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捕獲されました。[連載版]  作者: ねがえり太郎
捕獲されまして。 <大谷視点>
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27.慣れてますね。



体育座りした太腿にバスタオルを引くと、うータンを撫でるリズムを変えずにスッと首の皮を掴みお尻を支えて持ち上げる。慣れた手付きでスムーズにうータンを膝に抱え上げ、亀田は安心させるように再び撫で始めた。


「うータン、これからブラッシングするからなー。スッキリするからちょっと我慢してくれよ。頑張ったら、後でご褒美上げるからな」


あくまで優しく、恋人か娘に語りかけるように声を掛ける亀田。


本当に別人だな、特に声の調子が。

会社の低くて硬質な声を覚えているからギャップがスゴイ。やっぱこれ、三好さんには見せられない光景だわ……。


「じゃあ、櫛入れるぞー」


慣れた手付きでゆっくりとうータンの毛皮をくしけずる。私はテーブルに肘を付いてその様子を眺めた。


「やっぱ慣れてますねぇ」

「まあな、最初スリッカーズを買ってしまって失敗したがな。短毛種はこういう櫛がやっぱり梳かしやすいよな。ラバー製のスリッカーズは便利だったが」

「へー、あれやっぱイイんですね。使い易そうだなって思ってたんですよ」


スリッカーズとは櫛部分が細い針金状になっている、動物用のブラシのようなものだ。毛が絡まり易い長毛種には良いけれども、毛が短い種類のウサギにはちょっと合わないらしい。だから私はプラスチックの櫛を使って梳かすのが常だった。でも亀田課長が使ってたようなラバー製の物も気になっていたんだ。程好く柔らかくて、ラバー面に短い毛がくっ付いて抜け毛がごっそり取れそうだと想像していた。


亀田課長ってよく研究しているよな。確かウサギ歴二~三年くらいだっけ?私と大して変わらないウサギ歴なのにずっと詳しいような気がする。凝り性って言うのもあるのだろうけど、それだけミミを愛していたんだろう。


なのにこれだけ気を配っていたのに……ミミはお月様に帰ってしまったんだなぁ。


ウサギはネズミと一緒で多産だ。多産と言う事は生き残る数が少ないという事で。腫瘍ができ易いとも言われているし、げっ歯類だから歯の減りが上手く行かず、嚙み合わせが悪くなっても体調を壊す原因になったりするらしい。草食動物だから長い腸を常に動かさなきゃならない。だから少し腸の動きが滞っただけで、死に至る場合もあるらしい。


一方で長生きする子は十数年、健康でいる事もあって。

長寿ウサギのWEBサイトなんてものもあったな。確か五年以上で会員登録できるんだっけ。だから亀田課長が、ミミが二~三年でお月様へ帰ってしまった事にショックを受ける気持ちも分かる。


多分、ミミが体調を壊した原因は、亀田課長にある訳ではないのだろう。愛情を掛けていたって事は、うータンの扱いを一目見ただけで分かる。

こうして見ている間にも、彼は慣れた手付きでうータンの体勢をクルリと変えて仰向けにしお腹の毛を梳り始めた。


ウサギは足が浮いた状態や、お腹が無防備な事に不安を覚えるそうだ。だから慣れないうちは仰向けにするのは、なかなかスムーズに行かないものなのだ。ブラッシングや爪切りなどの為どうしても仰向けにしなければならない時は、ウサギが気付かない内にサッと体勢を変えなければならない。亀田課長も難なくうータンをひっくり返し、バスタオル越しに足の間にピッタリと固定してしまった。


しかしうータンの格好……プププ。可愛すぎる。

私がニヤニヤそれこそスケベ親父のような怪しい目線でその光景を眺めていると、亀田が優しく櫛を当てながら、うータンから目を離さずに呟いた。


「うータンには気の毒だが……俺は仰向けになって、急に大人しく固まってしまうウサギが物凄く可愛くて堪らないんだ」

「!……私もです。きっと恐怖心で固まっているのだろうなぁ、と思いつつ……悪いなとは思うんですけど、どうしてもニヤついてしまいます」


現に今!ニヤついているしね。

うータン、酷い飼い主でゴメンね……!


そんな下らない話をしつつ亀田が毛づくろいを終え、それからうータンにご褒美を与えて―――また、まったりして。


何だかノホホンとした空気が、流れている。


うータンと二人(?)切りの時間も嬉しいけれど……ウサギ好きの人と一緒に過ごすのもいいもんだな。同じ物を好きな人といるのって―――結構楽しいモノなんだなって、その時思った。



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