私はこれにて」


 メイドは深く頭を下げると、静かに退室。

 狭い部屋の中にはセリムとソラだけが残された。


「ね、セリム。これってやっぱりアレだよね」

「それしか考えられないですよね。わざわざ人目を避けるように、こんな場所を指定してくるなんて。それに、戦いが終わったら教えてくれるって約束でしたし」

「そっかー、いよいよかー! リゾネの町を目指して旅をしたのは大正解だったね。ホントにここまで辿りつけるなんて」

「距離だけを考えるならとんだ遠回りですけど、ソラさん的には完全に結果オーライでしたね」


 ソラが追い求めた伝説の鉱石の素材は、彼女の住む王都の中央にそびえる城の中に隠されていた。

 確かに距離だけを考えるなら遠回りでしかないが、ソラ一人では王都にあるという情報を掴むことも、掴めたとして手に入れることも出来なかっただろう。

 そもそもアイテム使いがいなければ、素材だけが手に入っても無意味なのだ。


「ホント、セリム様々だよ。……まあ、リゾネに行って良かったってのは、それだけが理由じゃないんだけどさ」


 あの町に立ち寄ったおかげで、ソラは一生で一番大切なモノを手に入れることが出来た。

 どんな宝物も、伝説の鉱石すら霞んでしまうような、一番大切なモノを。


「ありがとね、セリム。これからも沢山迷惑かけるかもしれないけど、よろしくね」

「そうですね、いっぱい迷惑をかけられそうです。でも……」


 隣に座るソラの暖かい手を、セリムは躊躇いがちに握る。


「私も迷惑かけっぱなしなので、お互い様です。ですから、これからもずっと、よろしくお願いします」

「……うん!」


 ソラも握り返し、二人は手を繋いで微笑み合い、見つめ合った。

 これはかなりいい雰囲気なのでは。

 もしかしたらこのタイミングで行けるのでは。

 そう頭に過り、告白に踏み切ろうと大きく息を吸い込んだ瞬間、ドアがノックされる。

 空気の漏れる風船のように息を吐きながら、ソラは今がどういった状況か再認識。

 いくらいい雰囲気になっても、このタイミングは絶対にあり得ないと思い直した。


「……おるだろうか」


 ドアは開かず、押し殺したような声だけが聞こえる。


「返事はしなくてもよい……。正面の武器庫の中へ来てくれ……」


 その言葉の後、武器庫の扉が開閉する音が聞こえ、辺りに静寂が戻る。

 二人は顔を見合わせて頷き合うと、部屋のドアからそっと顔を覗かせた。

 おそらくアーカリア王は、付き人を誰も立てずにここまで来たのだろう。

 それほどまでに、この秘密は重大なものなのだ。

 廊下に誰もいないか目視で確認し、念のために気配も探る。

 周囲に人がいないことを確かめたセリムは、ソラに合図を送ると武器庫の中へ。

 ソラも素早く移動し、後ろ手に武器庫の扉を閉めた。


「……王様、いませんね」


 武器庫の壁一面には剣や槍が立て掛けられ、部屋の中には大量の鎧が並んでいる。

 床の上に並んだ木箱の中身は盾や籠手。

 人の姿はなく、いるはずの王の姿すらどこにも見当たらない。


「セリム、気配探ってみたら?」

「それが手っ取り早いですね」


 ソラの提案に従い王の気配を探ると、武器庫の奥、壁の向こう側から王の気配を感じ取る。


「……これは、隠し部屋にいるんでしょうか」


 武器庫の奥に向かい、突き当りの壁を調べる。

 石壁を入念に観察する中で、長方形の石の並びの中に一つだけ正方形の石を発見。


「これ、怪しいですね」

「こういうのってさ、押したら隠し扉出現ってのが冒険モノのお約束だよね」

「そうなんですか。まあ、押してみます」


 常識的な範囲の力で正方形の石を押してみる。

 すると、石がボタンのように奥へとスライドし、壁が驚くほど静かに両側へとスライドした。


「やっぱり。お約束だね」

「ふむ、さすがだな。案内無しでもここまでは簡単に辿り着くか」


 隠し扉の向こう側、薄暗い隠し部屋にアーカリア王の姿。

 セリムの探知能力があればこの程度の仕掛けを見破ることは容易いと踏んで、彼はあえて案内をしなかった。

 二人が隠し部屋に足を踏み入れると、石壁が自動的にスライドし、入り口が閉じられる。

 王が片手にぶら下げているランタンが、暗闇の中で光を放ち、室内を淡く照らした。


「王様、この隠し部屋は……」

「うむ、ここは国の宝を収蔵してある秘密の倉庫、といったところだ。この倉庫自体も相当の機密事項なのだが、お主らになら知られても問題はなかろう」

「にゃっ! この剣、もしかして……」


 隠し部屋の壁に立て掛けられた剣が放つ独特なオーラを、剣士であるソラは敏感に感じ取った。

 鞘に納められてはいるが、圧倒的な存在感と力の迸りが、只ならぬ剣であると如実に物語っている。


「ほう。やはりそなた程になると分かるのだな、ソレスティアよ。そう、それこそが刀匠スミス・スタンフィードがアダマンタイトを用いて創り上げた、世界最強の剣だ」

「おぉぉぉぉぉ! これが、アダマンタイトの剣!」


 ずっと追い求め続けてきた物が、目の前にある。

 ソラは目を星のように輝かせ、立て掛けられた剣を色んな角度から見回す。


「あ、あの……、王様。これ、抜いちゃってもいいですか?」

「別に構わぬが、感動は後に取っておいた方がいいのではないか?」

「うにゃ、それもそうだ! でも……、うぅ、悩ましい……」

「ソラさん、ソラさん」


 いつもの調子で百面相を繰り広げるソラの肩を、セリムは軽く叩く。


「何さ、セリム。あたし今、とっても悩んで……」

「王様の前ですけど、キャラ作らなくてもいいんですか?」


 鋭いツッコミに、ソラの表情が凍りつく。

 目的を前にテンションが上がり過ぎて、王の御前であることを忘れていた。

 おもむろに佇まいを直し、表情を貴公子然と引き締めて、ソラは王の前に跪く。


「アーカリア王に置かれましては、ご機嫌麗しゅう……」

「良い良い、公の場でもなし、堅苦しい挨拶も態度も無用だ。楽にしてくれて構わん」

「そうですか、では——ふぃー、良かったぁ」


 せっかくの引き締まった王子様フェイスが緩みきったアホの子に戻ってしまい、セリムは少々残念に思った。


「ところで王様、アダマンタイトが採れる場所は一体どこにあるんでしょう」

「それはな、この隠し宝物庫に隠された、さらなる隠し扉の向こう側だ」


 薄暗い宝物庫の右奥、大きな宝箱をどかした王は、その下に隠されていた引き戸を開ける。

 隠されていた小さな窪みの中には、古びたバルブが一つ。


「部屋の中央からは退いておいた方がいいぞ」


 忠告に従って二人が隅の方に寄ると、王は力を込めてバルブを回した。

 二回転、三回転と回し、五回回したところで中央の床が左右に開き、地下へと続く隠し階段がその姿を現す。


「この下だ、付いてくるがいい」


 ランタンの明かりを片手に階段を下る王に続いて、セリムとソラも隠された秘密の領域へと足を踏み入れた。


 暗く湿った石造りの螺旋階段を、アーカリア王の先導で下っていく。

 まるで地の底へ続いているような下り階段を、彼女たちはかれこれ十五分ほど進み続けていた。


「とっても長い階段ですね。あとどのくらい続くのでしょう」

「そうだな、目的の場所まではあと五分といったところか」

「そんなに長いんだ! ……長いんですか!」


 貴族モードが抜けたソラは、すっかり無礼者になってしまっていた。

 歩みを進めながら、セリムは苔むした石の壁と天井を観察する。


「使われている石も、随分古い感じです。切り出し方が粗いと言いますか、技術的にかなり古い年代のものみたいですね」

「そうであろう。なにしろこの場所は、アーカリア城が出来る前から存在しているのだからな」

「アーカリア城が……。それってつまり、七百年以上前からですか」

「……これから耳にする事柄、目にする全て、ことごとく他言無用に願う」

「もちろんです」

「あたしも、口は固いから! ……固いですから!」

「うむ。お主らを信頼しておるぞ」


 王は深く頷くと、誰も知らないアーカリア王国の成り立ち、その秘密の一端を語り始める。


「貴族街を構成する坂、そして坂の上の高台に鎮座する王城、この形状から察しておるかもしれぬが、アーカリア王国が出来る前、ここには山があった」

「ですよね、山みたいな地形だとは薄々……」

「その山の頂上には小さな祠があったのだ。その山の地下深くに眠る、あるモノを祀るための祠がな。今から向かうのは、そのモノが眠る地下祭殿。かつては祠の中にあったこの階段のみが、その場所へと続いている」

「……祀られてたってことは、つまり祀っていた人もいたんですか?」

「察しがいいな。代々その存在を祀っていた一族こそ、アーカリア一族。すなわち我らの祖先だ」

「王族が代々祀って、こんなに厳重に存在を隠し通すなんて、一体何が眠って……」

「それは自分の目で確かめるがよかろう」


 そこで話は打ち切られた。

 三人は黙々と階段を下り続け、やがて最後の段を下りる。

 到着した場所は小さな地下空間。

 周囲は石ではなく土で固められ、大きな両開きの扉が存在している。

 その扉の素材は、なんと木製。


「木の扉、ですか!? こんな場所で、何百年も朽ちることなく存在し続けるなんて……。それに壁や天井も、土が剥き出しです。木組みの補強すらしてないのに、崩れないんですか」

「これも全て、この扉の向こう側に眠る存在の持つ、絶大なる魔力の成せる業だ」

「ねえセリム、一体なにがいるんだろ」

「さっぱりです。見当も付きませんよ」


 木を腐らせずに長年保ち続け、柔らかな土を固めたまま崩さない。

 セリムにすら、土属性の魔力の持ち主だろう程度の予測しか立てられなかった。

 扉の前に立ったアーカリア王は、王冠を外し、その裏側に仕込まれた隠し蓋を開ける。

 その中から取り出したのは、古びたカギ。


「王様、それは?」

「これこそ我が王家が王位と共に代々受け継いできた、最後の封印を解くためのカギだ」


 扉に付いたカギ穴に、カギを差し込む。

 ただそれだけで、扉は不可思議な光を帯び、一人手に開け放たれた。


「付いて参れ。くれぐれも、足下に気を付けてな」


 扉の向こう側へと、王は歩を進める。

 セリムとソラも顔を見合わせると、彼の後に続いた。


「この先で、アダマンタイトの素材が掘れるんだよね。……ですよね」

「掘れる、という表現は正確ではないな」


 扉をくぐると、そこは完全なる闇が支配する広大な地下空間。

 王の持つカンテラの光だけが足下を頼りなく照らし、進むべき道しるべとなる。

 文字通り地の底、奈落の深淵を歩いているような、何かに吸い込まれてしまいそうな感覚になり、ソラとセリムはどちらともなく手を握り合った。

 三十メートルほど歩いたところで、王は歩みを止め、後ろを振り返る。


「ここが終点だ」

「終点って……、まだ先がありそうですけど」

「先はある。果てしない地下空間がな。だが、儂らが行けるのはここまでなのだ」

「んー、何で? よくわかんないや。とりあえず、まだ先はあるんでしょ。あたし行ってみる!」

「ちょっ、ソラさん!?」

「いかん! それ以上進んでは……!」


 セリムの手を離し、王の忠告もスルーして、ソラは先に進んでしまった。

 王を追い越して更に二歩進んだところで、足が空振り、体がふわりと宙に浮く。


「……へ?」


 次に、ぐらりと体が傾き、虚無の如き深淵の暗闇に体が落下していく。


「のわっとと!」


 成長した身体能力を駆使して思いっきり体を捻り、なんとか崖端に捕まったソラ。

 顔を青くしながら這いあがると、バクバクと跳ねる心臓を押さえて荒く息を吐く。


「し、死ぬかと思った……」

「アホですか! 何こんなところで死にかけてるんですか! アホアホ! ソラさんのアホっ!」


 ソラに泣き付き、抱きしめるセリム。

 王の位置から半歩進めば、底も天井も見えない広大な地下空間が広がっている。

 セリムと抱き合いながら深淵を覗き込み、ソラの背筋に寒気が走った。


「こ、ここに落ちたら、間違いなく死ぬよね……」

「当たり前ですよ! もう、私を置いて死ぬつもりですか!」


『騒がしい……。我が眠りを妨げる者、いずこに在るか』


「……へ? 今の、誰の声です?」

「おぉ、お出でになられましたか」


 アーカリア王が、この国で最高の権力を持つ統治者であるはずのアーカリア王が、跪いてこうべを垂れた。

 ソラと抱き合いながら、あまりのことに目を白黒させるセリム。

 同時に彼女は、自分と同等、もしくはそれ以上の力を持つ存在の気配を感じ取る。

 遥か彼方の暗闇に、淡く光る影が見え隠れし、次の瞬間、巨大な龍が崖の下から唐突に顔を出した。


「うっぴゃあああぁああぁぁぁぁ!! 出たあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お、お城の地下にモンスター!? それもこの力、タキオンドレイクと同等の……!」


『我をモンスター呼ばわりとは。あのような紛いもの共と一緒にするでない。しかしタキオンドレイクか、懐かしい名だ。それに小娘、そなたからはあやつの力を感じるな』


「しゃ、喋ってる……。あたしの頭、おかしくなっちゃってないよね」

「わ、私にも聞こえてます、ソラさんは正常です。それにしても、信じられません……」


 セリムはなおもソラと抱き合いながら、改めて目の前に現れた未知の存在を観察する。

 土色の甲殻に包まれた、百メートル以上の規格外の大きさを誇る龍。

 身体中から溢れ出る魔力が放つ淡い燐光に身を包むその巨体。

 魔物特有の禍々しさは全く感じられず、むしろ神々しい印象すら受ける。

 背中には大きな二対の翼。

 逞しい四肢と長い尻尾を持ち、まさにドラゴンといった風貌だが、その風格はヴェルム・ド・ロードですら足下にも及ばない。


「あの、王様。こちらのドラゴンさんは一体……」

「このお方こそ、アーカリア王家が代々祀り、その存在を秘匿し続けてきた御神体そのもの。太古の昔、ヒトのためにノルディス神と共に立ち上がり、邪神に戦いを挑んだ三体の龍が一つ」


『娘よ。お主、アイテム使いだな。もしや、マーティナの弟子か』


「は、はい。そっか、師匠とも会ったことあるんですよね」


『あの女の弟子ならば、知る権利もあろうか。よかろう、我が名を聞かせてやる』


 龍はその双眸に確かな知性の光を宿し、

自らの名を口にした。


『我が名はアビスドレイク。地厳龍じげんりゅう・アビスドレイクである』

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