送風機
「エルンスト?何してるの」
早朝、眠い目をこすりながらベルが一階のアトリエへ降りてゆくと、エルンストが実験器具をがちゃがちゃいわせて何かぶつぶつ言っていた。
「黄砂はアルカリ性だ!」
「なんでわかるの?」
「実験したんだ」
「?」
黄砂をどうやって手に入れたんだろう?ベルは首をかしげた。
そういえば、玄武岩の粉もいつのまにか持っていたし。あの時はあらかじめ用意してから旅に出たのかな?用意がいいな、くらいにしか思わなかったが、これはどういうことだろう。
「どうやって黄砂を今ここに持ってきたの?」
「実は俺……」
エルンストはマントを羽織り、どこからか紅い宝玉のついた杖を出して右手に持った。
「大陸魔法協会の魔法使いなんだ」
「うそつき!」
「うそじゃない。みてろ!」
エルンストが呪文を唱えると、何もない中空に石が数個現れて、またべつの呪文でそれらが粉々にすりつぶされた。
「こいつが玄武岩の粉!そして、」
次の呪文で砂が手のひらいっぱい現れた。間違いなく黄砂だった。
「だましたのね」
「なにが?」
エルンストはきょとんとした。
「乙女心を踏みにじって!」
「なんのこと?!」
なんかよくわからんが、ベルがショックを受けたらしいので、落ち着くまでエルンストは待っていた。
「あのー、ベル、さん?」
「何?」
「最初の日に使った温風機の構造教えてもらえないかな。そして、できれば、温風じゃなくて、普通の風が出るように改造可能かな?」
「熱線を使わなければ、送風機が作れるわ」
「じゃあ、その設計図もらえないかな?」
ベルはさっさと設計図を書き上げた。
「どうするの?」
「これの大型と強風のやつを幾つか生産して魔法で補佐して黄砂を北部まで運ぶんだ」
「そう。……じゃあ、もう、ここには用はないのね」
「いや、その、追って魔法協会からお礼の品々が届くし、用がないわけじゃないし、まいったな」
「さよならエルンスト」
「その、手紙を書くよ」
パタン。
アトリエの扉の閉まる音が寂しく響いた。




