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勇者の商人  作者:
【特別編】THE ELF 勇者様と王女様

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救出作戦

 頭突きと流血で幕を閉じた戦いの果てに、勇者ヴェルクトとエルフ国サイフェリアの王女ユーロックとの間には変な友情と信頼関係が成立したらしい。

 結果、ヴェルクトの相方である俺の言葉を受け入れたユーロック王女はビンレイ枢機卿、フレイツ伯爵への制裁の保留、シグルーダ王女の救出に向けた海の怪物リザイリアの討伐への協力に同意してくれた。

 

 本来のリザイリア討伐計画は、時間と人員を大量に投入する大規模作戦だったが、ユーロック王女たちを長く待たせるわけにもいかない。

 エルフとヴェルクトの手が借りられるうちに、少人数で勝負をかけることにした。

 ユーロック王女と白装束を連れて港湾都市グラールに向かった俺とヴェルクトは、勅許会社の出張所からジース造船所に連絡を入れ、ボーゼンが研究している魔導船ラヴァナス号と合流した。

 ボーゼンがラヴァナス号に積んできたケースを船上で開け、一本の大剣をヴェルクトに見せる。

 

「オリハルコン・アダマンティア合金第三世代鍛造剣、マキア・レキシマ。対大型魔獣用魔導回路、巨刃回路のテストベッドだ。見ての通り魔導回路の小型化が全く進んでないんだが、リザイリアへの切り札になる」


 刀身長二ヤード、柄も一ヤード以上の長さを持つ化け物サイズの大剣だ。

 

「ばすたー?」


 さすがに重かったらしい。珍しく「よいしょ」と声をあげ、ヴェルクトは化物大剣を持ち上げた。

 

恐怖の蛇竜テラーワームクラスの超大型魔獣とやりあうための回路だ」


 ゾンダ大会戦では龍脈砲レイラインバスターでの支援が間に合ったが、外部からの支援なしでも超大型魔獣とやりあえる装備が要ると考え、開発を進めている。

 

「刀身を空に向けて、安全装置を外してくれ」


「これ?」


 マキア・レキシマの柄に取り付けられたリング型の安全装置を捻り、ヴェルクトはマキア・レキシマに魔力を通す。

 巨大な刀身を白い光刃が覆う。

 光刃は瞬く間に伸び、膨れ上がって、刃渡り三十ヤードを越す光の巨刃になった。

 ヴェルクトは目を輝かせ、「なにこれすごい!」と声をあげた。


    †$


 俺とヴェルクト、エルフたち、ボーゼンを乗せたラヴァナス号はランス湾沖合の潮目に向かう。

 これまでの行動パターンからリザイリアの棲家と推測されている海域だ。

 リザイリアの活動時間は夜間から早朝。投錨して日没を待つ。

 だが、リザイリアの動きはこちらの想定よりだいぶ早かった。

 

 金色の太陽が沈むより早く、ラヴァナス号の船体に衝撃が走り、傾いた。

 海中の何かがラヴァナス号の錨を掴み、恐ろしい力で引いていた。

 

「来おったぞ」


 ラヴァナス号を操るボーゼンは冷静に言いつつ錨を切り離し、ラヴァナス号を急前進させる。

 海面から、巨大な手が突き出した。

 粘液でできた女の手。

 リザイリアの手だ。

 ラヴァナス号を転覆させるつもりだったようだが、ラヴァナス号は古代魔導文明の魔導船を修復したものだ。

 普通の船とは次元の違う運動性を持っている。

 リザイリアが海面に現れた時には、すでに距離を確保していた。

 

 海面に上体を突き出したエルフ型の粘液塊、リザイリアの姿を見上げたユーロック王女は「いました! 姉です!」と声をあげる。

 

「シグルーダ王女で間違いありませんか?」


「はい! 首の付け根あたりに!」


 ユーロック王女はそう言ったが、俺の眼じゃわからない。

 

「見えるか?」


「うん」


 マキア・レキシマを担いだヴェルクトは頷く。

 

「始めてくれ。問題は一番最後だ。気を抜くなよ」


「わかってる。王女様、行こう」


「はい、勇者様」


 気心の知れた調子で言葉をかわし、ヴェルクトとユーロック王女は頷きあう。

 フレイツ伯爵邸での戦いですっかり意気投合したようだ。

 あの殴り合いで意気投合してしまう感覚は俺にはさっぱり理解できないが。

 リザイリアがこちらに向き直った。

 粘液でできた両手を変形させ、巨大な弓矢に変えて引き絞る。

 

 妖精弓エルヴンボウ

 

 矢に精霊の力を乗せ、一種のエネルギー塊に変えて撃ち出す技法。

 シグルーダ王女が得意としていたそうだ。

 

さん!」


 ユーロック王女の言葉を受け、白装束のエルフたちが船べりから海面へと身を躍らせる。

 そして当たり前のように海面を走り出す。

 水の精霊の力を借り、水面を足場に変えていた。

 

 リザイリアの妖精弓エルヴンボウの標的はラヴァナス号。

 白い光をまとった巨大な矢が解き放たれ、まっしぐらに飛んでくる。

 それと同時に、ヴェルクトとユーロック王女も船べりから跳ぶ。

 

 マキア・レキシマの巨刃回路が励起、展開した光の巨刃が、妖精弓エルヴンボウの光矢を真っ向から捉える。

 両断された光矢の精霊力が空中で二つに別れて炸裂した。

 

 ヴェルクトとユーロック王女が海面に降り立つ。

 ヴェルクトの足場は、そばにいるユーロック王女が支えてくれていた。

 

 勇者と王女は海面を蹴る。

 リザイリアは二射目の妖精弓エルヴンボウで二人を迎え撃つ。

 

 だが、二人のスピードについていけていない。

 光矢は二人の後方に着水、炸裂した。

 

 二人よりもむしろラヴァナス号のほうが影響が大きい。

 俺は揺れて傾くラヴァナス号のマストにしがみついた。


 妖精弓エルヴンボウは通用しないと悟ったようだ。

 リザイリアは海中にある下半身をクラゲの触手の群れのように変え、海面から突き出した。

 

 ボーゼンの見解では、クラゲの触手と同様、刺胞と呼ばれる細い毒針を撃ち出す機能があるらしいが、ヴェルクトとユーロック王女を止めるには至らない。

 

 先行した白装束のエルフたちが斬り込んで手刀で断ち切り、二人の進路を切り開いていく。

 

 ヴェルクトがリザイリアの正面へ踏み込む。

 光の巨刃が一閃、リザイリアの首を撥ね飛ばす。

 ヴェルクトはさらに光刃を切返し、左右の肩をも切り飛ばした。


「王女様!」


 ヴェルクトはユーロック王女に手を伸ばす。

 

「はいっ!」


 ユーロック王女は海面を蹴り、ヴェルクトの手の上に片足で乗る。


 ヴェルクトは、王女の体を真上に投げ上げる。

 

 エルフの王女は体勢を崩すこともなく空中高く舞い上がり、そこから虚空を蹴りつけ軌道を変えた。

 風の精霊の力を借り、圧縮した空気を足場にしたらしい。

 リザイリアの首元にも圧縮した空気の弾を大量に撃ち込んで破裂させ、内部に取り込まれたシグルーダ王女の周囲の組織を吹き飛ばす。

 リザイリアに取り込まれないための風の衣を展開しつつ、ユーロック王女はリザイリアの体内に突っ込む。

 姉、シグルーダ王女の体を掴み、後方へと突き抜けた。

 弧を描いてリザイリアの背後に落ち、水柱を立てるユーロック王女とシグルーダ王女。


 この時点でヴェルクトの足場はただの海水に戻っていたが、海中に沈む前に白装束のエルフの一人がフォローに入り、再び足場を作り直した。

 ユーロック王女とシグルーダ王女を追い、リザイリアは背中を触手の群れに変形させ、伸ばそうとする。

 だが、リザイリアがシグルーダ王女を取り戻すことはなかった。

 

 マキア・レキシマの光刃が縦横に、竜巻のように乱れ舞い、リザイリアを寸断する。

 一撃で焼き払うとはいかないが、マキア・レキシマの光刃は一閃するたびにリザイリアの体組織を焼き切っていく。

 リザイリアはヴェルクトに向き直り、触手を撃ち込もうとするが、すでに大勢は決していた。

 

 白装束の一人にシグルーダ王女の身柄を預けたユーロック王女が、ヴェルクトの前方に現れる。

 圧縮空気の弾丸がリザイリアの触手の群れを迎え撃ち、その全てを砕く。

 そこから先は、作業のようなものだった。

 

 反撃を封じられたリザイリアは、マキア・レキシマの斬撃を受けるたびに組織を破壊されてゆき、やがて巨大生物としての機能を停止した。

 形を失い、崩壊し始めるリザイリア。

 リザイリアには自身を追い詰めた存在に寄生、もしくは吸収し、その形態を模倣しようとする性質がある。

 敗北を悟ったリザイリアは海中で体長一ヤードほどのイカのような体を構築、ヴェルクトの下方に回り込み、死角から襲いかかろうとした。

 だが、その習性はヴェルクトたちに伝えてある。

 マキア・レキシマが海を薙ぐ。

 海面を断ち割った光の巨刃は海中のリザイリアをあっさりと両断し、消滅させた。

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