15.想像してます。
目黒と三好はすぐに打ち解けた訳では無かった。
しかし日が経つにつれ二人の間に会話が増え、課内に存在していたギクシャクした空気も徐々に和らいでいった。
そんなある日、自販機前で目黒と三好が何やら立ち話をしている所を見掛けた。
楽しそうに笑って話をしているので、邪魔しないようにとこっそり踵を返す。
すると聞き覚えのある単語が背中に振って来た。
「……『コワモテ眼鏡』?」
「いや、『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』だって……!」
「ぷっ……は、はまり過ぎ……」
「ね!」
と、クスクス笑いが背中から響いて来た。
くっそ!
楽しそうに人の渾名で笑ってんじゃねえ!
コワモテで悪かったな。
俺は元々は普通だったんだ、課長になってからますます……それより課長はコワモテで迫力あるぐらいでちょうどいいだろ?万が一課長が可愛かったら、誰も言う事聞かんだろ!
……ん?『課長』が……可愛かったら……?
例えばミミが課長だったら。
……か、可愛すぎる……
小さなネクタイを首に巻き付け、俺の机の上にちょこんと丸くなる黒ウサギ。
ミミはPCなんか使わないから、閉じたPCをホットカーペット代わりにして上にのっかり、ヌクヌクと暖を取るんだ。
ミミが課長だったら―――俺は全力で課長を支える!
ミミのために外回りを頑張り、業績を上げる。課長がやらねばならない書類作りも全部代行するし、営業課社員の指導も喜々としてミミの代わりにやってしまうだろう。
外回りから戻る時は、コンビニに寄って野菜パックを買いお土産と称して手ずから与える。こちらも仕事の労を報いるご褒美として、外回りから帰社するたび、ひと撫でさせて貰おうか。
―――しかしミミが営業課長になったら、名物課長として有名になってしまうだろうな……昼休みにはミミに触ろうとする輩が列をなすに違いない。
うーん、ミミにはちょっとストレスかもしらんな。触られ過ぎは苦痛だろう……。ミミのような可愛い課長であっても、やはりストレスからは逃れられないものだな。
俺は妄想に終止符を打ち、ウンウン頷きながら営業課の自分の机へ戻ったのだった。




